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照りつける日差し。
グラウンドに響く歓声。
「暑っ……」
「でもなんかテンション上がるよね」
「なんだか少し緊張してきました……」
ざわざわとした空気の中、体育祭の開会式が執り行われた。
⸻
短距離走。
こはるは大きく息を吸いこんだ。
パーン!
音と同時に駆け出す。
「月城さん速っ……!」
クラスメイトたちがざわつく。
「こはると一緒じゃ無くてよかったぁ……」
次に走る渚がスタートラインに立ち呟く。
軽やかな足取りのまま、一位でゴール。
「さすがこはる!」
「余裕だな」
雪斗と紅葉が応援先から拍手を送った。
⸻
障害物競走。
ロープを潜り、跳び箱を飛んで、平均台を渡っていく種目。
「障害物は負けないよ!」
「望むところです!」
スタートラインでこはると渚が互いに視線を送り、いざスタート。
しかし、開始早々ロープに絡まる渚。
対するこはるはするりと抜けて行く。
「あ!ちょっ!こはる待て!!」
「嫌ですよ(笑)」
そのやりとりが聞こえていた人たちからは笑いが起こっていた。
ぶっちぎりで1位のこはる。
渚は3位で落ち込んでいた。
⸻
玉入れ。
「全然入んないんだけど!」
「下手な玉入れ、数撃ちゃ入る」
全然玉を入れられない紅葉と、隣で大量の玉を同時に投げて着々と玉を入れて行く雪斗。
わちゃわちゃとした空気に、応援の声が加熱していった。
⸻
女子ダンス。
音楽に合わせて揃う動き。
普段とは違う空気の中、
「お〜、みんなうまいね。」
「あんなに機敏に動く紅葉は新鮮だ(笑)」
「確かに(笑)」
リズムに合わせて手拍子をする男子たちであった。
⸻
男子騎馬戦。
女子の応援でいつもより燃えている男子達。
「いくぞぉぉぉ!」
「百武突っ込め!」
「ひぃぃぃぃ!!!」
土埃と歓声。
速攻で鉢巻を取られ、敗走してくる百武を騎手とした雪斗と陽向。
「弱っ!」
「いきなり敵陣に突っ込みすぎでしょう!」
「あれは百武くんちょっと可哀想ですね」
男子達の不甲斐なさに笑うしかなかった。
⸻
そして――
大玉転がし。
「ほっ!よいしょ!」
クラスで息を合わせて押していく。
「右!もっと右!」
「よし!あとは押しまくれー!!」
その時――
「……っ!」
勢い余り、バランスを崩した紅葉が
そのまま――
大玉の上に乗っかり
ごろんっ
「紅葉が飛んだ(笑)」
「いや、でもあれ大丈夫?!」
「紅葉さんっ…!!」
競技に参加していないこはる達は、ただ見守ることしかできなかった。
競技に参加していた雪斗が駆け寄り、紅葉に手を差し伸べた。
紅葉も恥ずかしそうにしながらもすぐ立ち上がった。
その様子に、こはる達はほっと息をついた。
⸻
木陰。
「大丈夫ですか…?」
こはるが声をかける。
「うん……大したことない」
そう言いながらも、足をさする紅葉。
「転がった時よりも、転がるまえに、ちょっとだけ足を挫いたかも」
「えっ……」
そんな足をさする紅葉を見ていた雪斗達。
「氷貰ってくる?」
「そこまでは大丈夫だと思う」
「でも午後イチは二人三脚でしょ?」
「う………」
顔を曇らせる紅葉。
「1人で走る分なら最悪何とかなるけど、二人三脚は少し怖いかも……」
「……」
全員の顔が少し暗くなったが、すぐに紅葉は顔を上げた。
「……雪斗」
「ん?」
「雪斗は私と同じだから、2種目しか参加してないもんね」
「そだね」
「私の代わりに…二人三脚お願いできる?」
「………」
ほんの一瞬だけ、こはるに視線を向ける。
「あぁ、いいよ」
あっさりと頷く雪斗。
「私がこはると出て、陽向と雪斗のペアに変える?」
「いや、陽向達は練習してきてるし、そのままの方がいいでしょ」
ゆっくりと立ち上がる紅葉。
「ちょっとその事先生に報告してくるね」
そう言いながら、先生の待つテントの方へ歩いていった。
「……少しだけでも練習しましょう」
「そうしようか」
⸻
軽く昼食を済ませた2人。
人の少ない場所で、紐を結ぶ。
「……いきますよ?」
「おう」
「まずは足踏みから…」
「いち、に」
二歩目――
少しだけタイミングがズレる。
「……あ」
「悪い」
肩を組み、距離を近づける。
ドキッ
「も、もう一回」
「いち、に」
ぴたり、と揃う。
(……あれ? )
「いけそうだね」
「……はい」
すぐにタイミングが合った。
「今度は少し走ってみましょう」
「了解」
走ってみる。
思っていたよりも、ずっと自然に進めた。
「もう練習してるの?!ほら、ちゃんと食べな!」
2人の元に来た渚が、バランス携行食を2人の口に放り込む。
「ちょっ」
「んっ!?」
「ちゃんと食べなきゃ午後持たないよ〜、補給補給!」
「ありがとうございます……!」
「パサパサする………」
「あはは〜(笑)」
そのまま時間ギリギリまで練習をし、本番を迎えることになった。
⸻
二人三脚が始まった。
これで何走目になるのだろう。
足を結び、スタートラインに立つと、こはるは大きく深呼吸をした。
(……ドキドキする)
非日常的な空間で気持ちが昂っているからなのか、
急にペアが変わり緊張しているのか、
それとも……
すぅ〜…………
こはるは目を閉じ、気持ちを落ち着かせようとしていた。
「大丈夫」
隣の雪斗がまっすぐ前を向いたまま、こはるに話しかける。
「いつも通り、楽しんでいこう」
一度だけ、大きく跳ね上がった心臓は、次の瞬間にはいつも通り、落ち着きを取り戻していた。
「……はいっ!」
「よーい、スタート!」
「いち、に!」
最初は少しだけぎこちない。
でも……すぐに――揃う。
(……あれ)
こはるは気づく。
自分が思っているより、少し速いペースで走っていることに……
それでも……
隣の足は、乱れない。
まっすぐ前を向いた雪斗が、何も言わず合わせてくれているのがわかった。
「こはる達はやっ!」
「やりますなぁ、こりゃ俺たちも負けてられないね!」
先に走っているこはる達を、後ろから眺めている渚と陽向。
そのまま――あっという間にゴール。
「一位は3組です!」
わぁー!!!!
歓声が上がる。
⸻
「……はぁ…はぁ…」
息を吐くこはる。
「やっぱりこはる速いね、合わせるの大変だったよ(笑)」
雪斗が軽く言う。
「……はぁ……はぁ……」
こはるは、少しだけ視線を落とす。
隣にいた時間。
揃っていた足。
(……なんか)
言葉にならない感覚が、胸に残る。
顔を上げると…
「……っ、ありがとうございました!」
満面の笑み。
雪斗はつい……
「……次、陽向達だよね」
視線と話題を逸らしたのであった。
⸻
保健室から戻り、そんな様子を応援席で見ていた紅葉。
「……」
小さく笑った。
「息ぴったりじゃん」
⸻
ちなみに陽向と渚はと言うと……
最初は渚が顔を赤くして、少しぎこちない様子であったのだが……
スタート直前に陽向が渚の肩を強く抱き寄せた瞬間、渚も吹っ切れたのか……
真っ赤な顔のまま爆走。
余裕の1位でゴールしていた。
⸻
⸻
⸻
「次は、最終種目。クラス対抗リレーとなります!」
アナウンスが響く。
空気が、変わる。
クラス全体の緊張が高まるのを肌で感じた。
「今のところはいい感じで来てるから、ここで1位を取って!クラス優勝を目指すぞ!」
担任が声を上げ、拳を前に突き出した。
その声を聞いたクラスメイト達は一斉にそれに答える
「「おーー!!!」」
⸻
(なんか緊張してきた……)
そう思いながらリレーの順番に並ぶと、後ろには紅葉が。
「紅葉さん、足は大丈夫ですか?」
「二人三脚はタイミングズレると怖いけど、まっすぐ走るだけなら大丈夫」
そう言いながら、痛めたであろう足をプラプラ動かしてみせた。
「無理はしないでくださいね!」
そう言ってこはるも自分の足首をくるくる回す。
今まで走りすぎたのか……
ふくらはぎが少し張っている気がした。
その場で屈伸をしてほぐすこはる。
「お、やる気満々だねぇ〜頑張ろうね!」
紅葉の後ろにいた渚がこはるに声をかけた。
「目指せ、優勝ですね!!」
そして……
クラス対抗リレーが始まった。
⸻
パァーン!!
スターターの音が鳴り響き、一斉にスタート。
最終種目ともあり、盛り上がりも最高潮である。
「いけるいける!!がんばれ!」
「うぉー!!!ぬけぇーー!!!」
「頑張れー!」「キャーかっこいい!!」
レースも順調に進み、終盤戦へ
「月城さん!」
差し出されるバトン。
「はい!」
受け取る。
ぎゅっと、バトンを握り……
そのまま――前へ。
走りは順調。
4位から3位、
そして2位へと順位を上げるこはる
「月城さん頑張れー!」
「いけー!」
(いけるっ!)
1位まで後少しのところ………
カクン……
(……あれ)
急に減速する。
(……なんで)
ふくらはぎが痛い。
力が入らない。
積み重なった疲れ。
気づかないまま、限界が近づいていた。
(……くっ)
歯を食いしばるこはる……
しかし……
スピードがどんどん落ちる。
次から次へと抜かれ、
順位も3位4位へ……
(……だめっ……)
足がもつれ、膝をつきそうになった――その時。
「こはる!」
声が届く。
(……雪斗くん)
前にいる。
手を伸ばしている。
(……ちゃんと………)
(……届けないと!!)
もう一度だけ足を踏み締める。
足がもつれる。
体が崩れる。
それでも――
最後の一歩で、前へ踏み出す。
こはるは跳んだ。
「……っ!」
まっすぐ雪斗の顔を見るこはる
触れる。
パシッ
こはるはそのまま、倒れこんだ。
「いっ……!」
そのまま倒れ込み、周りの人に抱えられるこはる。
ほんの一瞬振り返り、受け取ったバトンを力強く握り直す。
「……受け取ったよ」
前を見て。
踏み出し、どんどん加速していく雪斗。
クラスメイトがざわつく
「朝倉くん早っ!?」
「え、なにあれ!?」
「あんなに早く走れたのか(笑)」
後ろから雪斗を見る陽向。
「珍しい。本気だあいつ……」
「ね。雪斗って、こういう時だけずるいよね」
「普段全然やる気出さないくせにな」
二人でそっと笑った。
⸻
次々と抜いていき、2位でバトンをわたす。
「成瀬!」
「無理!」
雪斗から紅葉へ。
少しぎこちない。
足を庇いながら走る紅葉。
雪斗が作ったリードのおかげ。
抜かれたものの、4位でバトンを繋ぐ。
「もう限界……!」
「任せなさい!」
陽向へ。
(あんなに熱くなってる雪斗ちゃんを見せられたからには、俺も頑張らないとなっ!!)
全速力。
1位〜3位はほぼ横並び。
抜ききれなかった事が、少し悔しかったのだろう。
珍しく真顔で叫んだ。
「渚!ラスト頼んだぞ!」
陽向から渚へつながるバトン
「こはるにばっかりいい格好させてたまるかぁ!!」
ずっと脚に自信があった渚。
だから、アンカーは自分で志願した。
普通に走ったらこはるには勝てない……
でも……
「根性だけは負けられないんだぁぁぁぁぁ」
「いけえええ!!」
「いけ!」
「お願い!」
「………!」
ゴール。
⸻
「一位は…………三年二組!」
わぁーーー!!!!
歓声。
⸻
「二位は二年四組です!!」
小さな歓声。
「………っ‼︎」
こはるは顔を上げられなかった。
「……ごめんなさいっ!」
目に涙が溜まって行く
「は?」
「なんで謝るの?月城さん早かったよ!」
「むしろ最後のジャンプ普通にすごかったよね」
「ほんとほんと!」
「……」
言葉が出ない。
「……十分頑張ったって」
雪斗の声。
「ちゃんと届いたし」
「……はい……」
小さく、頷く。
「くそぉぉぉぉぉぉ!!後少しだったのにぃぃぃ!!みんなごめぇぇぇぇぇぇん!!!!」
奥で渚が叫んでいた。
「まぁ、みんな頑張ったよ。俺も後少しで抜けたのに!くそぉ!!」
陽向が笑いながら歩いていった。
「ほら、閉会式だからいこ」
紅葉がこはるの手を取る。
「はい……」
⸻
閉会式が始まった。
いつもならこういう集会を
(長いなぁ……)
と思いながら聴いているこはるも
今に限っては何の言葉も耳に入っていなかった。
(私が最後まで走れていたら……きっと……)
そんな言葉ばかりが、頭の中をぐるぐる回っている。
「結果発表です!」
「総合優勝は――」
「二年四組です!」
「うおおおお!!」
歓声が弾ける。
みんながこはるの元に集まっていた。
「月城さんやったよ!」
「え?!」
「月城さんのおかげだよ!個人種目全部一位取ってたもんね!」
「………!?」
「こはるぅぅぅ!!やったよぉぉぉぉ!」
渚がこはるに抱きつく。
こはるはおどろき、周りを見渡す。
みんなが本当に嬉しそうに笑っていた。
さっきまでの悔しさが、
徐々にほどけていく。
そして――
「……」
視線を横に向ける。
雪斗が、何でもない顔で立っていた。
小さく、呟く。
(……ありがとうございます)
風が、頬を撫でる。
夏の終わりの空が、少しだけ高く見えた。