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学校が始まり、数日が経った。
まだ暑さの残る教室。
キーンコーンカーンコーン
「お前ら、再来週は何があるのかわかっているな?」
教室がざわめく。
「そう!体育祭だ!クラスでトップを狙いに行くぞ!」
教室に担任の声が響いた。
「例年通り、強制出場種目以外の競技については、最低2つ。最高でも3つまでしか出られないからな。」
そう言いながら、担任は競技が記載されているプリントを配布し、黒板に種目を書き記していった。
ざわっと空気が動く。
「来た来た来た!」
「何出る!?」
「私走るの嫌だから綱引きとか玉入れがいいな」
あちこちで声が上がる。
「こはる、何出るの?」
渚が身を乗り出す。
「私は……」
種目一覧の紙に目を配る。
「何にしましょうね?」
「いやいやいや、その足の速さはこのクラスの最終兵器よ?絶対に生かすべきでしょ(笑)」
陽向がツッコむ。
「とりあえず短距離と……あと障害物とか?」
「その辺は女子の出場枠絶対に余るしね」
口々に言われ、こはるは少しだけ困ったように笑う。
「えっと、じゃあ……短距離と、障害物で」
「いいじゃんいいじゃん!」
「決まりだね」
「雪斗は?」
「ん〜走らなくて済むなら走らない方がいい(笑)」
「私は絶対に走りたくない」
そうこうみんなで話をしていくうちに……
運動が苦手な人達が玉入れ、大玉転がし等の競技に集中し、足の速い人たちが競争種目に集まる。
思いの外、クラスのバランスは良く、
黒板の種目はどんどん埋まっていった。
残る種目は……
「あとは二人三脚!あと一組誰か出てもいいって人いるか〜?」
担任が黒板をチョークで指しながら問いかける。
「二人一組だしね〜」
「仲良い人とじゃないと組みにくいし……」
教室がざわつく。
「月城さん、あと一種目出られるんじゃない?」
「あ、ほんとだ」
こはるにクラスの注目が集まる。
「月城さんでなよ!足早いし!」
「でもそうなるとペアも必要だよね」
「水瀬さんも足早いし、一緒に……ってもう橘くんと組んで出るんだ……」
「足早い人たちはほとんど組んじゃってるね……」
勝手に話が進んでいき、どうしていいのかわからなくなるこはる。
クラスに少しずつ慣れてきたとはいえ、正直そこまで仲がいいとはいえない人と組むのは気まずいなと思っていた矢先……
スッ
紅葉が手を上げた。
「私が月城さんと出ます。」
「え?」
「おー、成瀬と月城ありがとな!」
そう言い、黒板にこはると紅葉の名前が書き込まれていく。
「よし!これで決まりだ!優勝狙って行くぞ!」
賑やかになる教室。
「紅葉さん……いいんですか?」
「ん?」
「あまり走ったりするのは……」
「走りたくないよ(笑)」
そう言い笑う紅葉。
「でも……あのまま流れで決まるのも、ちょっと嫌でしょ?」
申し訳ない気持ちと同時に、優しい気持ちに包まれるこはる。
「ありがとうございます。頑張りましょうね。」
「全力では走らないでね」
「はい(笑)」
軽く笑い合う2人。
⸻
放課後。
まだ熱の残る校庭。
「いち、に、いち、に……!」
あちこちで二人三脚の練習が始まっていた。
「全然合わないんだけど!」
「お前がズレてるんだって!」
賑やかな声が響く。
そんな中、一際賑やかなのが……
「ちょ、ちょっと待って!歩幅広すぎだって!」
渚と陽向ペアだった。
「いや今のは渚が足出すの早かったって!」
「は!?ちゃんと合わせてたし!」
「合わせてたらこうならねぇんだよ!」
ドンッ
バランスを崩し、2人でよろける。
「いたたた!」
「だからもっとくっつけって!なんなのこの微妙な距離感?!」
「いや……その………身体くっつけるの恥ずかしいし……」
「…………」
「イチャついてないで真面目にやりなよ」
2人に呟く紅葉。
「や、や、や、やってるわよ!!」
くすっと笑うこはる。
「私たちも始めましょうか」
そう言いながら、紐を結び直す。
「……いきますよ?」
「うん」
「あ、まずはその場で足踏みからお願いね」
「わかりました!」
こはると紅葉も、足を結んで並ぶ。
「いち、に」
とん、とん、と軽やかに足踏みする。
「……あれ」
紅葉が小さく呟く。
「結構いけるね」
「はい、これなら走れそうですね」
「少し走ってみようか」
⸻
教室。
開け放たれた窓から、外の声が微かに聞こえる。
「……」
雪斗は一人、机に向かっていた。
開いたノート。
進まないペン。
ふと、顔を上げ、窓の外を見る。
グラウンドで動く人影。
その中に――
バタバタと騒がしい2人と、
その横で、落ち着いて進む2人の姿。
「ちょっと!肩以外は触らないでよね!」
「俺何もしてねぇよ!?」
遠くからでも聞こえてくる声に、
「ふっ……」
小さく、息が漏れる。
軽やかに進む2人。
ぎこちなく騒ぐ2人。
その全部が、同じ景色の中にある。
「いち、に!いち、に!」
ぴたり、と揃うこはると紅葉のタイミング。
こはるが、楽しそうに笑っている。
「……」
ほんの少しだけ、口元が緩む。
雪斗は、ゆっくりと視線を戻す。
再びノートに目を落とし、
ペンを持ち直す。
でも――
ペンは、しばらく動かなかった。