テラーノベル
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「紬、ちょっと話があるんだ。」
春休みのある夜。
夕飯を食べ終えたばかりの白石紬は、父の真剣な表情に首を傾げた。
「どうしたの?」
すると父は、少し言いにくそうに口を開いた。
「……実は、お父さん、海外に転勤することになった。」
「え?」
紬の手が止まる。
「海外……?」
「うん。シンガポール支社に半年間だけ行くことになったんだ。」
「半年……。」
急な話だった。
父は国内の出張が多い仕事をしていたけれど、海外勤務なんて一度も聞いたことがない。
「でも、半年なら私も一緒に行けば……。」
そう言いかけて、父は困ったように笑った。
「それが難しいんだ。」
「どうして?」
「向こうの住む場所が決まるまで時間がかかるし、手続きもたくさんある。それに、紬は高校二年生になる大事な時期だろ?」
高校生活も残り二年。
転校して、また半年後に戻ってくるのは負担が大きい。
それは紬にも分かっていた。
「……じゃあ、私、一人で家にいる?」
「それも考えた。でも、お父さんは心配なんだ。」
母を亡くしてから、紬は父と二人で暮らしてきた。
だからこそ、半年間とはいえ、一人にするのは不安だったのだ。
「そこで、昔からの友達に相談したんだ。」
父は一枚の写真を見せた。
そこには、若い頃の父と、隣で笑っている男性が写っていた。
「この人……?」
「神代さん。お父さんの大学時代からの親友なんだ。」
「親友……。」
「昔、お父さんが仕事で大変だった時に何度も助けてもらってね。今でも家族ぐるみで付き合いがあるんだ。」
父は少し安心したように笑う。
「神代さんが、『それならうちで預かるよ』って言ってくれた。」
「……え?」
紬は目を瞬かせた。
「その人のお家に……住むの?」
「半年だけだけどね。」
「む、無理だよ!」
急に知らない家で暮らすなんて、想像もしていなかった。
「私、迷惑じゃないかな……。」
「大丈夫。向こうも歓迎してくれてるよ。」
そう言われても、不安は消えない。
知らない家。
知らない人。
うまくやっていけるのだろうか。
その時だった。
ピロン。
父のスマホが鳴る。
「お、神代さんからだ。」
父がメッセージを見て笑った。
「『紬ちゃんが安心できるように、家族みんなで待ってるよ』だって。」
その言葉に、紬の緊張が少しだけ和らいだ。
優しい人たちなのかもしれない。
「……分かった。」
紬は小さく頷く。
「半年だけ、お世話になります。」
すると父は、ほっとしたように笑った。
「ありがとう、紬。」
――そして数日後。
大きなスーツケースを持って、紬は神代家の前に立っていた。
「ここ……。」
想像していたよりも大きな家だった。
緊張で胸がいっぱいになる。
本当に、ここで半年間暮らすんだ。
大きく息を吸って、インターホンを押す。
ピンポーン。
ガチャ。
ドアが開いた。
「……誰?」
低く落ち着いた声。
そこに立っていたのは、黒髪の男の子だった。
そして次の瞬間。
「あ……。」
「……。」
二人同時に目を見開く。
同じ高校で何度も見かけたことのある人物。
学校一の人気者――
神代蒼真。
これが、二人の少し不思議な同居生活の始まりだった。
#青春恋愛
nae
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コメント
1件
あ~、なるほど!そうくるんですね!父の転勤をきっかけに、まさか学校一の人気者・神代くんとの同居生活が始まるなんて…。インターホンを開けた瞬間の、お互いの「あ…」って距離感、すごくドキドキしました。どうなるんだろう、続きが気になりすぎます!