「では最後に。角名選手、今後の目標は?」
テレビ越しのりんちゃんは、いつもと変わらず淡々としていた。
代表ジャージ姿で、髪も整ってて、なんか……かっこよすぎる。
(ふつうに“パリ五輪目指します”とか言うやつやろ)
そう思ってお茶を飲んでた、その瞬間。
角名はマイクを向けられながら、
まばたき一つせず、いつものテンションで言った。
「俺……結婚するんで。
それまで怪我しないのが目標っすね」
「……………は?」
気づいたらお茶吹いた。
アナウンサーも固まってる。
「け、結婚、ですか?」
「はい。まあ、彼女かわいいし。
逃げられる前に、しっかり捕まえとこうかな〜って」
りんちゃんは肩をすくめながら、
ほんの少し口角を上げる。
心臓が飛び出るんじゃないかぐらい鼓動が治らない。
やばいやばいやばい。
「ちなみに、どんな方なんですか?」
「……独占したくなるタイプ?」
サラッと言うな!!!
全国放送!!!
お父さん母さんも見てる!!!
コメント欄は即座に騒然。
(角名結婚!?)
(相手誰!?)
(急すぎる!!!)
(独占したくなるタイプって何!!!)
(結婚なんてダメ!!!!)
私は手を震わせながらテレビを見続ける。
りんちゃんは少しだけ首を傾け、
完全に“彼女の反応を想像して楽しんでる顔”をしていた。
「まあ本人……今テレビ見て震えてると思うけど。
俺が帰ったら、ちゃんと返事してもらいます」
帰ったら、ちゃんと返事してもらいます。
その言い方がもう……
完全に“逃がさない宣言”。
私は両手で顔を覆った。
「……ばか……っ……!」
耳まで熱い。
「なんで……そんな大事なこと……
テレビで言うかな……!」
恥ずかしい……
でも嬉しくて……
心臓がずっとバクバクしてる。
スマホが震えた。
通知を見ると、りんちゃんからメッセージ。
《見とる?》
いや見てるけど!!!
全国に爆弾投げたのお前やけど!!!
《帰るまでに覚悟しといてね
……かわいかったら写真撮る》
なにその追い打ち。
嬉しい。
死ぬほど。
でも恥ずかしすぎて、私はソファに倒れ込んだ。
「……こんなん……
好きにならんわけないやろ……」
胸がぎゅーっと締め付けられる。
りんちゃん、絶対ニヤニヤして帰ってくる。
絶対意地悪言ってくる。
でも……ちゃんと抱きしめてくれるんやろな。
そう思ったら、涙が出るほど幸せだった。
コメント
1件
メロい!メロすぎるッ