「…あんたってホント気持ち悪いよね」
私が母に恐怖心を抱く様になったのはまだ1歳になってすぐの頃だった。
私には生まれつき触手が生えていた。
その事で母は自分を責めていたが、いつしか私の事を責めるようになった。
「気持ち悪いのよ…こっちに来ないで!!」
ただ純粋で、無垢で、幼かった私に毒を吐いた。
私は幼いながらに母に近付かなくなったのを覚えている。
父は私が生まれてすぐに触手の件で家を出ていった。
私は母が怖いけれど、感謝はしている。
捨てることも、譲ることも出来たのに。
勿論、殺すこともね
でも16歳まで育ててくれた。
母は高校生になったら出て行けと言った。
だから私は住んでいた街を飛び出して、
大都市へ向かった。
今は1人暮らしで、高校に通いながらバイトをしてる。
勿論触手のせいで馬鹿にされるしメディアにも報じられそうになった。
拒否したけどね
とにかく私は、こんな触手のせいで私の人生を狂わせるのは嫌だ。
私は普通に恋愛をして、普通に生きていたい。
あ、そうそう。恋愛といえば最近好きな人が出来たんだ。
名前は東 優子ちゃん。
とっても優しくて、綺麗で、頭が良くて…でも運動は少し苦手な本当に魅力的な女の子。
…あ、もう学校行く時間だし、またね。
学校は家から近く、歩いて10分もしない内に着いてしまう。
まだ登校している人も疎らな時間だ。
すぐさま少女は席に着きノートにカリカリとシャープペンシルを走らせた。
すると背後から明るい髪色の少女が声を掛けた。
「みゅうちゃぁ〜ん」
みゅうちゃんと呼ばれた少女は驚き、振り向いた。
「あ、東さん…?!おはようございます。」
明るい髪色で薄いメイクの少女
この子が東 優子であった。
そしてみゅうちゃんと呼ばれた少女の名は
隅田 実侑である。
「もー!東さんじゃなくて優子でいいし!敬語も無し!はい!リピートアフターミー!ゆ・う・こ!」
頬を膨らましあからさまに怒った顔をする優子。
「ゆ、ゆうこ…ちゃん?」
後に優子はこの時のみゅうちゃんはとても可愛かったと語る。
その後は他のクラスメイトも続々と登校し、何事もなかったように2人は別々になったが
実侑の心はいつまで経ってもドキドキしていた。
数日経ち、ある体育の時間で実侑は他のクラスの人に絡まれていた。
「え!何その触手!笑コスプレ?笑写真撮っていーい?笑」
実侑は困り果て、苦笑を浮かべ視線を泳がせていた。
すると遠くから優子が叫んだ。
「みゅーちゃぁーん!こっち来て手伝って〜!このマットおもぉい!」
マットを引き摺りながら実侑に手を振り、ウインクを飛ばす優子。
実侑は安堵感から笑みを浮かべ、走って優子のマットを両手と触手で支えた。
「みゅうちゃん、嫌な時は嫌って言わないと!」
「う、うん…優子ちゃんありがとう」
マットを2人で運び、もう1枚取りに行こうとした。
途端、優子の真上から鉄の棒が何本も落下してきた。
2人の周りが一気にザワついたが、2人は時間が止まったように動かなかった。
周りの人達の悲鳴と怒声でハッとした実侑は
触手で鉄の棒を掴みながら優子を抱き寄せた。
体育館に静寂が訪れた。
しかしあっという間に歓声と何声が響き、生徒達が駆け寄ってきた。
「隅田!よくやった!」
「隅田さんすごっ…」
「優ちゃん大丈夫?!」
次々に投げられる言葉に戸惑い、実侑は未だ抱きしめたままの優子を離し慣れない笑顔で会釈をした。
そして実侑はそのまま俯き、どうしたら良いのかと考えた。
すると、急な衝撃に圧倒され倒れそうになった。
よく見ると優子が涙を流しながら実侑に抱き着いていた。
突然の想い人との接触に顔を赤らめ、震える口を開く。
「うぇっええ??!優子ちゃん、どうし、え?!ひぇっ?!」
バタバタと行き場の無い両手を空中に徘徊させる。
すると優子が顔を上げ、涙で濡れた顔ではにかんだ。
「本当に、ありがとう…。御礼したいから今日放課後一緒に帰ろう?」
少し紅潮したように見えた優子の顔はとても美しく、周りの人も固唾を飲んで見つめていた。
その後は何事もなく体育が終了し、無事放課後になった。
実侑は好きな人と帰れるという嬉しさと
触手の事で何か言われるのじゃないかという感情が渦巻き、下駄箱で待っていた。
同じクラスだが優子が少し用事があると言っていたので下駄箱で待つことにしたのである。
数十分程してあまり人も居ない下駄箱に大きな足音が響いた。
「実侑…ちゃん!おまたせ!」
初めてとも言えるだろうか。
優子の口から放たれた言葉は実侑の頭を快楽で支配した。
「…ぁ、大丈夫だよ。わざわざ御礼なんていいのに。」
そう言いつつも実侑は柄にも無く緊張し、そして嬉しかった。
優子は顔を赤らめ、震える口を開いた
「…御礼の前にね、話があるの」
実侑の頭上にハテナが浮かぶ。
「あのね、…前から気にはなってたの。でも今日で決定的になった。えっとね、その…
好きです。付き合って下さい…!」
見ている方が赤面してしまう程優子の顔は赤く、その赤が夕陽なのか頬なのか実侑には分からなかった。
実侑は最悪のケースを頭に入れながらも自分に正直に口を開いた。
「…私も、私も優子ちゃんの事、好きだったの。」
目を合わせ、2人で微笑み手を絡める。
辺りに人は居なく、下校のチャイムが2人を祝福するように校舎に響く。
「付き合おう」
どちらのものか分からない言葉だった。
2人同時に発したかもしれないその言葉は間違いなく2人の脳を快楽に陥らせた。
実侑は幸福感に包まれ、優子を強く強く抱き締めた。
そして優子に問いた
「…触手、嫌じゃないの?気持ち悪いでしょ」
優子はにっこりと口許を歪ませた。
「嫌なわけないじゃん!私を助けてくれた触手だし、みゅうちゃんの触手だもん!大好きだよ!」
実侑の心が少し晴れた気がした。
それから実侑は優子を離し、母親が怖い事、人を余り信用出来ない事など全て話した。
話の途中から優子は震え出し、手で顔を覆い、泣き始めてしまった。
「つら、かったね…?これからは私が、守
る、から…!私を頼っ、て」
そう言って実侑を強く抱き締めた。
今度こそ実侑の心は救われた気がした。
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