テラーノベル
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城が見える。
崩れかけた石壁。
変わらないはずの場所。
でも――
「……」
さっきまでとは、少し違う距離感。
隣にいる。
それだけで、意味が変わってしまった。
「……」
門の前で、足が止まる。
そのまま中に入る――はずだった。
でも。
「……なぁ」
視線をずらす。
庭。
荒れた土。
何も育っていないように見える場所。
「……ここで」
少ししゃがむ。
土に触れる。
乾いている。
でも――完全じゃない。
「トマト、育つかな」
ぽつりと呟く。
「……」
ノスフェラトゥも視線を落とす。
少しだけ、間があって。
「……育つ」
短く言う。
「まだ、土は死んでいない」
「……」
その言葉に。
少しだけ、息が抜ける。
「……そっか」
小さく笑う。
手の中を見る。
さっき、潰したトマト。
ぐしゃぐしゃになった赤。
でも――
「……」
指で、ほぐす。
中から、小さな種。
いくつも。
「……ちゃんと残ってんじゃん」
呟く。
ナイフで軽く土を掘る。
深くはない。
それでも十分。
「……」
一つ。
また一つ。
種を落とす。
土をかける。
雑だ。
でも、丁寧でもある。
「……」
手を払う。
立ち上がる。
「……」
しばらく、その場所を見る。
何も変わらない。
今は、まだ。
「……」
でも。
「……いいかもな」
ぽつりと。
「……」
ノスフェラトゥは何も言わない。
ただ、隣に立っている。
「……」
少しだけ、間。
そして。
「……またさ」
視線は土のまま。
「腹減ったら」
軽く言う。
「吸っていい」
「……」
空気が、止まる。
ノスフェラトゥの視線が、動く。
「……いいのか」
低く。
確かめるように。
「……」
少しだけ考える。
そして。
「死なない程度にな」
いつも通りの言い方。
軽く。
でも――
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ちゃんと、決めた言葉。
「……」
沈黙。
風が吹く。
埋めたばかりの土が、わずかに揺れる。
「……」
ノスフェラトゥは、すぐには答えない。
その代わり。
ほんの少しだけ、視線を落とす。
埋められた場所へ。
「……」
そして。
「……分かった」
短く。
だが、はっきりと。
「……」
それ以上は、何も言わない。
でも。
その一言には、ちゃんと意味があった。
「……」
少しだけ、肩の力が抜ける。
「……行くか」
城の方へ向く。
「……あぁ」
並んで歩く。
距離は、まだ近すぎない。
でも――
離れてもいない。
ただ、
土に埋めたものがある。
それだけで。
前とは、少し違っていた。
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