闘気は基本的に魔力のように術式等を必要としない制御しやすいエネルギーだ。これはさっき言った自身の体と同質というのと関係がある。闘気は自身の体を動かすように扱える力ということだ。
「一度、全ての闘気を吐き出して最初からやって見ると良い」
「分かった」
少女はふぅぅと深く息を吐き、一息で全ての闘気を放出した。この時点で既にセンスがあるな。
「……すぅ……ふぅ……」
もう一度深呼吸を始める少女。すると、直ぐに丹田で闘気が練り上げられていく。
「……出来た」
「早いな。良いぞ」
そして、少女は俺が言うまでも無くその闘気を全身に巡らせた。
「……凄いな。俺の数倍センスがあるぞ」
「良かった。私、強くなれる?」
「あぁ、間違いないな」
俺が言うと、少女は嬉しそうに頷いた。
「もう一度詳しく言っておくが、その丹田で魔力を回しながら練るというのが重要だ。丹田を中心に魔力が渦を巻いているように、全身の魔力を丹田に集めてそこで魔力を回すんだ。これが最速で魔力を闘気に変換するコツだ」
「うん。分かってる」
まぁ、このくらいで良いか。
「闘気の圧縮や拡散、その他の技術は協会で習うと良い」
「でも、私……お金ない」
確かに、服も刀もボロボロだったからな。そんな感じはした。
「大丈夫だ。ボグ・オークの死体を売れば金になる。必要な部位は分かるか?」
「確かに、これでやっとお金が……うん、分かる。大丈夫」
かなり金に困っていたようだな。まぁ、これからは困らないだろう。自分の腕だけで稼げる筈だ。
「……そういえば、剣は誰に習ったんだ?」
「おじいちゃん。天日流って言って、まだちゃんと技は使えないけど……今なら、出来るかも」
やっぱり、ちゃんと流派がある剣だったのか。
「じゃあ、頑張れよ。いつか強くなって、有名になったら日本のどこかで俺が喜んでいると思ってくれ」
「うん。私……いつかは、この刀に相応しい人になる」
どこか負い目を感じているような表情を見て、俺は首を振った。見えてはいないだろうが。
「その刀に相応しいと思ったから渡したんだ。それはここまで技術を磨いて来たアンタへの正当な報酬だ。心配しなくても、そのまま鍛錬を積めば扱い切れるようになる」
「……優しいね、刀の人」
この歳でこれだけの技量を持つ剣士があんななまくらを持っているのが嫌だっただけだ。この刀を渡したのは優しさじゃなくて、ただの俺のエゴというものだろう。
「それと、服は後でこれに着替えておけ。それよりは多分マシだ」
そして、これは俺の純粋な優しさだ。流石に年頃の少女がこの格好は不味いだろう。ギリギリファッションと言えなくも無いが。
「ありがと、刀の人」
異世界の服である為、ファッション的にはアレだが、無地なので目立ちはしないだろう。因みに、この服には特に効果は無い。普通の服よりはよっぽど頑丈ではあるが、その程度だ。
「八研《やとぎ》 御日《みか》。私の名前」
ミカか、覚えた。
「もし、私が立派なハンターになったら……私に会いに来て欲しい」
「……そうだな。二級以上になったなら会いに行く。その時は、祝いの品でも持っていくか」
俺がそう言うと、ミカは微笑んだ。
「うん。楽しみにしてる」
「あぁ、俺も楽しみにしてる」
協会に所属する特殊狩猟者には一級から七級までの階級が存在する。一級、準一級、二級と上から三番目のこの階級に辿り着くのは並大抵のことではない。が、俺は彼女ならそこに辿り着くだろうと確信を持っている。
「じゃあ……またいつか、な」
「うん。また、刀の人」
俺は別れを告げ、そして次に狙いを付けていた標的の背後に転移した。
♢
狩りを終えた俺は、そのまま協会で素材を売ることはせずに東京へ向かった。今、協会に行くと事情聴取とかで時間を取られて面倒なことになる可能性がある。
「どこか、協会の関与なく素材を売れる場所……まぁ、そんなに急いで売る必要も無いんだが」
今のところ、俺の家は無いので家賃や光熱費等はかからないし、食料においても余裕がある。風呂も魔術で体を浄化してしまえば終わりだ。寝床に関しては、正直どこでだって寝れる。
「問題は、そんなものが文化的生活とは決して言えないことだな」
東京は人が多いな。電車には乗りたくなかったので走ってきたが、街でこれなら電車は大変だろうな。
「さて、どうやって探したもんか」
と、そこまで言って俺は気付いた。
「あったな。文明の利器が」
俺は道の端に寄り、虚空からスマホを取り出した。そして、素早く検索していく。
「この検索とかも犀川に監視されてる可能性が……流石に、考えすぎだな」
思考を振り切り、ネットの海を彷徨っているとそれっぽいものを見つけた。地下にある店で、素材から武器、ポーションまで何でも買い取ってくれるらしい。
「こっちか」
直ぐにマップアプリに連動し、見つけた店の場所へのナビを開始した。
「近いな。直ぐだ」
暫く歩くと、俺はビルの脇に地下に続く階段を見つけた。明らかにここだ。しかし、看板の類は無い。
「……行くか」
暗い地下への階段。少し躊躇される部分はあるが、俺はその階段を降りることにした。
「木の扉、か」
随分、雰囲気を大事にする奴らしい。
「っと、忘れるところだったな」
俺は虚空から大きめの袋を取り出し、そこに魔物の素材を放り込んだ。こうしておかないと不自然だからな。流石に店員の目の前で何もない空間から魔物の素材を取り出す訳にはいかない。
「さて、入るか」
木の扉を押すと、ギィと軋む音が鳴った。
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