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「空はどうして青いんだろう……」
海パン姿になった優斗が、体育座りをしながら海を眺め、そっと呟く。
下らない呟きだが、そんな下らない事を呟かないといけないほど彼は追い詰められていた。
彩音と遥が着替えて戻ってきた際に、彩音に何を言われるのか。嫌な予感が、頭の中で次々と浮かんでいく。
なんで遥にちゃんと口止めをしていなかったのかと後悔するが、時すでに遅しである。
このまま戻って来なければと思う反面、もし戻って来なければそれはそれで怖い。
もしかしたら、更衣室で着替えずに、親に電話をしている可能性だってありえる。
振り返ったら、自分や彩音の両親たちが居て、一緒にお風呂に入った件について問い詰められるかもしれない。
「いや、でもそもそも遥が勝手に入ってきただけだし」
などと言い訳を無理やり口にしてみるが、頭では理解している。そんな言い訳が通じるわけがないと。
もし勝手に入ってきたのなら、追い出すなり、自分が風呂を出るなり手段はいくらでもあったと言われればそれまで。
多少不条理さは感じないでもないが、出て行かないで一緒に風呂に入り続けた時点で、遥の裸に興味があったという下心はお見通しである。
うんうん唸りながら、何度目かのため息を吐いた時だった。
「優斗君。お待たせ」
背後から声をかけられ、ビクリと優斗が反応をする。
いつものように話しかける彩音。後ろに居るからその表情は優斗からは伺い知れない。
優斗が恐る恐る振り返ると、そこにはいつもと変わらない笑顔の彩音と遥が立っている。
「お、おう。もう着替えは終わった?」
「うん。それとね、優斗君」
「は、はい!」
いきなり来たかと、身構える優斗。
まるで判決を待つ罪人のような気持ちで彩音を見上げると、彩音はにっこりと笑顔を見せる。
「遥ちゃん、着替えちゃんとあったから安心して良いよ」
「そ、そうか」
安心したいのは別の事である。
だが、その事を口に出せば藪蛇になりかねない。
頭が追い付かず、彩音と遥が何か楽しそうに会話をしているが、優斗の頭にはその内容が全く入らずにいた。
唯一分かる事は、風呂の件で言及がない事だけ。
いつ来るのか、今か今かと構え、彩音が「あっ、そういえば」というたびにビクつく。
結局、風呂の件で何か言われる事もなく、会話が終わる。
「アンちゃん、泳ごうぜ!」
浮き輪を片手に、優斗の返事を待たずして遥が海へと駆けていく。
一人駆けだしていく遥に対し、「私はもう少ししてから泳ぐね」と言って彩音はシートの上に座る。
このまま彩音を置いて行くのは、優斗としてはしのびないが、「遥ちゃん一人だと危ないかもしれないから」と言われれば、行かざるを得ない。
「それじゃ、先に楽しんでくるから」
そう言って遥を追いかけ、海へと向かっていく。
既に海に入るどころか、足のつかないような場所まで行き、浮き輪でぷかぷか浮いて遥。
先ほどまでの憂鬱な気分を吹き飛ばすために、わざとテンションを上げて遥の元へと向かっていく。
「アンちゃん、ここ波が凄くてめっちゃ面白いんだけど!」
「確かに波が凄いけど、危なくないか?」
「おっ、ビビってる? アンちゃんビビっちゃってる?」
調子に乗って煽る遥の頭を軽くはたく優斗。
「アホか、ビビるとかじゃなくて、波が高いから危なくないかって言ってるんだ」
「フフーン、ボクは大丈夫。何故なら浮き輪があるからね!」
ドヤ顔を見せる遥だが、そのドヤ顔は即座に海に沈む事になる。
高笑いをした瞬間に、波に押し寄せられ、まるでギャグ漫画のように浮き輪ごと綺麗にひっくり返されたのだ。
水中で逆立ちになった遥が、逆立ちの姿勢のまま足をバタつかせる。
それを見て優斗がゲラゲラと笑うが、笑っていられたのも、最初の数秒。
「えっ、マジか」
足を空中でバタつかせながら、一向に浮上しない遥を見て理解する。これはガチでおぼれているヤツだと。
慌てて水中に顔を付け、遥の手を取る。しかし、遥の頭を浮き上がらせようにも、足をバタつかせているせいで浮き輪が腰のあたりで引っかかり逆立ちの姿勢から戻れずにいた。
このままではヤバいのは優斗よりも、溺れている遥の方が分かっている。だからこそ余計に暴れてしまう。余計に暴れれば暴れるほど、浮き輪から抜けられなくなる悪循環である。
(本当にこいつはアホか)
一度浮上すると、遥の足を掴み、無理やり海へと突っ込ませる。何度か顔を蹴られたりもするがお構いなしに。
何とか浮き輪から引きはがす事に成功し、水中で遥の手を取り無理やり浮き輪を掴ませる。
ゲホゲホと何度もむせながら、遥が落ち着くまで数分。
「アンちゃん怖かったよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「お約束のような展開をガチでする奴があるか!」
言いたい事は山ほどある優斗だが、また同じような波が来て、ひっくり返られでもしたら迷惑な事この上ない。
色々な言葉を飲み込み、「良いから、波が浅いところまで行くぞ」と言って遥の手を引くと、浅瀬まで一緒に泳いで行った。