「さ、聖女様着きました。ここがあっしの工場でさぁ。腕を吹き飛ばしちまったのも、この裏でして」
レモンドは照れ笑いをしながら先に車を降り、後部座席の扉を開けてくれた。
ありがとうと言って降りると、やっぱり球体のドローン、オートパトロールとやらが少し離れてついて来ていた。
「ねぇ。あれ、ずっと居るんですけど……」
「あれまぁ、珍しいこともあるもんだ」
そう言いながらも、彼はそこまで気にしていない。
気もそぞろに、中を通って、工場の裏に行くため私とシェナを案内し始めた。そこにある試作転移装置を、見て欲しくてたまらないのだろう。
そもそもの敷地が広くて、その無骨な鉄筋造りの工場も、体育館くらいのい大きさがある。
お陰で、工場の裏に回るのに数分歩いた。
時折、通路を横断しているケーブルの束を除けば、スッキリとはしているけれど。
「工場に入るなんて初めて。なんか……工場って感じそのままですね」
イメージ通りの。
見た事もない機械がそこかしらにあって、それらが作動している音。
真ん中の方には、円形の……巨大なドーナツ型の機械が置かれている。
「うちは最新機器ばかりですんで、まだ綺麗な方なんですよ」
ふぅん、と気のない返事をしても、織り込み済みなのかお構いなしだ。
あれは何に使う、あっちは何がどうなってと、説明を欠かさない。
正直、何を聞いても分からないのだけど。
「おっと、こっちの扉から裏に出ます」
それは扉と言うよりも、大きなゲートだった。
縦に開閉するシャッターが、ゆっくりと人が通れる高さまで上がるとそこで止まった。
実際には、天井付近まで開くためのフレームがある。
「さぁさぁ、見てください聖女様。これが試作機なんでさぁ」
そのがっちりした体のせいでまだよく見えないけれど、嬉々とした声で指をさしているのは分かった。
彼の脇から頭を覗かせると、垂直に立った水面が、風に揺らめきもせずそこにあった。
「これって……」
一番に思い付いたのは、魔王城にある水鏡の間の祭壇。
水鏡だけを浮かせて、縦に置いたような。
「力場は安定してまして、あのまま固定出来とるんですがねぇ。向こうに行けんのです」
その水鏡の周りは、物々しい機器がうっそうとしているから、何とはなしに恐怖を感じる。
「向こうって、どこに繋がってる予定なんですか?」
そう聞くと、敷地の端の方にある、同じような物体を指差した。
少なくともこれを、二つ作っているということだ。
「あっちに飛べないんですが、何か分かりませんか。座標も合わせとるはずなんですが」
そう言われたところで、私は感覚的に覚えさせられたものだから、理屈までは理解していない。
「当然これって、何か物で実験したんですよね」
「もちろんです。ただ、やっぱり向こうには出て来んかったもんですから」
――うん?
「体験すれば何か、手っ取り早く分かるんじゃないかと」
――うそでしょ?
「自分の腕を突っ込んでみて、ハハッ。聖女様のお世話になっちまった。というワケですな」
「馬鹿ですか! 死んでてもおかしくなかったんですよ!」
「す、すんません!」
命を粗末に扱うものだから、ついカッとなって怒鳴ってしまった。
珍しく声を荒げたものだから、シェナもビクっとなっていた。
「もう……。それじゃ、実験で入れた物も、普通に消滅してただけじゃないですか」
あの機械がどういう原理のものかは分からないけど、危険なものだ。
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