テラーノベル
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リリアンナとあの女を同等に語られて、靡いたなどと言われてはどうにも納得がいかない。
だが、ダフネがそのようなことを言ったとすれば、彼女はきっと、セレノの中にあるリリアンナへの恋情のようなものを嗅ぎ取ったに違いなかった。だからこそ〝代わり〟と告げてきたのだ。
そこにはリリアンナに対する対抗心や、リリアンナへ向かう気持ちを自分へ向けさせたいという身勝手な独占欲のようなものが働いているように思えた。
そう言うのを諸々セレノへぶつけたんだろう。
そうして考えたくもないが、ダフネとリリアンナは一応に血が繋がっている。
……もしかしたら外部から見れば〝リリアンナに似ている〟と感じる審美眼のない者もいるかも知れない。
もしそれをセレノがダフネから感じ取っていたとしたら――。
(ダフネは計算高い。自分に勝算がゼロだと思えば、動かなかったはずだ)
だが、同時にランディリックは、マーロケリー国民の倫理観に、婚前交渉を厭うというものがあったことも記憶している。
(惹かれていても手は出さなかった可能性が高い……)
それで拒んだ、と判断したのだが……。
それにしては友ウィリアムの反応がいささかおかしいことも気になっているランディリックである。
(いや、まさかな)
思いはするものの、全否定は出来ない――。
「もちろん拒んだよ。だが……彼女が急に倒れ込み、僕は反射的に支えた。その時、体勢が崩れて……結果的に、僕が彼女に覆い被さるような姿勢になってしまった。……それでその時……」
セレノの声音は震えていた。
「――その瞬間を、俺が見たんだ。殿下はその、……ダフネの胸を鷲掴みにする形になっておられて……それで……」
ウィリアムが言いにくそうに声を揺らせる。
それを見たセレノが、小さく吐息を落とすと、観念したように口を引く。
セレノの目元は、どこか恥じ入るように潤んでいた。
「僕は……生まれて初めて女性の身体にまともに触れて……その、は、反応してしまっていたんだ……」
起き上がったセレノの下腹部はしっかりと兆していて、あまつさえ部屋には外へ声を漏らさないための〝静寂のヴェール〟が張られていた。それを張ることが出来たのはセレノ以外にはいない。
ダフネは庭伝いに窓から侵入したと思われたが、それだってまだ朝晩は冷える時期のこと。窓は基本的に閉ざされていたはずで……。そんなセレノの私室へダフネが侵入しているとなると、引き入れたのはセレノ本人だと判ずるしかなかったのだとウィリアムが引き継いだ。
「自分が張ったヴェールのせいで……僕の声は外に届かなかった。ダフネを押し退ける声も、彼女を拒絶する声も……何もかも……」
ランディリックは静かに息を吐いた。
「……それが、ウィリアムが殿下を〝庇えない理由〟……ですか」
セレノはうなずいた。
コメント
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セレノ、ピンチ?