テラーノベル
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3日後は朝から雨だった。
午後も雨が降り続け、夕方5時に小雨になった。
約束の6時には、雨が止んだ。
「アプリの天気予報って凄いね。予報通りよ」
公園に着いた香帆は、空を見上げた。
雨上がりの夕方6時は、かなり暗い。
これなら颯真が少々浮いてもバレないだろう。
「ほんで、人がおらへんしな」
さっきまで雨が降っていた公園に来る人はいない。
香帆と颯真だけだ。
誰かに見られる心配がない。
香帆はベンチを丁寧に拭いて、紙袋を置いた。
三千万円が入っていた『銀行の紙袋』は、この日のために取っておいた。
中には、三千万円分のコピー用紙が入っている。
見た目は、本物そっくりだ。
「そろそろ時間やな」
颯真がベンチの前に立った。
香帆は公衆トイレの中に隠れた。
「お待たせしました」
桜志郎が現れた。黒いバックを持っている。
三千万円を入れるのに丁度よいサイズだ。
颯真はベンチを指差した。
「金は そこや。モノを見せてくれ」
桜志郎は〈白い紙に包まれた粉薬〉を出した。
女子トイレの入口から薬を見た香帆は、ドキッとした。
(あれだ! あの薬だ! 私が颯真のカップに入れた……)
「ホンマモンやろな?」
「もちろんです」
「よっしゃ」
颯真は右手を出した。
桜志郎は、颯真の掌に薬を乗せた。
「えっ!?」
薬は 掌を通過して地面に落ちた。
朝から大雨が続いた日だ。
公園の地面はグチャグチャだ。
ポチャン……。
紙で包まれた粉薬は、水溜まりの中に落ちた。
泥水が包装紙を侵食して沈んでいく。
粉薬の溶解は速い。
水溜まりに毒薬が溶けていく……。
「オマエ!? 何しとんや!?」
颯真は激怒した。
「いえ? え? ウソでしょ?」
「ウソも何も、オマエがちゃんと、手に乗せへんからやろ!!」
「え? え?」
桜志郎は狼狽した。意味が解らない。
男の手に乗せたはずなのに、薬は水溜りの中にある。
男は手を動かさなかった。
つまり……、焦って俺が落としたのか?
「もうエエわ! 去《い》ね!!」
桜志郎は帰るしかない。
上手く使えば大金になるはずだったのに『切り札』を無くした。
〈どん底〉を通り越して〈奈落の底〉だ。
桜志郎が公園を出るのを確認して、香帆がトイレから出てきた。
香帆は水溜りに沈んだ薬を、靴で踏んだ。
何度も何度も踏みつけた。
踏みながら泣いた。涙が止まらない。
この薬に誘惑された自分が悔しい。
騙された自分が情けない。
「もうエエやん。終わったやん」
颯真は香帆を抱きしめた、が、腕がすり抜ける。
何度も何度も抱こうとするが、空を切る。
「あぁ、香帆を抱きたいなぁ」