テラーノベル
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夜がくると、町はさらにしずかになった。
遠くのほうでかすかに風が鳴る音と、ときどき何かが崩れる小さな音だけ。
火事の匂いはもう薄れてきて、かわりに焦げた灰のにおいが鼻につく。
バスの中は、昼間より暗い。
🩵を探しに行ったけれど全く戻ってこず、大人たちが無理やり俺達をバスの中へと戻した。
窓には毛布をかけ、外から見えないようにしている。
子どもたちは思い思いに毛布にくるまり、短い夜をやりすごそうとしていた。
――昼間の光景が頭から離れない。
白い灰。倒れた鉄骨。あれが、🩵の家だったなんて。
もし……🩵があそこにいたら――
そのときだった。
コン……コン……
静けさを破る、小さな音。
木を叩くような、軽い音。
全員の動きが止まった。
誰も息をしない。
また、コン……コン……。
外からだ。
バスの扉のあたり。
💜がゆっくりと立ち上がり、扉の方へ近づく。
足音を殺して、一歩、また一歩。
子どもたちは固まったまま、息を詰めて見ていた。
そして――
「……💜……?」
低く、かすれた声。
けれど、はっきりと聞こえた。
扉の向こうから。
全員が顔を見合わせる。
その声は、昼間まで一緒にいた、あの🩵の声に……似ていた。
「……🩵だよ……あけて……」
少し間をおいて、また同じ声。
でも――何かが違う。
その声は、やけにゆっくりで、ひとつひとつの言葉を押し出すみたいにしていた。
ヒカリは扉の前で立ち止まった。
振り返り、口の動きだけで「静かに」と伝える。
でも――
「……💜……あけて……」
今度は名前を呼んだ。
けれど、その声の奥に、何か冷たいものが混じっていた。
毛布の中で、僕の手は汗でびっしょりになっていた。
頭の奥で「開けちゃいけない」という声と、「🩵かもしれない」という声がぶつかりあっていた。
そして――扉の外で、何かがゆっくりと擦れる音がした。
爪で金属をなぞるような、ぞわりとする音。
💜が、そっと扉から離れた。
「……全員、毛布かぶって……声出すな」
その声は、昼間よりもずっと低く、固かった。
外ではまだ、🩵の声が続いていた。
でも、それはもう、🩵の声じゃなかった。
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