月が綺麗と笑い合うのは君がいいけれど、あなたの運命の人は俺じゃない。
こんな設定じゃなくて、こんな世界線じゃなくて、あなたと共に歩める世界線だったのならば。この世界の設定を書き直せられたのならば。俺は、あなたの隣にいたい。
だから、さようなら。こんな世界線の俺は、あなたと一緒にいていいはずがないから。この人生の別れを今、告げるとき。だから、声を出せ。涙を堪えろ。これは、俺が選んだ道だろ。
たった一人の貴方に会えるのはこの人生だけなんです。
「セラさん」
「ロウくん。どうかした?」
「あー、いやその。今日ご飯食べに行きませんか」
「あ、いいね。どこか行きたいところあるの?」
「はい!実は気になっていたお店があって。ここなんですけど」
「めっちゃオシャレだね。いいじゃん、行こうよ」
そんな会話を繰り広げる俺ら。俺らは付き合っていた。もちろん他の人には内緒で。
告白をしてくれたのはロウくんの方だった。俺は別に男の人から好かれることは嫌いじゃないし、俺が好きになってくれる人を選んでいいはずがないと思うから。俺は、好きだと言ってくれた人に対して最大限の愛を渡すだけしかできない。俺みたいな人が愛されるなんて奇跡でしかないんだから。
でも、俺みたいな人がロウくんの隣にいていいはずがないんだ。俺みたいな人がロウくんを好きだと言っていいはずがない。まず、俺は人を好きにはなっていけないし、俺みたいな人を好きになってもらっていいはずがない。俺は、一生を苦しみの中で過ごさないといけない。俺が殺めた人の中にはただ幸せに家庭を築いていた人だっていた。そんな人たちの生活を壊してきた俺が、人に好かれて、愛されて、愛して、好きと言っていいはずがない。だから、いつか言おうと思っていた。でも、彼を傷つけてはいけなかった。俺みたいな人が好かれていいはずがないとは言っても、それは彼を傷つけていい理由にはならない。俺は、彼にとっての悪役で別れないといけない。
「みんな、みんなの人生をはちゃめちゃにして壊してしまうわがまま。そんなわがまま、言ってもいい?」
俺は、ロウくんのために、みんなを巻き込むかもしれない。でも、みんなは嫌だとしっかり言える人だ。嫌なら嫌と否定してくれるはず。嫌と言ったら、俺一人でやる、俺一人が悪役になればいい。でも、俺一人だとどうしてもできない気しかなかった。でも、そんなわがままをみんなは、
「「「いいよ」」」
と返事をしてくれた。なら、最後まで完璧でなければならない。彼を傷つけないで、悪役を演じて見せよう。
月の光が俺を照らす満月の夜。月が綺麗と笑うのは貴方と一緒がいいけれど、あいにくそれは叶わない。
「セラさん、話って?」
言おう、言わないといけない。俺が選んだ道だろ。
「ロウくん、今までありがと」
悪役で、悪者で、絶望させよう。
「役に立ったよwじゃあねぇ」
そう言って、俺は去る。何も情報はあげない。だって後に知ることになるから。優秀な俺の仲間が後をほんの少しだけ残して消えるから。
「っ」
俺は頑張った。ロウくんの前で泣かずに演じられたから。もう、逃げない。
「もしも、俺が暗殺者じゃなかったら。こんな世界線じゃなくて、ただの普通の人だったら。世界線が違っていたら。俺は貴方の隣にいたい」
でも、神は俺を俺という人間として生み出したのならば、俺はそれに従い、”俺”というキャラクターに相応しい立ち振る舞いをして見せよう。
「は?」
嘘だ。そんなことをする人でないと俺が、一番、一番よく知っている。
「嘘に決まってるだろ!!あの人たちが、そんなこと!!情報が違うんじゃないか!?俺も手伝うからもう一度調べ__」
「小柳くん、落ち着いて」
「落ち着いてられるか!!お前だってわかってんだろ!!セラさんや、凪さんたちが、一般人を巻き込むような事件を起こすような人じゃないって!!!」
「小柳くん、私たちだって今必死に調べてます。嘘だっていうために調べてるんです」
「お前だってそう思うだろ!?」
星導はセラさんにもお世話になっているはずだ。VTAの頃から俺らはあの二人にお世話になってるし、VTA組は奏斗さんや雲雀さんにお世話になってる人も多い。VTAでなくてもあの4人に何かしらでお世話になっている人だってめちゃつえーにはいる。なのに、あの人たちを疑うようなことっ。
「私だって、ダズガ先輩がそんなことするなんて一ミリも思ってません」
「なら!否定しろよ!!一言でもっ!!」
「でも、私たちの仕事は一般人を守ることです。そこに私情を挟めてはいけません。そうやって、何人のヒーローの命が消え去ったか。小柳くんも知っているでしょう?」
星導の言っていることは間違っていない。確かに、仕事に私情を挟め、悲惨な死に方をしたヒーローは少なくないし、大勢いる。俺たちの仕事はあくまで一般人を守ることであり、大切な人を正気に戻すことじゃない。だから、星導のいうことも合っているんだ。でも、それでも。
「なんだよ、じゃあ。俺は、俺らは」
涙なんて無意識のうちにこぼれ落ちていた。ただ、気付かぬうちに俺は目を拭っていた。もう、気づいていたんだ。勘付いてはいるんだ。あの4人が何か動いていることくらい。
「お世話になった、後輩として慕ってくれた、好きな先輩を、恩を仇で返せっていうのか?」
「小柳くん、辛いのは私もです。でも、なら最大限努力しましょう。一般人を巻き込んでも、まだ弁明の余地はあります。だから、今は先輩を信じましょう。それしかできません。ただ、無力な私たちは、信じるしかできないんです」
ヒーローとして活動していても、俺らは無力だ。お世話になって先輩たちに恩を仇で返さなければいけないほど、俺らは無力で卑怯だ。セラさん、セラフ。俺は、あなたを愛しているから。だから、信じてる。嘘だって信じてるから。戻ってきて、前みたいに笑い合って日々を過ごそう。それが、幸せってことを貴方も俺もよく知ってるじゃないか。
ずっと頭をよぎる。俺の下で喘ぐあなたの姿が。消え去らない貴方の姿。
「あっ♡ロウ、ロウっ///」
可愛い姿で、傷だらけの逞しい体が俺の下におさまって可愛げに声を出す姿が愛おしくて、大好きだった。それだけじゃない。普段元気に笑う姿、真面目に勉強をする姿、美味しそうにご飯を食べる姿、俺は彼の全てを好きだと言えるほど、俺はあの人を愛していたつもりだ。
「なんで、貴方はこの世界でたった一人しかいないのに」
貴方の代わりはいないと、なんで気づいてくれないのだろうか。セラさんが事件の犯人だった時、俺のことが頭に研ぎらなかったのだとうか。俺にとって、貴方はたった一人いる運命の人なのに。どんな貴方だって受け入れるのに。
「セラさん、セラさん!」
俺は満月が輝く日の夜に、セラさんの後ろ姿を見つけた。その時にはもう、事件を起こそうとしているのは四人で間違いないとヒーローの中で結論づいていた。でも、俺だけは嘘だって言い張った。だって、あの人たちがそんなことするわけないから。
「ロ、ロウくん?」
「やっぱり、何かの間違いですもんね!!セラさんたちが、事件なんて起こすはずないって!信じてましt__」
「本当にそうかな?」
暗闇の路地裏から現れる三人の影。手に持っているもので俺はわかってしまった。
「まだ、まだ間に合います!俺らだって、弁明するの手伝うからっ!だから、戻ってきてっ!!」
「すみませんね、私たちの可愛い末っ子のわがままですから」
その凪さんの声と共に、カチッというボタンを押す音がした。
「「「「ヒーロー、どれだけ粘れるかな?」」」」
俺は、裏切られたと、利用されていたんだとやっと理解するしかなかった。俺と恋仲に発展して、俺から情報を奪っていたなんて、信じられなかった。
「本当にいいの?セラ」
「うん、俺はいい。でも、みんなは良かったの?まだ戻れるよ、笑顔と笑いの生活に」
「ばかか。僕らはセラのわがままを聞いてる最中なんだけど〜?僕だって裏切るような真似はしたくない」
「ありがと、みんな」
ただ、俺のわがままのためだけに、みんなの尊厳を奪いたくなかった。無理って言って欲しかった。でも、いいよ、と返事をしてくれたから。なら、最後まで演じ切りたい。
「じゃあ、作戦どうりに行くな。みんな、生きて帰ってこよう」
「えぇ、たとえ。悪役になってでも。生きてたらなんとかなりますから」
「うん、みんなこそ生きてて。お願いだから」
「よし、行くぞ。セラ、準備いいよね?」
暗闇の中ただ俺らを照らす満月だけが輝いていた。これは、俺の物語。俺が始めた道。俺が歩むのを決めた道。
「うん、いこう」
この日のために作戦を練ってきた。ロウくんを傷つけずに、ロウくんと離れる道。そのためにみんなを巻き込んでしまった。なら、最後まで走りきろう。中途半端に終わらせない。これから俺らが起こすのは、
「俺の正義のために、俺らは今からヒーローに逆らおう」
「よし、お前ら。覚悟は決めたな。可愛い末っ子のために、最後まで戦おうじゃないか」
みんなの瞳がぎらついているのがわかる。
「行くぞ!お前ら!!!」
奏斗の声と同時にみんなが走り出した。各々違う方向に。
「「「はい!!!」」」
みんなの返事と共に、民衆の叫び声も聞こえた。これから、俺らは悪役だ。俺の、エゴのために、みんなが犠牲になる。胸が痛むけれど、ロウくんのために。俺のエゴのために。
ついに始まった。民衆が叫び声を上げながら逃げている。今回の事件、大勢の民衆を巻き込み、世間を混乱に陥れたのは、俺がよく知っていて、お世話になって、愛していた人。
「小柳くん、行きますよ」
「、、、あぁ」
あの先輩たちを、俺は俺らは今から、殺す。それがヒーローとしての仕事で、与えられた任務だった。意外にもあっさりと先輩は見つかった。でも、見つかっただけで。
「すばしっこいなぁ、先輩」
叢雲は渡会先輩に手こずっているようだった。怪盗の渡会先輩と、忍者の叢雲。どちらが勝つかわからないが、今の様子だと渡会先輩の方が上手なようだ。
奏斗先輩には宇佐美と佐伯がついていった。それでも、押されてしまっているようで。凪さんには伊波とマナ、赤城がついていった。一番非力な凪さんだが、情報を抜いたのは凪さんで、指示を出しているところを潰すのは確実であった方がいいから。
そして、俺は愛していた先輩の元へ星導と一緒に出向いていた。
「久しぶり。と言ってもさっきぶりだね」
「ダズガ、先輩」
いつもみたいに赤いフードを被り、路地裏を走っていた先輩は俺らに気づくとこちらを向いて呑気に挨拶をしてきた。
「な、んでこんなこと!!」
「なんでって?正義のためだけど」
「正義って!!こんなの正義なんかじゃ__」
「じゃあ語らせてもらおうかな。正義について」
いつもみたいに余裕のある表情でセラさんは語り始めた。
「正義ってさ、人によって変わるんだよ。だからこの世には戦争が存在する。君たちヒーローにとっての正義は世間一般的であり、君たちからとって俺らは世間一般的に悪となる。でも、俺にとって、俺らの正義を邪魔する君たちは悪にしか見えないんだ。わかるでしょ?暗殺者としてもヒーローとしても、世間一般的に悪と呼ばれるものと正義と呼ばれるものについてる君は、特に」
俺は、否定できなかった。それと同時に、肯定もできなかった。
「えぇそうですね。ですから、俺らの正義のために、ダズガ先輩。死んでください」
「ごめんね、俺らの正義のために、ヒーロー。みんなの見逃してくれ」
と言った瞬間、セラさんは消えた。いや、星導の隣にいた。
「え?」
「みんなのことは見逃してあげて。俺のことはどうしたっていいから。でも、一瞬だけ見逃してくれない?やらないといけないことがあるから」
と言って、腹にナイフを刺して消えた。ぐっ、と声を出しながら痛み出す星導を俺は、眺めるしかできなかった。俺はまだ信じていた。愛していたセラさんのことを。
「小柳、くん。行ってください」
「で、でも。星導がっ」
セラさんのことを殺さない理由が欲しかった。
「行け!!まだ、助けれるっ」
星導だって、セラさんを殺したくないから。助けに行けれる。まだ、前みたいに戻れるかな。
「生きろよ」
「もちろん」
星導は人外だし、生きてるだろうけれど。それでも、死んでほしくなかった。星導は俺にとって大事な、仲間だから。
「セ、セラさん!!」
あたりは爆弾から飛び散った炎で包まれていた。その真ん中にセラさんは、ただ一人立っていた。そこは山のように建物の柱などが落ちていてそこからヒーローたちが戦っている姿を見えるんだろう。
「まだ!いける!!戻ってきてくださいよっ。優しい先輩達のことだから脅されているんでしょう?俺らヒーローはあなた達の味方だ!先輩達が望めば俺らはいつだって助けになるっ!だから、”戻りたい”って。そう一言、言ってくださいよ」
先輩は優しい。だから、脅されてるだけ。戻りましょう?俺の大好きな先輩。
「はははっ、バカみたいだ。人がすぐに倒れていく。ヒーロー、俺はまだ生きてるぞ。俺らの勝ちだ」
まるで漫画の悪役だ。この舞台は、セラさんが主人公だった。他の人はただの脇役で、その場にいた全員がセラさんに注目していた。ある人は大切な人を奪った悪役として。ある人は絶望するように。
「ヒーロー!悪役を倒してよ、、僕のお母さんんを殺したんだ」
「ヒーロー、私の子供を奪った悪役を殺してくださいっ」
「ヒーロー、、。あんなやつ生かしておいていいはずがない!」
”ヒーロー”そんな言葉大っ嫌いだ。ヒーローなら人を殺していいのか?たとえ、大勢の人々を殺した悪役だったとしても。いいはずがない。
「セラさん、今までありがとう」
感謝だけ言いたかった。いつも、俺を愛してくれていたであろう、彼に。俺は、愛していた先輩に、ナイフを突き出した。セラさんからは人間であることを象徴するように赤い血が噴き出した。
「「「セラ!/セラお!/セラ夫!」」」
俺が愛していた人の仲間がヒーローと戦っていても、すぐに駆け出してきていた。先輩達は意外にも近くで戦っていて、死んでいるのに気づいていた。
「ヒーロー、助けてくれてありがとう!」
あの人は救われなかった。
「ヒーロー、さすがです。復讐してくれてありがとう」
俺は復讐なんてしてない。
「ヒーロー!悪役を倒してくれてありがとう」
悪役、、?先輩が?そんなわけないじゃないか。
「おい!どんな事情があっても、すぐに来い!!セラが死ぬんだ!さっさと来い!!」
「セラお、ちょっと待っててな。大丈夫だ、俺らが生かしてやるから」
「セラ夫、勝手に死ぬなんて許しません。生きなさい、これは上司命令です」
こんなに人の命を大事にする先輩達が、悪役なわけないじゃないか。
「小柳くん」
俺を呼ぶ声が背後からする。俺は、正義だっただろうか、それとも悪だろうか。
「あなたのした選択は正しくもあり悪でもあります。ですから後ろを見ないでください。行きましょう、私たちにあの人の最後を見る資格なんてありません」
「あぁ、そうだな」
その事件からヒーローは英雄扱いされ、先輩達は悪役と成り果てた。凪さん達含め先輩達は死刑となり、セラさんは、あそこで死を迎えたとのこと。そんな情報が入ったのは東京が復興作業を始め1日が経った頃。それと同時に俺は、いや、めちゃつえーのみんなは、
”ヒーローを辞任したと同時ににじさんじを卒業した”
これはみんな想像していた選択だった。たとえ先輩を直接手にかけたのは俺だけだったとはいえ、無理だった。先輩達の葬儀に参加したとはいえ、先輩達と仲良かった先輩達や後輩が涙を流しながら棺桶に花を詰めていく姿を見ていられなかった。俺らは救えたかもしれない命を捨てたのだから。
そうして1週間が経った頃、俺宛に1つの手紙が届いた。
『これをお前に送るか、悩んだ。けれどこれは送るべきだと思ったから、送ることにした。これはセラフの想いだから。俺はあいつの師匠としてこれを届けないという選択肢はあいつを裏切ると思ったから送ることにした』
という一通のメッセージと共に、”拝啓、俺の愛した小柳ロウへ”と書かれた長めの手紙があった。
拝啓、俺の愛した小柳ロウへ。
まずこれをあなたが見たときは、俺が事件を起こしてこの世にいないと思います。俺の死については俺は知りません。あなたが手を下したかもしれないし、他の誰かかもしれない。または俺が自殺したかもしれない。そんなの今はどうだっていいんです。だけど、もしもあなたが俺を殺したことについて何か負い目を感じているなら感じないで。それは正しい判断であると俺は思います。ヒーローとして役目をまっとうとしたのだから。
そして今回の事件に関しては凪ちゃん達は悪くない。これを見てる時にはもう、遅いと思うけど。ロウくんだけでもいい、ヒーロー達でもいい。この世にいる誰か一人だけでも、凪ちゃん達が悪くないことを知っている人がいればいいだけ。この事件に巻き込んでしまったのは俺。俺のわがままに付き添ってくれた優しすぎる人たちなんだ。
もうこの世に俺がいないから言えること。今回の事件はあなたと別れたくて用意したんだ。はっきり言って、俺はあなたのそばにいていい人じゃない。あなたの隣にはもっと相応しい人がいる。でもね、俺ってばわがままだから、”月が綺麗だね”って笑い合うのはあなただけがいいの。でもさ、俺なりにあなたは俺を愛してくれたと思う。だから、あなたを傷つけると思ったの、別れようって言ったら。だからね、俺はあなたの悪役で終わりたかった。
だから、事件を起こした。この世界での悪役で終われば、あなたは何も傷つかないって思ってさ。一般人を巻き込んでしまったのは申し訳ないな。こんな俺のわがままのために。
でも、一番大切なこと言うよ。もしも、こんな設定なんかじゃなくて、こんな世界じゃなくて。こんな世界の設定を書き直せられたとしたならば、俺はあなたの隣にいていいですか?暗殺者として手を染めていなくて、普通の家庭に生まれて普通に人生を生きて、ただ普通の日々を送ってられたのならば、俺はあなたの隣にいていいですか?
ロウくん、もう一回言います。あなたが俺の死について何か負い目を感じる必要性はないです。あなたがどんな選択をしてもそれはヒーローや人として正しい選択であると俺が証明します。だから、生きて。幸せな家庭を築いて。俺からの願いはただそれだけ。
セラフ・ダズルガーデン
あぁ、もったいないな。先輩が頑張って書いてくれた文章が滲んでしまった。そして手紙の裏にももう1つメッセージがあることに気づいた俺はすぐにそのメッセージを見た。
『この手紙の上には”ロウくんが見つけるまで誰も見ないでください”って書いてあったんだけど、セラフの部屋に訪れたみんながそれを守っている中、俺は破ってしまった。でも、それで良かったと思った。お前は多分セラフを殺したことですごい負い目を感じてるだろうし、セラフの部屋も見に行ってないんじゃないか?これをお前に送るのに悩んだのにはセラフが望んでないかもしれないって思ったからだ。セラフが小柳に自分で見つけて欲しいって願いもあったと思ったから。でも送らないとダメだって思った。師匠としてあいつの思いを最後まで伝える使命があるから。いいか、小柳。これを見たからにはセラフの想いを無下にすることは俺が許さない』
あぁ、頼りになる先輩だな。そうとしか思えなかった。セラさんが師匠と慕っていた長尾先輩は、セラさんのためにと、セラさんが残してくれた、俺宛の手紙を残してくれた。にじさんじとしての関わりはもうないのに、優しく頼りになる慕われる先輩とはこのことを指すんだと思った。
そうして俺は日々を過ぎていく。普通の日々を。暗殺者をやめ、企業で働き、ただ生きていた。でも、愛したい人はたった一人しかいなかった。
「セラさん、あなたはこの世でたった一人の、俺の、運命の人だったのに」
仕事帰り、満月が輝く夜空の下で俺は嘆く。この声が、天国で仲間と共に笑い合い幸せに過ごしているあなたに届くことを信じて。俺の運命の人、俺は貴方の全てを愛していた。暗殺者だったであろうが、今は笑顔に過ごしていようが。そんなのどうだっていい。生まれも、育ちよりも、俺は”貴方”に惹かれていた。それを俺は、貴方に伝えられなかった。
たった一人の貴方に会えるのはこの人生だけだったです。
「凪ちゃーん、早く行こー」
「セラ夫、貴方早すぎるんですよっ」
「そうだそうだー!セラ早すぎ!」
「もうちょっと待ってくれよ〜」
これは偶然なんだろうか、それとも必然なのか。ほんとに彼らにそっくりな人が東京のどこかで現れる。これを、東京中を巻き込んだ大事件の犯人の生まれ変わりと見るか、単なる男四人組を見るか、愛した人の生まれ変わりと見るか。それは人によって異なって見えるだろう。
運命とは残酷なものだ。この世にたった一人しかいない運命の人を失った彼。運命の人の生まれ変わりと繋がれる運命には彼はなかったのだから。
「セラさん、セラさんっ」
どれだけ嘆いても、その声が彼の運命の人に届くことは確実にない。そう、絶対に。
コメント
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え、もう好き… 手紙のところでもう堪えられない涙がぼろぼろですわ…、