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病院での点滴が終わると、𓏸𓏸は涼ちゃんをそっと連れて帰った。
歩みはゆっくりで、涼ちゃんはまるで意志の抜けた人形のようだった。
家に着くと、𓏸𓏸は先生から言われた薬を、少しでも飲めるように工夫しながら何とか口に流し込む。
そして毛布をかけ、眠るように促す。
そのあと、ノートを開いて、一つひとつ丁寧に体の状態を記録した。
――体温、37.9℃/脈拍、少し弱め/皮膚の色、やや青白い/呼吸数、浅い。
細かく観察しながら、まるで看護師のように全て書き取っていく。
だが、涼ちゃんはいつも同じ。
布団の中で静かに寝ていようが、時折目を開けていようが、
窓の外をじっと見つめるか、ただ天井を見ているだけ。
𓏸𓏸がどんなに話しかけても――
「涼ちゃん、お腹痛くない?」「……ねえ、今日は星が出てるよ」「何か食べたいものある?」
返ってくるのは、沈黙だけだった。
不意に、心の中の不安があふれて、𓏸𓏸はつい小さな声で零してしまった。
「……うちに連れて帰ったのに、前より悪くなってるじゃん……」
𓏸𓏸自身もどうしたらいいのかわからなくなり、
ノートをぎゅっと握りしめて、涼ちゃんのそばに腰を下ろす。
ひたすら「何もできていない」自分への苛立ちと、
それでも涼ちゃんをひとりにできない想い。
自分でもどうしようもない気持ちが、ため息混じりに溢れていった。
部屋の中を静かに包む、重たい空気と沈黙。
だけど――𓏸𓏸は諦めずに、今日もまたそっと涼ちゃんの手を握っていた。