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重力エレベーターが、鼓膜を圧迫するような加速で「麒麟の塔」の最上階へと滑り上がる。
表示される階数が跳ね上がるたびに、俺の意識は情報の重圧で研ぎ澄まされていった。
チーン――
静かに扉が開いた先は、無機質なサーバーラックが並ぶ回廊。
その突き当たり、東京の全景を一望できる全面ガラス張りの部屋に、一人の男が背を向けて立っていた。
「……遅かったね、黒嵜君。いや、榊原の息子よ」
ゆっくりと振り返った久我山の顔は、驚くほど穏やかだった。
その瞳は澄み渡り、狂気すら感じさせない。
「正しいことをしている」という絶対的な確信に満ちた者の顔だ。
「久我山……。お前が始めたこの狂ったカウントダウンを、今すぐ止めろ」
「止めろ、か。君にはこの光景が、ただの破壊に見えるのか?」
久我山が指し示した先、地上では、新宿から始まった「再生」の光が東京全体へと広がろうとしていた。
「100日後、この国の古いシステムはすべて消滅する。官僚主義、利権、不透明な政治……それらすべてをデジタルの火で焼き払い、完璧な『秩序』へ移行する。これは救済だよ」
「……誰のための救済だ?お前にとっての救済は、魂を抜いて数字の一部にすることだってのか!」
俺は脇差を抜き放ち、一歩踏み出した。
だが、足が動かない。
床から伸びた不可視の磁力拘束が、俺の身体をその場に釘付けにした。
「残念ながら、君という『例外』を許容する余地は、新しい世界にはないんだ」
久我山が手元のコンソールを操作する。
すると、俺の背後にあった大型モニターに、見覚えのある古い写真が映し出された。
「……親父?」
それは三十年前、組織を抜ける直前の親父の姿だった。
その隣には、若き日の久我山が肩を並べて笑っている。
「榊原も、かつてはこの理想に共鳴していた。だが、彼は土壇場で臆した……君という『命』に執着し、大局を見失ったのだ」
「親父が守ろうとしたのは、数字じゃねえ。人間の体温なんだよ!」
俺は、情報の過負荷で焼き切れかかった脳の深部――
地底で手に入れた「ノイズの種」を強制的に発火させた。
システムが予測する「正常な人間の筋力」を超え、磁力拘束を力任せに引きちぎる。
「……何ッ!?」
久我山の顔に、初めて焦りの色が浮かんだ。
俺は脇差を真っ向から振り下ろした。
だが、刃がその首に届く直前、塔全体を揺るがす巨大な地鳴りが響き渡る。
「……始まったか」
久我山が血を流しながらも、不敵に微笑む。
「100日目の朝まで、あと『73日』。……だが、カウントダウンは加速する。君たちが望んだ『人間らしさ』というカオスが、自ら崩壊を早めるのだ」
塔の外壁が剥がれ落ち、中から巨大な「発信器」がその禍々しい姿を現した。