この指輪が、全ての始まりだった。
『俺と結婚してくれ』
そう言って差し出された婚約指輪。
私はそれを受け取らず、逃げ出した。
私は、彼に相応しくなかった。
だから、逃げた。
それから一年が経った頃、偶然立ち寄った街で彼と再会した。彼は、私を覚えていなかった。
『どこかで会ったか?』
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが砕ける音が聞こえた。
涙が溢れそうになったけれど、必死に堪えて笑みを浮かべる。
「初めまして」
私は、彼の婚約者になった。
婚約してから数ヶ月後、彼にプロポーズされた。
嬉しくなかったと言えば嘘になる。でも、彼の隣にいるべきなのは、私じゃないと思った。
だから、断った。
だけど、諦めてくれなくて。
「俺のこと、嫌い?」
そう聞かれたら、答えは決まっていた。「……うん、嫌いだよ」
彼は、少し悲しそうな顔をしていた。
その顔を見て、私は心の中で笑っていた。
ざまあみろ、と。
私のことが好きだから、こんなことをしたんでしょ。
だったら、もう近づかないでよ。
私が好きになったら、絶対に不幸になるんだから。
だから、これで終わり。
さようなら、私の初恋。
あなたは、どうしてこうも私の心を乱すのか。
あなたの一挙手一投足に、私は翻弄される。
あなたが他の女の子と話していれば、胸が苦しくなる。
あなたの笑顔を見るだけで、幸せになれる。
なのに──その幸せな気持ちは一瞬で消えてしまうのだ。
私が、私でなくなってしまう。
私は、一体何者なのか。
私は、いったい何がしたいのか。
私は、何のために生きているのか。
私は、これから、何を目指すのか。
答えをくれる誰かはいないか。
「なーんて、ね」
ふっと息をつく。
そうして、目の前に広がる暗闇を見つめた。
ここは、私の部屋。
私は今、ベッドの上で仰向けになっている
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