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誰も知らない、高嶺の花の裏側2
第70話 〚名前のない誤解〛(澪視点)
その日は、たまたま一人だった。
海翔と時間が合わなくて、
えまたちとも別々。
ただ、それだけ。
朝の通学路を、
澪はいつも通り歩いていた。
——前を歩く、男子。
制服を見る限り、
中学二年生。
後輩だ。
(……あ)
少し前から、
ほぼ毎日、同じ道。
同じ角を曲がって、
同じ横断歩道を渡る。
(通学路、同じなんだな)
それだけのこと。
澪は距離を保って、
何も考えずに歩いていた。
その時。
前の男子が、
急に振り返った。
目が合う。
——次の瞬間。
男子は、
明らかに動揺した顔で、
歩く速度を上げた。
(……?)
澪が首を傾げた、その直後。
走った。
逃げるように。
(え……?)
澪は立ち止まる。
追いかけていない。
声もかけていない。
ただ、同じ道を歩いていただけ。
なのに。
男子は、
角を曲がる前にもう一度振り返り、
怯えたような目で澪を見た。
そして、
完全に姿を消した。
——胸が、きゅっと痛んだ。
(……今の、私?)
周りを見ても、
他に誰もいない。
澪は、自分の足元を見つめた。
(私、何もしてない)
ただ歩いていただけ。
毎日、同じ道を。
それだけで——
逃げられた。
「……ストーカー、みたい」
誰にも聞こえない声で、
澪は呟いた。
心臓が、
じわじわと重くなる。
予知じゃない。
未来でもない。
“今”の現実が、
胸に刺さる。
(こんなの、初めて)
怖がられる理由が、分からない。
説明のしようも、ない。
澪は、そのまま歩き出した。
足取りは、少しだけ重い。
⸻
学校が見えてきた頃、
ようやく息を整える。
(……大丈夫)
自分に言い聞かせる。
誰かに話せばいい。
一人で抱えなくていい。
——でも。
心の奥に、
小さな不安が残った。
(もし、あの子が……)
何かを言ったら?
誰かに、
「ついてきた」と言ったら?
何もしていなくても、
“そう見えた”だけで、
疑われることがある。
それを、
澪は初めて知った。
教室の扉の前で、
一度だけ深呼吸する。
(私は、私)
心臓は、静かだ。
拒否も、警告も、ない。
——それでも。
この世界には、
予知では防げない誤解がある。
澪は、その事実を胸に、
教室へと足を踏み入れた。
まだ誰も知らない。
この小さな出来事が、
澪の「選択」に
新しい影を落とし始めていることを。