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「今夜はここに帰ってきてね」
今朝、レダーさんが買ったという家から出た時に言われたことだ。
あれからお互いの仕事は佳境を迎えていたが、言われた通りなるべくこの家に帰って二人の時間を作っていた。
色んな兼ね合いで別の持ち家で寝ることもあった中、彼からのこの言葉。
何よりそのときの笑顔から、今夜は”そういうこと”なのだろうと理解した。
今日も医者として東奔西走し、泥だらけになって帰宅した。……今日が雨上がりだっただけで、夜のことが気になって仕事に身が入らなかった訳では無い。
ささっと風呂から上がって体を拭く。一応、下部の隅まで洗っておいた。
薄手の部屋着に着替えるとレダーさんも帰ってきていたようで、寝室のベットに腰掛けていた。
「レダーさん、おかえりなさい。お風呂お先に頂きました」
駆け寄りながら話しかけ、彼の横に同じく腰掛ける。隣に来た私を見てレダーさんは顔を上げた。
「セックスの話なんだけどさあ」
むせた。
今からそういうことをするのだと理解はしているが、出会って一言目がそれはいかがなものだろうか。
「まだ挿れれないでしょ?でも気持ちよくはさせたいから今日は何しようかって考えてたんだよ」
「……なるほど」
……彼にとっては今までの行為は足りなかっただろうか。
私はただ手で抜き合うだけで十分なのに。そんな工夫を凝らさなくとも性欲はもう処理されているのに。過剰なのではと少し怖気付く。
……でも、正直レダーさんが満足できているかの不安より、レダーさんが私を気持ちよくさせたいがために頭を動かしていること。その事実に気分が良くなった。
「いや思いついたのは”咥える”なんだけどさ」
「…………なる、ほど……」
「うん、ぐち逸が納得しないやろなって」
「……医療キットからウェットティッシュやらガーゼやらを取り出すことになりますが」
「ムードもクソもない訳だ」
「……すみません。あなたのことが好きではあるんですが」
それが愛情表現の一つということは知っているが、衛生面を考える医者脳が働いてしまいどうしても抵抗を覚える。
いつかそんなことどうでも良くなるほど愛したくなるのだろうか。そこまでいってしまったときには、もう全部どうしようもないのだろうけど。
「……ねえ、ぐち逸。ガーゼがあるの?」
「?まあ、はい。怪我の治療に必要ですから」
レダーさんの口角が上がった。
……何だ。私の知らない何かを企んでいる。少し嫌な予感がして後ずさる。
「ローションガーゼって知ってる?」
それは、未知との遭遇だった。