テラーノベル
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冷たい雨が、FORSAKENの荒れ果てた街を静かに濡らしていた。
崩れた建物。
水たまりに映る割れた街灯。
どこからともなく聞こえる金属音だけが、不気味に辺りへ響いている。
そんな廃墟の一角で。
「よし……! ( `ー´)」
ヴェロニカが発電機のレバーを勢いよく回した。
火花が散り、機械が力強く唸り始める。
「あと一台……!」
その隣では、シェドレツキーがリンクソードを構えたまま周囲を警戒していた。
雨粒が白い「BLAME JOHN」のシャツを濡らしていく。
「……静かすぎる」
小さく呟いた、その時だった。
ドス……
ドス……
ドス……
重い足音。
雨音とは明らかに違う、地面を震わせるような音。
それと同時に、街の奥から濃緑色の炎がゆっくりと立ち上った。
空気そのものが腐食していく。
「来る!」
シェドレツキーが剣を構え直す。
暗闇を裂くように姿を現したのは。
頭にはドミノクラウン。
肩には赤いケープ。
半透明の緑色の身体の奥には、黒い肋骨。
そして右手には、毒剣ヴェノムシャンク。
1x1x1x1だった。
「出た!」
ヴェロニカが思わず叫ぶ。
「スケスケ緑男!」
「誰がスケスケ緑男だ!!」
いきなり本人からツッコミが飛んできた。
「1x!」
シェドレツキーが前へ出る。
「来るなら俺が相手だ!」
リンクソードを真っ直ぐ構える。
だが。
1xはシェドレツキーを見るなり。
「……チッ」
盛大に舌打ちした。
「……はぁ」
「またお前か」
心底やる気のない声だった。
「お前追いかけてもテンション下がるんだよなぁ」
「え?」
シェドレツキーが固まる。
1xはヴェノムシャンクを肩へ担ぐと、そのままシェドレツキーの横を素通りした。
「……」
完全無視。
「あれ?」
「俺?」
シェドレツキーは剣を構えたまま取り残される。
次の瞬間。
1xは勢いよく方向転換した。
「お前だぁぁぁッ!!」
「えっ!?」
ヴェロニカだった。
「なんで私ぃぃぃ!? (@_@)」
「うるさい!」
「お前の方が追い掛け甲斐あるんだよ!!」
「意味分かんないってぇぇ!!」
ヴェロニカは全力疾走。
1xも全力疾走。
雨の街を二人がものすごい勢いで駆け抜けていく。
その後ろを。
「待てぇぇぇぇ!!」
シェドレツキーが必死に追い掛けていた。
「1x!」
「俺を無視するなぁぁ!!」
「聞こえませーん」
「おい!」
「聞こえてるだろ!」
実際には聞こえていた。
むしろ物凄く聞こえていた。
だが。
シェドレツキーを真正面から追うと。
昔のことを思い出してしまう。
神殿で笑い合ったこと。
頬を触られたこと。
封印される直前に握った手。
そんな記憶が全部頭へ浮かんできてしまう。
すると。
剣が鈍る。
手が止まる。
だから。
「よし」
「見ない」
「追わない」
という1xなりの苦肉の策だった。
本人は絶対に認めないが。
試合も終盤。
別エリア。
シェドレツキーは単独で発電機へ向かっていた。
「あと少しでみんなが脱出できる……」
そう呟いた瞬間。
ズルッ
「しまっ……!」
足元の影が大きく膨らむ。
蠢く花の触手が一斉に足へ絡み付いた。
「ぐあっ!!」
勢いよく壁へ叩き付けられる。
ドォン!!
息が詰まる。
「っ……!」
「身体が……」
花の触手には毒が仕込まれていた。
立ち上がれない。
暗闇の奥から。
スペクターの従者であるアズールがゆっくり近付いてきた。
触手が振り上げられる。
「終わりか……」
シェドレツキーは静かに目を閉じた。
その瞬間だった。
ザァンッ!!!
緑の炎を纏った斬撃が飛来して、アズールの触手を斬り落とす。
「グァッ!!」
アズールが悲鳴を上げて後退した。
その一瞬の隙に、シェドレツキーは物陰へ転がり込む。
アズールは警戒して距離を取り、そのまま別方向へ去っていった。
静寂が戻る。
シェドレツキーは壁にもたれながら息を整える。
その視界の端。
壁の向こうへ隠れたつもりの1xが見えた。
赤いケープが丸ごとはみ出している。
全然隠れられていない。
「……え?」
シェドレツキーが目を丸くする。
1xも。
「……あ」
ようやく我に返った。
しまった。
完全に助けちゃった。
顔から一気に火が出そうになる。
実際、炎も真っ赤になった。
「かっ……」
「勘違いするなよバカ!!」
「救けたわけじゃねぇからな!!」
「え?」
「でも今……」
「違う!!」
「お前を殺す権利は俺だけのものなんだよ!!」
「他の雑魚に横取りされたら腹立つだろ!!」
「つまり助け」
「助けてない!!」
「死ね!!」
「いや死ぬな!!」
「……どっち?」
「うるさい!!」
完全に言葉が迷子だった。
1xは誤魔化すようにシェドレツキーの腕を掴み、強引に立たせる。
「ほら」
「立て」
「……怪我」
少しだけ声が小さくなる。
「痛むのかよ」
シェドレツキーは笑った。
「ううん」
「1xが助けてくれたから大丈夫」
「だから助けてねぇぇぇぇ!!」
炎がボンッと爆発した。
その反応がおかしくて。
シェドレツキーは思わず笑ってしまう。
「ありがとう」
「やっぱりお前は俺の最高の……」
「黙れ!!」
1xは耳まで真っ赤だった。
「発電機直しに行け!!」
「次会ったら絶対追い掛けるからな!!」
言うだけ言って。
濃緑色の炎の中へ飛び込む。
数秒後には影も形も消えていた。
もちろん。
次の試合でも、シェドレツキーだけはほとんど追わなかった。
遠くの瓦礫の上。
ヴェロニカはその一部始終を腕組みしながら眺めていた。
そして無言でメモ帳を開く。
カタカタと入力する。
『メモ』
『緑のキラー、ツンデレが重症。』
『シェドレツキーを追わないどころか救出した。』
『もはやキラーではなく守護霊かもしれない。』
『ツッコミ担当が足りない。助けて。 φ(・・』
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