コメント
0件
この指輪が、全ての始まりだった。
『俺と結婚してくれ』
そう言って差し出された婚約指輪。
私はそれを受け取らず、逃げ出した。
私は、彼に相応しくなかった。
だから、逃げた。
それから一年が経った頃、偶然立ち寄った街で彼と再会した。彼は、私を覚えていなかった。
『どこかで会ったか?』
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で何かが砕ける音が聞こえた。
涙が溢れそうになったけれど、必死に堪えて笑みを浮かべる。
「初めまして」
私は、彼の婚約者になった。
婚約してから数ヶ月後、彼にプロポーズされた。
嬉しくなかったと言えば嘘になる。でも、彼の隣にいるべきなのは、私じゃないと思った。
だから、断った。
だけど、諦めてくれなくて。
「俺のこと、嫌い?」
そう聞かれたら、答えは決まっていた。「……うん、嫌いだよ」
彼は、少し悲しそうな顔をしていた。
その顔を見て、私は心の中で笑っていた。
ざまあみろ、と。
私のことが好きだから、こんなことをしたんでしょ。
だったら、もう近づかないでよ。
私が好きになったら、絶対に不幸になるんだから。
だから、これで終わり。
さようなら、私の初恋。
あなたは、どうしてこうも私の心を乱すのか。
あなたの一挙手一投足に、私は翻弄される。
あなたが他の女の子と話していれば、胸が苦しくなる。
あなたの笑顔を見るだけで、幸せになれる。
なのに──その幸せな気持ちは一瞬で消えてしまうのだ。
私が、私でなくなってしまう。
私は、一体何者なのか。
私は、いったい何がしたいのか。
私は、何のために生きているのか。
私は、これから、何を目指すのか。
答えをくれる誰かはいないか。
「なーんて、ね」
ふっと息をつく。
そうして、目の前に広がる暗闇を見つめた。
ここは、私の部屋。
私は今、ベッドの上で仰向けになっている