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(注) こちら ヨモギマル 様 との コラボ作品 となっております。

こちらは 【第2話】ですので 私のフォロー欄より ヨモギマル 様 の 方 からの 閲覧 を お勧め致します。




◇       ◆       ◇




特別裕福でもなく、特別煌びやかでもないごく普通の生活。普通の幸せ、普通の家族。そんな事を考えていたのはきっと母親だけだった。


「 蘭、このお洋服を着なさい 」

毎日兄ちゃんが袖を通す可愛らしいフリルは見た目こそ軽いものの兄ちゃんの身体に重くのしかかっているように見えた。


「兄ちゃんは男だよ」

毎日きまって兄ちゃんの洋服を指定する母親にそんな事を言っても聞く耳を持たないのは当たり前。

竜胆は黙ってて。

そう一喝されては唇を噛み締めた。兄ちゃんは辛い顔ひとつせず耐えているのに、自分は何も出来ないまま。辛いのは兄ちゃんの方なのに、母親に怒られ兄ちゃんに何もしてあげられない自分が辛い顔をすると きまって兄ちゃんは俺を慰めた。


“ 女 ” であるから母に好かれた兄と” 男 “ であるから母に嫌われた俺。

どちらが幸せかなんて測り切れるものでは無かった。

母に愛されない俺を愛してくれたのはいつでもきまって兄ちゃんだった。母からの愛情など受けずとも元より兄だけで十分であったのだ。

兄ちゃんが母に反抗すればいいのに、フリルの服なんてゴミ袋に詰め込んでしまえばいいのに、兄ちゃんの力で母を捩じ伏せる事も出来るであろうに、それをしなかったのは何故か。幼いながらに無い頭を使って考えたものの答えは見つからなかった。


「ほら!やっぱり 可愛いお洋服は蘭には似合うわねぇ」


兄ちゃんは綺麗だ。サラサラの髪の毛もキメ細やかな肌も長いまつ毛もアメジストの瞳もぜんぶ、

全部全部全部全部全部全部全部全部全部。

綺麗に決まってる。兄ちゃんなんだから。

母親の前では女の子の様に、可愛く ちいさく 丁寧に振る舞う兄ちゃんの心は完全に純粋な男だった。それを知っていながら、助けることが出来ないのがもどかしくて仕方なくて、深い深い泥沼の中でもがいているような、ずっとそんな気持ちのドン底にいた。

兄ちゃんの目には、兄ちゃんの毎日の苦労に見て見ぬふりをして自分ばかりが “男” であることが当たり前のように毎日を楽しんでいる弟の姿が映っていたかもしれない。

兄ちゃんを救う方法なんて、幼い俺には分からなかった。



「わー!蘭ちゃん達だ!」「蘭ちゃん!あっちで一緒に遊ぼ!」

皆が皆、兄ちゃん を 女 だと認識していた。許せない、兄ちゃんを苦しませてるのは紛れもなくお前らだよ。兄ちゃんは男で、こんな遊び 少しだって楽しいとも思ってないのに。我慢してるのに。

“男” 友達と遊んでいてもずっと兄ちゃんとその周りの女のことばかり考えていた。兄ちゃんと一緒にサッカーが出来たら、兄ちゃんと一緒にドッジボールが出来たら、こんなコンビネーションを披露して、カッコつけてるアイツなんて吹っ飛ばして兄ちゃんが1番カッコつけるんだ。あ、それはちょっと嫌かも。

兄ちゃんの身体を包み込むあの重い重い鎖の様な布を燃やしてしまえば、兄ちゃんは楽になれるのに。そんなことを考えていれば休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。



学校でも家でも当たり前のように女として扱われる兄ちゃんの心休まる場所は存在しなかったのではないかと思う。少しテレビに意識が行くだけ、少し礼儀が欠けただけ、そんな小さなことで頬を叩かれご飯を下げられる兄の姿を数え切れない程見てきた。

「 それにしても竜胆の方が食べ方綺麗よねぇ、上手に食べれて偉いぢゃない 」

その褒め言葉が何度兄ちゃんを苦しめたことか。俺の食べ方がもう少し品性に欠けていれば 兄ちゃんは 自分は褒められなかったのに と劣等感に苛まれ涙を流す夜が少しでも減っただろうか。

夜の時間だけでも安らかな夢を見られただろうか。息がつけただろうか。女を忘れられただろうか。男でいられただろうか。幸せだったか。



食べ終わった食器を下げ、兄ちゃんの部屋の扉をそっと開く。

ピンクに塗れたその部屋は可愛いと言うよりも狂気を感じるものである。

「兄ちゃん、」

俺の声は暗く静まり返った部屋に響くことなくすとんと落ちた。

ベッドの上で膝を抱えて泣く兄ちゃんが、どうにも綺麗で、可哀想で、やさしくて、ぽろりと涙が出てしまう。


「ねえ兄ちゃん、ごめんね」

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