テラーノベル
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E.D.E.N.第三調整センターは、白かった。
建物全体が白い。壁も、床も、天井も、清潔な白。
けれど、冷たさはない。いたるところに光がやわらかく塗り込められている。
エントランスを抜けると、目の前に大きな吹き抜けが広がっていた。
三階まで視線が抜ける。
ガラスの天井から、光が降ってくる。
明るくて開放的で、わたしが想像していた「再教育」という言葉の持つ薄暗いイメージと、上手く結びつかない。
吹き抜けを囲むように廊下が巡っていて、上の階を誰かが歩いているのが見えた。
立ち止まっても、俯いても、視線から逃げられる場所がない。
「冰砂さん、ようこそ」
女性の声に、振り向く。
指導員だと名乗る女性は、白い服を着て、穏やかに微笑んでいた。
その表情は、わたしに疑われることを想定していない。
「こちらへどうぞ」
入所時のオリエンテーションがあると聞かされる。
女性の後ろをついて歩く。廊下は広くて、足音は床に触れた瞬間に消えた。
吸い込まれるみたいに、静かだ。
大きな窓ガラスの向こうに、中庭が見える。
整えられた芝生。間隔よく植えられた木々。
ベンチに誰かが座っていた。
廊下ですれ違う人がいる。
若い男性は、わたしとそう変わらない年齢だろう。
首元のチョーカーも、手首の腕輪も、わたしと同じ。
彼はわたしを見ない。見ない、というより──
見る必要がないからだ。
オリエンテーションは、白い部屋で行われた。
窓が大きくて、光がやわらかい。壁には装飾がなく、机と椅子だけが置かれている。
圧迫感はない。むしろ安心する空間だ。
向かいに座っているのは、女性だった。年齢は、三十代半ばくらい。
ベージュの柔らかそうなブラウスを着ていて、表情も穏やかだ。
「|瑪白 冰砂《ましろ ひすな》さんですね。今日は来てくださってありがとうございます」
名前を呼ばれる。
話し方が学校の先生に似ている。落ち着いていて、聞き取りやすい声質。
「まず、安心してほしいんですが──」
彼女は軽く手を組んだ。
「ここは、罰を与える場所ではありません」
わたしは頷く。
「ただ、生活を少し楽にするための、調整の場です」
調整。その言葉は、何度も聞いてきた。
「早速ですが、ひとつ確認させてください」
「はい」
「冰砂さんは、何かを決めるとき──
AIに確認する前に、動いてしまうことはありますか?」
胸の奥が、少しだけ揺れた。
「……あります」
「そうですか」
彼女は驚きも否定もしない。ただ、頷くだけ。
「平均的には多くの方が、まずAIに相談する、という行動を取ります。
ですが……」
彼女はタブレットを見ずに、わたしを見た。
「冰砂さんは、見てから動くタイプなんですね」
そのとおりだと思った。
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