テラーノベル
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突っ込んだら負けです。(言い訳)
ヨコハマの朝。中原中也の自宅のベッドで、二つの絶叫が同時に重なった。
「……ッ、何だァ!? ベッドが縮んだのか、それとも俺の脚が伸びすぎたのか!?」 「……いたた、天井が遠い。というか、視界が低い……。中也、君、普段こんなに地面に近い場所で生活していたのかい? 酔いそうだ……」
事の始まりは、前日の任務で押収した「身体的特徴をシャッフルする」という極めて馬鹿げた異能を持つ賊の仕業だった。 二人は今、最悪の状況に直面していた。 「筋肉量や容姿はそのままに、身長(体の長さ)だけが入れ替わってしまった」のである。
リビングに移動した二人は、鏡の前で愕然とした。
目の前には、「身長181cmになった中原中也」がいた。 ただでさえ威圧感のあるマフィアの幹部が、太宰のモデルのような長身を手に入れたのだ。しかし、中身の筋肉量はそのままなので、以前より少しスリムになった印象だが、その脚の長さはもはや凶器である。
そしてその隣には、「身長160cmになった太宰治」が立っていた。 ひょろりと長かった手足はどこへやら、こじんまりと纏まってしまった太宰。筋肉量が変わらないせいで、元々細身だった太宰は、なんだか妙に「ぎゅっ」と身が詰まったような、少年のような体格になっていた。
「……ふふ、あはははは! 見てよ中也、君の帽子が浮いているみたいだ! そして私は、ついに君の視界を共有できたよ。……うわぁ、本当に空気が薄いし、地面が近いね。これは絶望的だ」
「笑ってんじゃねぇクソ鯖ッ!! なんだこの脚の長さは! 自分の脚なのに、歩くたびに家具にぶつかるじゃねぇか! つーか……」
長身の中也が、グイと腰を屈めて太宰を覗き込む。
「……おい太宰。お前、上から見るとマジでちっせぇな。なんか……腹立つくらい収まりがいいじゃねぇか」
「そんな慈しむような目で私を見ないでくれたまえ! 私は大きい方がいいんだ。高いところにある薬棚に手が届かないなんて、自殺の効率が悪すぎる!」
しかし、この異変は思わぬ「イチャイチャ」を引き起こすことになった。
「おい、コーヒー淹れたぞ。……って、おい、何してやがる」
中也がキッチンから戻ると、ソファに座った太宰が、自分の短くなった脚をパタパタさせながら拗ねていた。太宰はそのまま、立ち上がった中也の腰に(今までは中也が太宰の腰に抱きついていた高さで)しがみついた。
「中也、高い高いして」
「……あァ!?」
「君は今、無駄にデカいんだから。私を抱き上げて窓の外を見せておくれよ」
「テメェ……」
毒気を抜かれた中也は、太宰の脇に手を入れて、ひょいと持ち上げた。 筋肉量は変わらない。つまり、中也の「重力使い」としての腕力は健在だ。一方で太宰は、長さが減った分、なんとなく扱いやすくなっている。
「……軽いな」
「失礼だね。密度は変わっていないはずだよ」
中也の腕の中に、すっぽりと収まる太宰。 今までは太宰が中也を見下ろしてニヤニヤしていたが、今は中也が、腕の中の小さな(?)太宰を見下ろす形になる。
「……悪くねぇな、これ」
「えっ」
「いや、いつもはテメェを見上げるのが癪だったんだが。こうして腕の中に完璧に収まってると……なんだ、その。……守ってやりたくなるっつーか」
中也が耳まで赤くして視線を逸らす。181cmの美形が照れる破壊力は凄まじい。 対する160cmの太宰は、顔を真っ赤にして中也の胸板に頭をぶつけた。
「……君、身長が伸びると性格まで男前になるのかい!? 卑怯だ! そのガワでそんな台詞を吐くなんて、私の心臓が持たないよ!」
「るせぇ! 俺は元から男前だ!」
その後、数時間はそのままの姿で過ごした二人。 中也は、今まで届かなかった棚の上のワインを軽々と取り、太宰は中也の大きすぎるシャツをワンピースのように着て、中也の膝の上に「すぽっ」と納まって昼寝を楽しんだ。
「中也、このまま戻らなくてもいい気がしてきたよ。君の膝の上、意外と安定感があるし」
「俺は困るんだよ! 服が全部つんつるてんだろうが! ズボンが七分丈になってんだぞ!」
夕方、異能の効果が切れて元の身長に戻った時、太宰は少しだけ残念そうに溜息をついた。
「……なんだよ、その顔は」
「いや、中也に見下ろされるのも、案外悪くなかったなと思ってね」
「……フン。元のサイズに戻ったところで、俺がお前を抱き上げてやるのは変わらねぇよ。……ほら、来い」
中也は元の160cmの体で、181cmの太宰を軽々と抱き寄せ(力技である)、深いキスを贈った。 身体の長さなんて関係ない。 重力と虚無が惹かれ合う力は、どんなサイズになろうとも、ヨコハマで一番熱くて幸せなままであった。
コメント
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身長逆転っていいですよね…_:(´ཀ`」 ∠):グハッ もうなんか色々好き過ぎて言葉にできません…