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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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ある森の奥に、魔女が居た。










「…くぅぅ〜…ふぁ…」


まだふわふわと夢の中を彷徨っている頭を冴えさせるため、昨夜の夕飯のスープを火にかける。


静かな家の中にコトコトとスープを煮込む音が響く。


「コクロ、朝だよ〜」

使い魔の鴉を起こし、朝食を頂く。

魔女の名はアルカと言い、優しい魔女であった。


アルカは小さな家に暮らしていた。


昨晩書いておいたやることリストの全ての欄にチェックを付け、自由時間を満喫する。


「さて、と…コクロ、紅茶飲む?」


紅茶を淹れようと1人用ソファーを立つ。

すると図ったようにドアチャイムが鳴り響いた。


ゴーン、ゴーン。聞き慣れたチャイムがアルカを催促する。


「はーい、今行きますよぉ〜」

パタパタと黒い服の裾を手ではらいながら

ドアを明ける。


そこには幼く可愛らしい少年が居た。


しかし少年はボロボロで所々血を流し、大きな眼を涙で濡らしていた。


「…どうしたの坊や?」

アルカは出来るだけ平常心で問いた。


少年は鼻を啜り、震えた声で話し始めた。


要約すると少年は魔女への生贄に選ばれ、逃げて来たのだが途中で村民に見つかり「躾」をされたらしい。


アルカは呑み込めない情報量でパンクしそうな頭を必死に働かせ、取り敢えず少年を家へ入れた。


「まずは怪我を治しましょう」


アルカは小さなベッドサイドテーブルの上に鎮座していた杖を取り、呪文を唱えた。


大地に満ちたる命の躍動、汝の傷を癒せ」


呪文を唱えた途端辺りに翠の光が溢れ、2人の視界を奪った。

だがそれも数秒の事で気付けば少年の傷は跡形もなく消え去っていた。


少年は眼を輝かせ、アルカを見据えてこう言った。

「弟子にしてください…!」


アルカは予想外の発言に驚愕したが、少年の可愛さに勝てず承諾した。


「私は基本的に攻撃の魔法を好まないの。だから、攻撃魔法を習得して私を護ってくれる?」


そう問えば少年はこくこくと頷き、アルカに抱き着いた。


「お姉ちゃん大好き…!!…です!」


少年の慣れてない敬語に苦笑しながらアルカはルールを紙に書き始めた。


勝手に物を触らないこと

コクロを虐めないこと

自分の事は自分ですること

誰かが来ても私が居なければ無視すること

私を護ること

少年は真剣な顔で読み上げ、分かった!と笑顔でアルカを見つめた。



「…ところで、自己紹介しましょうか」


どうやら少年の名前はオビルで歳は12らしい


アルカは自分より何十倍も幼い少年にドギマギしながらも平常心を保った。


アルカは思いついたように口を開いた。


「あ!合言葉、考えよっか。あと、敬語じゃなくていいよ」


「…!!うん!」


そうして考えること数分、アルカとオビルが同時に口を開いた。


「「アルビル!」」


2人は顔を見合わせ、くすくすと笑いながらベッドへ転がった。





次の日からオビルの厳しいレッスンは始まった。


必死に呪文を唱え、剣術を習い、家事をして、アルカを護った。






それから20年、オビルは立派な成人に成長していた。


オビルもアルカも、お互いに恋愛感情を持っていた。


20年の合間にも生贄が何人も来たが、オビルが追い返し、村の生贄制度を終わらせた。



そんなある日、アルカが急に口を開いた。

「オビルは可愛く無くなっちゃったねぇ…小さい頃はあーんなに可愛かったのに…」


わざとらしく萎れた真似をしながらオビルを盗み見る。


アルカは眼を見開いた。

なんとオビルは大きな眼を涙でいっぱいにし、口を歪めて我慢していた。


「あーあーあー!嘘!嘘だよ!泣き虫な所も変わってないなぁ…」


自分より大きな背丈のオビルを必死に抱き寄せ、頭を撫でてあげる。


するとオビルが震え出し、疑問に思って見つめていると、


「くくくっ、アルカ、嘘泣きだよ?でも頭撫でてもらえるの嬉しいなぁ…いつぶりだろう」


したり顔でアルカを見据えるオビル。

アルカの顔はみるみる赤くなっていき、拘束の呪文をオビルに掛けてしまった。


「アルカ〜動けなぁい…」

ぶーぶーと愚痴を言い続けるオビルを無視していたが、アルカは近付いてくる「何か」を察知してオビルの拘束を解いた。


「…アルカ。」


「…うん、敵対心を持った何かが来る。」


アルカは拘束等の魔法を、オビルは攻撃魔法を構え、窓から覗いた。


すると生贄制度を廃止した村の民が武器を持って押し掛けてきていた。


「私が出るね。」

アルカはそう言って出ていった。


オビルも続いて出ようとしたが、アルカが怖い顔をして制止した。

「…大丈夫だから」

しかしすぐに優しい顔になった。



アルカは村の民に問いた。


「何故このような森の奥に村の民が来るのでしょう!ここには廃れた魔女1人しか居ませぬ故、お帰り願おう!」


出来るだけ厳しく冷たい口調で吐き捨てる。


村の民はさらに牙をむき、アルカに槍を向けた。


「私達は魔女を殺しに来た!大人しく殺されろ。」


1人の村人が火薬爆弾に火をつけ、アルカへ投げた。

アルカが息を呑み、咄嗟に守護呪文を唱えた。


「聖なる光よ、全てのものを拒絶せん、我を守りたまえ」



アルカに守護がつき、爆弾を跳ね返し村人へ返った。


次々に村人が倒れ、更に村人の敵意を増させる。


そして、後ろから廻って来ていた村人がアルカの項にナイフを刺した。



しかし、アルカに傷はなかった。

何故か。それは、ドアを蹴破って出てきたオビルがアルカを庇ったからである。


村の民は皆驚き、同種を殺したという罪悪感に苛まれた。


「お前…オビル、生きてたのか?!早くその魔女から離れろ!早く止血を!」


薬草や包帯を持って近付いてくる村人にアルカは怒鳴った。

「早く目の前から立ち去れ!!…それとも、殺されたいのか?…いや、殺してやる。」


怒りで魔力が辺りに放出され、オビルを抱き抱えるアルカさえも暗黒に包まれる。


「何だ、…あいつ、は…!!?…ひっ…!!に、逃げろ…」


村人は一斉に立ち去り、涙を流しオビルを抱き抱えるアルカだけが残った。


先のナイフには即効性の毒が付着しており、オビルはもう死を待つだけになってしまっていた。


「オビル、オビル!まだ、呪文を唱えれば間に合うよね?!オビル!」


オビルは目を開け、アルカに微笑んだ。


「…無理だよ。元々僕には言っていない病があったし、余命ももう無いって言われてたんだよ。だから、もう無理だと思う」


それからアルカは何度も呪文を唱え続けた。

しかしアルカの努力も虚しく、オビルはその日の内に息を引き取ってしまった。


息絶える前、オビルはアルカと約束をした。


「また会いに来るからね。誰が来てもドアを開ける前に「合言葉は?」って聞いてね。」


小指と小指を絡め、微笑み合う。


しばらくそうしてから、オビルは息絶えた。

アルカは号泣しながら、涙でぐちゃぐちゃの顔でオビルにキスをした。




それから数百年

アルカはコクロと共に静かに暮らしていた。


その後もアルカに敵意を持ち訪れる者も居たが、オビルを迎えるために追い返した。


今日も今日とて訪問者が訪れ、アルカは問いた


「合言葉は?」



「…アルビル」


相手の言葉でアルカは手に持っていた箒を地面へ放り投げた。



急いでドアを開け、見つめる。


「弟子にしてくれますか?」


少年ははにかみ、涙を拭った。

創作話(ホラー、薔薇、百合、など)

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