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#見捨てられた
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サバイバーロビーとキラー領域の狭間。
光も闇も曖昧に溶け合う虚無の空間で、スペクターは豪奢な浮遊チェアにゆったりと腰掛けていた。
赤いシルクハットのつばを指先でくるくるとなぞりながら、眼下の世界を見下ろして楽しそうに笑う。
「ふふっ……困るなぁ、1x1x1x1くん」
「君はFORSAKENでも屈指のキラーなんだよ? サバイバーを絶望させて、希望を砕いて、悲鳴を聞かせてくれないと」
「シェドレツキーくんを庇って、僕のキラーの邪魔しちゃうなんて」
闇の奥で、黒緑の炎が静かに揺れた。
その中から現れたのは、ヴェノムシャンクを肩に担いだ1x1x1x1。
ドミノクラウンの下で赤い瞳だけがギラリと光る。
「……何の用だ、赤い帽子」
「俺の獲物に口出しするな」
「獲物、ねぇ」
スペクターは嬉しそうに肩をすくめた。
「でも君たち、本当に面白いよ」
「憎んでるのに離れられない」
「殺したいのに助けちゃう」
「そんなぐちゃぐちゃの感情、大好物なんだ」
スペクターが両手を広げる。
空間がぐにゃりと歪み、その中央に一人の姿が映し出された。
「っ……!」
不可視の鎖に縛られ、膝をつくシェドレツキーだった。
「1x!」
「スペクター! 何をする気だ!」
「やあ、シェドレツキーくん」
スペクターは満面の笑みで手を振る。
「安心して。今日は殺さないよ」
「代わりに、とっても素敵な提案をしようと思ってね」
その視線がゆっくり1xへ向く。
「君は帰りたいだろ?」
「Robloxiaへ」
「時間の黎明でも、この地獄でもない、自分の世界へ」
1xは黙って睨み返した。
「……続けろ」
スペクターは悪魔のように微笑んだ。
「君だけ帰してあげよう」
「ただし条件がある」
わずかな沈黙。
そして。
「シェドレツキーくんの魂と交換だ」
空気が凍りついた。
シェドレツキーは息を呑む。
スペクターは二人を交互に見ながら笑みを深める。
「どうかな?」
「ずっと恨んでいた相手だろう?」
「君を不純物と呼び、封印し、置き去りにした男だ」
「その命と引き換えに自由を手に入れる」
「最高の復讐じゃないか」
静寂。
数秒後。
「……ぷっ」
1xが吹き出した。
「……は?」
スペクターが固まる。
「ハハ……」
「ハハハハハッ!!」
1xは腹を抱えて笑い始めた。
「おい赤い帽子」
「お前さ」
「何にも分かってねぇな」
ヴェノムシャンクを持ち上げる。
その切っ先が、スペクターの鼻先をツン、ツン、ツンと突いた。
「おい」
「近いよ」
「知らねぇ」
さらにツンツン。
「現世に帰りたいのは事実だ」
「でもな」
1xは胸を張った。
「俺はこいつと一緒に帰るんだよ」
「……何?」
「こいつが作った世界で」
「こいつに飯作らせて」
「俺の文句聞かせて」
「毎日振り回して」
「死ぬまで世話させるんだ」
「こいつ死んだら全部できねぇだろうが」
スペクターは完全に停止した。
「…………」
「誰に愚痴るんだよ」
「誰に八つ当たりするんだよ」
「誰が俺を見てくれるんだよ」
「俺はこいつを殺したいんじゃねぇ」
「俺の目の届く場所に一生閉じ込めておきたいんだよ!!」
虚無の空間に沈黙が落ちる。
数秒後。
「ぶっ……!」
鎖に繋がれたシェドレツキーが吹き出した。
「ハハハハハ!!」
「1x、お前最高だな!」
「笑うなぁぁぁ!!」
炎が真っ赤になる。
「なんで笑うんだよ!」
「だって!」
「その告白みたいな内容で全力否定してるの面白すぎるだろ!」
「告白じゃねぇ!!」
「監禁宣言だ!!」
「もっとダメじゃないか!」
「うるさい!!」
暴れる1x。
笑い転げるシェドレツキー。
スペクターだけが一人、取り残されていた。
「……理解できない」
帽子を押さえながら呟く。
「人間の愛も」
「憎しみも」
「依存も」
「執着も」
「全部理解しているつもりだった」
「でも君たちは違う」
「ただのバグだ」
「ゲームバランスを壊す存在だ」
深いため息。
パチン。
指が鳴る。
鎖がほどけ、シェドレツキーは解放された。
次の瞬間、二人まとめて元のステージへ放り投げられる。
「うわっ!」
「っと!」
地面を転がって起き上がる二人。
「つまらない。」
「今日はもう終わり。」
スペクターはシルクハットを深く被り直し、先ほどまでの軽い笑みを消した。
紅い瞳だけが、静かに細められる。
「……でも。」
「これ以上、僕のゲームを邪魔するのなら。」
スペクターは椅子にもたれたまま、口元を歪ませた。
「こちらとしても、対応を考えないとね。」