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授業が終わったあと、教室にはまだ数人の生徒が残っていた。ノゾミはノートを片付けながら、ちらりと隣を見る。
瑞希は机に頬杖をつき、窓の外を眺めている。
その姿は、何気ないのにどうしてこんなに絵になるんだろう。
「……」
気づけばまた、じっと見てしまっていた。
「……ねぇ、君って本当にわかりやすいよね」
唐突に声をかけられ、ノゾミは思わずペンケースを落とした。
「わ、わかりやすいって、何が?」
「ボクのこと見てるの。授業中も、今も」
瑞希は振り向いて、にやりと笑う。
その表情はまるで、じゃれつく猫みたい。
「だって……瑞希のこと、気になるんだもん」
勇気を出してそう答えると、瑞希は少し驚いたように目を瞬かせた。
けれど次の瞬間、彼は肩をすくめて小さく笑った。
「ふーん……そうなんだ。なんか、悪い気しないな」
ノゾミの心臓はドキドキと跳ね続ける。
推しを間近で見ていられるだけで幸せなのに――その本人から「悪い気しない」なんて言葉をもらえるなんて。
「ねぇ、ノゾミ」
瑞希が机に片肘をついたまま、少し身を寄せてきた。
「……そんなにボクを見てて、飽きないの?」
至近距離に迫る声。
頬が一気に熱くなって、ノゾミは思わず椅子ごと後ろに下がった。
「飽きない! むしろ……もっと見てたい……」
自分でも驚くほど正直な言葉が口から飛び出す。
瑞希は一瞬目を丸くして、それからまた、楽しそうに笑った。
「……やっぱり君、おもしろいなぁ。飽きないのは、ボクの方かも」
猫みたいに気まぐれで、でもどこか優しい瑞希の声。
ノゾミはその言葉を胸に、放課後の光景を忘れられなくなった。