テラーノベル
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夜は、まだ深い。
ルナティックの気配は消えたが、空気は張り詰めたままだ。
「……」
ノスフェラトゥが、静かに口を開く。
「……お前の名前は」
一拍、置く。
「思い出したのか」
「……」
少しだけ、視線を逸らす。
でも、隠さない。
「……思い出した」
短く答える。
すべてが戻ってきた。
あの声も。
あの赤も。
エリオットの最後も。
「……」
沈黙。
ノスフェラトゥは、何も言わない。
続きを、待っている。
「……でも」
息を吐く。
ゆっくりと。
「もういい」
「……」
わずかに、瞳が揺れる。
「……名前は、置いていく」
はっきりと言う。
逃げじゃない。
選択として。
「……」
風が吹く。
その言葉をさらうみたいに。
「……完全に許すことはできない」
続ける。
視線を、外さない。
「……あいつのことは、消えねぇからな」
「……」
ノスフェラトゥは、否定しない。
できない。
「……でも」
ほんの少し、間を置く。
「城に戻れば、ピザが作れる」
静かに。
でも、確かに。
「……」
その言葉は、妙に現実的で。
それでいて――
全部を繋いでいた。
「……だから」
肩の力を、抜く。
「俺は、Pizza guyでいい」
「……」
長い沈黙。
夜の中で、二人だけが立っている。
「……そうか」
ノスフェラトゥが、低く言う。
それ以上は、何も言わない。
受け入れるとも、拒むとも言わない。
ただ――
その選択を、そのまま置く。
「……」
数秒。
そして。
「……戻るか」
Pizza guyが言う。
軽く。
でも、その一言には重さがある。
「……あぁ」
ノスフェラトゥが答える。
今度は、迷いがない。
並んで歩く。
距離は、少しだけある。
でも。
完全には離れていない。
「……」
トマトは、まだ手にある。
潰れた赤。
それでも――
種は、残っている。
「……」
城への道。
同じ場所へ戻る。
でも。
さっきまでとは違う。
「……」
許したわけじゃない。
忘れたわけでもない。
それでも――
戻ると決めた。
10,618
その事実だけが、今のふたりを繋いでいた。
城の門が、見えてくる。
暗い影。
静かな居場所。
「……」
Pizza guyは、ほんの少しだけ息を吐く。
「……ピザ、作るぞ」
ぼそっと言う。
「今度はちゃんとしたやつ」
「……」
ノスフェラトゥは、わずかに視線を向ける。
「……期待はしない」
「しとけよ」
少し笑う。
そのやり取りは――
前と同じで。
でも、もう同じではない。
二人は、城へ戻る。
過去を抱えたまま。
それでも、同じ場所へ。
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