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※キメツ学園体育教師・冨岡先生(21)、生徒・胡蝶しのぶ(18)、2人とも前世記憶アリ
学園での日々は、教師と生徒として──けれど誰よりも親しい、そんな穏やかな関係だった。
ある日の放課後、しのぶはふいに義勇に声をかけた。
「冨岡先生、卒業式の日……先生が毎日着てるそのジャージが欲しいです……!」
義勇は驚いたように目を丸くし、首をかしげた。
「……ジャージ?」
普段は無口で真面目な義勇にとって、使い古したジャージをプレゼントとしてねだられるとは思っていなかった。
「プレゼントなら分かるが……本当にこのジャージでいいのか?」
しのぶはそんな疑問を見透かしたように、少し恥ずかしそうに微笑んだ。
「みんな、好きな人の学ランの第二ボタンを貰うらしいんです。私も欲しいけど、先生は学ランじゃないから……いつも着てる、思い出のあるそのジャージが欲しいんです。」
その姿はどうしようもなく愛らしくて、義勇は胸の奥が熱くなるのを感じた。
抱きしめたくなる衝動を理性でぎゅっと抑え、静かにしのぶの頭に手をぽんと置いた。
「……わかった。……大切にしろよ」
義勇は少し口元を緩め、しのぶの頭に手をぽんと置き、優しく撫でた。
しのぶは嬉しそうに笑い、すっと義勇にぎゅっと抱き着いたかと思うと、すぐに離れて軽やかに走り去った。
その後ろ姿を見つめながら、義勇は静かに呟いた。
「……特別だぞ。」
卒業式の日🎓🌸
卒業式の式典が終わり、教室の中は和やかな空気に包まれていた。保護者や友人たちの挨拶が一段落し、写真撮影や別れの言葉を交わす卒業生たちの波も徐々に落ち着きを見せていた。
そんな中、冨岡義勇はスーツに身を包み、しっかりとした足取りで一人の少女のもとへ歩み寄っていた。
彼の手にはジャージを包んだ紙袋と花束があった。花束は小さくとも、どの花束よりも鮮やかに美しく咲き誇り、まるでしのぶのように繊細で凛とした存在感を放っていた。
しのぶの前に立ち、優しく彼女の頭にぽんと手を置く。
「……卒業おめでとう、胡蝶。」
しのぶは頬を染め、嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとうございます、冨岡先生。」
義勇が差し出した紙袋と花束を受け取ったしのぶの目は、誰よりも輝いていた。
義勇はその場で半歩後ろに下がり、しのぶの目をじっと見据える。緊張のせいか少し言葉にぎこちなさが混じるが、真っ直ぐな想いを伝えた。
「……随分、待たせたな。……俺はずっと前《前世》からお前のことが好きだった。絶対に幸せにする。俺と付き合ってくれ。」
その言葉に、しのぶは思わず涙をこぼし、喜びを抑えきれずに義勇へと抱きついた。
「もう卒業したから……堂々と抱きつけますね……♡」
照れながらも満面の笑顔で、抱きしめる腕に力を込めた。
義勇も優しく、しかし確かな強さでしのぶを包み込み返した。
二人の心が重なり合い、卒業の日に紡がれた新たな一歩が、確かな未来への希望となって静かに灯った。
『第二ボタンとジャージ [終]』