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♡こちらはnmmnとstxxxにあたる作品です。 この意味がわからない方は閲覧を遠慮します。
♡mfmf様の「廃墟の国のアリス」とeve様の「アウトサイダー」を参考にした作品です。(かなり前者が強い)曲パロが苦手な方は閲覧をお勧めしません。
桃side
その地には、廃墟の国というものがあった。
昼夜絶え間なく悲鳴が響き、それが鳴り止むことなどない。そのせいでその地の周りには人が寄り付かなかった。
しかしこの世には物好きもいるわけで。
立ち入り禁止と書かれた看板を退けてそこに入って行く者も少なくはなかった。瞬く間にその人物は行方不明者と化すが。
廃墟の国。入れば最後、というその地らしい名までつけられてやがる。興味がないわけじゃなかったがそこまで足を運びたいとは思っていた。
これは、そんな国から出てきた男二人を拾った話だ。
青side
今日も鳴り止まない悲鳴が空を覆う。格子状に咲く天井はまるで鳥籠のようで居心地が悪い。
ぼんやりとした思考の中ただ自分が成すべきことは何かと探すだけで、気づいた時にはボクの意志とは関係なしに両手は血みどろになっていた。
ここはいろんなアリスがいる、廃墟の国だ。
ここにはカラス、アリスと呼ばれる人間がいて、アリスはカラスに雇われ悲鳴を上げる自我のない腐った人間を殺す。生きるためにその手を汚すのだ。
ボクは別にどうとも思わないけど、ここで生きていくにはやっぱりお金が必要だった。
その日必要な分だけ殺しを働き、対価として銅貨をもらう。今日の成果はこの銅貨二枚ちょっと。上出来かな。
生きるために人を殺し、遺体の上で美味しくもないパンを貪る。生きたいわけでもないのにそうやって過ごしてきた。
青「···よし、腹ごしらえは終わり」
遺体の上を転ばないよう慎重に歩く。すると奥の方で何かが動いた。素早く38口径の拳銃をその方向に構える。
腐った人間というのは特徴があって、決まって様々な色に染まっている。黄色や赤、オレンジなど。限りなく、全身に塗りたくられたそれは狂気ともいえよう。
ボクだって赤に近い桃色が両手を染めているが、これはきっとただの血の跡だ。
青「············」
ふらふらと歩くその男に標準を定める。頭はオレンジに染まってるし、腕は青も赤も黄緑もとにかくいろんな色に染まっている。間違いない。打とう。
ボクは引き金を引いた。
―が。
青「っは、嘘、ジャムった。···っくそ!」
拳銃を捨て、ナイフに持ち替える。そして勢いよくその男に飛びかかった。喉元に容赦なくナイフを突き刺す。
そのつもりだった。
その攻撃はするりとかわされた。もう一度構えて攻撃してもまた避けられた。
「ちょ!危ないやん!!勘弁してぇな!」
青「―は?自我···あるの······?」
「当たり前やん!何の話?」
···呆れた。まさか染まる概念を知らない人間がここにいるとか。しかも当の本人はこんなに染まってるのに。···よく自我を保てるな。
青「あのねぇ、君のその腕と髪、結構やばいの。もうすぐで自我なくしちゃうかもね。···ここに来ちゃいけないよ」
「へぇ···そんなこと置いといてさ、君名前なんて言うん?」
ボクの忠告には聞く耳を持たずこいつはそう言った。ボクの嫌いなタイプだ。名前教えたらさっさと帰ろ。
青「ころん。君は?」
橙「ジェルやで!よろしくな」
両手で思い切りボクの左手を掴んでぶんぶんと振る。ああ、本当に苦手。何も分かっていない感じが嫌だ。
ジェルと名乗ったニンゲンは、頭に羊の角と耳が生えていて、あまり人間という感じがしなかった。さっきボクの攻撃を避けたのも含めて、なんだか人間らしくない。
橙「な!ころちゃん!!こっち来て!!」
青「は?何?!てかころちゃんって何?!?!」
橙「んふ、かわええやろ?」
青「可愛くない」
ジェルくんはボクの手を思い切り引っ張って何処かへ駆け出した。息が上がり始めた頃にその足は止まった。
ボクはこんなに息が上がっているのに、ジェルくんはケロッとした顔で廃れたビルの中に入っていった。
何がなんだか分からなくて、とりあえず待っていると数分後に両手にアイスを持って出てきた。
青「いや、なんで?」
橙「ん?友情の証よ。ほら、そこ座って」
青「いつ友達になるって言った?ボクもう帰るよ」
橙「今友情って言ったやん!もう友達やでぇ?ほら座った座った」
ジェルくんに無理やり座るよう促されるがどうにもそういう気分になれない。···でも、戻る気にもなれなかった。
だって、あまりにもジェルくんの視線が熱すぎる。早く座ってと言わんばかりのその目は期待もこもっていて、本当にここに住んでいるのかと問いたくなる。
青「···はぁ。今回だけね」
橙「おっしゃ!じゃころちゃんこれな」
青「ころちゃん呼びはまだ許してないから」
アイスを受け取って、いただきますと言ってから口に含む。あれ、ここにこんな美味しいのあったんだ。なんだか懐かしい味がする。
橙「なら、これからころちゃんって呼んでもいい?」
青「···別に」
橙「よっしゃあ!」
ジェルくんは体全体で喜び、うきうきとした顔でアイスを食べた。見れば見るほど信じられなくなる。
この人は、本当にこの街の住人なのか?まあ、そんなの髪と腕を見ればすぐわかるのだけど。
青「···ジェルくんのその髪、大丈夫?随分と染まってるみたいだけど。腕よりはマシだけどさ」
橙「髪ぃ?」
青「ほら、オレンジじゃん」
ボクがそう言うとジェルくんはぽかんとした顔をして、それから少し下を見る。かと思えばすぐに明るさを取り戻して口を開いた。
橙「あんな、これ地毛やねん」
青「···地毛?!っご、ごめん······」
あまりに明るいオレンジだったから地毛だとは思わなかった。関西弁を使っていたから外国人とも思えなかったし。
橙「いいよ。慣れてるから。そう聞くってことは髪が染まった人もおったん?」
青「···うん。ボクがそうだよ。元は黒一色だった」
橙「そっか」
染まり具合の話になると、急にジェルくんの顔つきが変わった。さっきまではしゃぐジェルくんしか見てなかったから温度差で風邪を引きそう。
橙「あぁ、そういえば今日予定あったわ。またなころちゃん」
青「え?あー、うん」
橙「勘定は払っとったから気にせんとき〜」
ジェルくんは後ろ姿で手を振り何処かへ消えていった。嵐のような人で、勝手にあっちのペースで連れられてたまったもんじゃない。
だからあいつみたいなタイプは嫌いなんだ。
青「···いや、ていうかまたねじゃないから!」
別にあいつとボクは友達じゃないし、それに今回だけって言ったし!今度会っても絶対その手には乗せられないからね。
―翌日
青「············はぁ」
橙「えぇ?!なんで溜め息つくん?!?!」
ジェルくんみたいな人間の特徴は完全に掴んでいる。人の話は聞かない。自分のペースに巻き込みがちで、勝手に話を進める。
橙「ほらころちゃん、行くで」
青「っえ、今は無理だよ。まだ稼げてない」
橙「···そんなん、俺が払えばええ話やないか」
ほらまた、こいつはボクの話なんて聞かずに手を引く。ま、できる限り殺しなんて悪い趣味続けたくないし好都合か。
ジェルくんは、それから毎日いろいろなところへ連れてってくれた。廃墟の国というものはとても広く、ボクでも知らないところが多かった。
ボクはこの街に来てから半年と少し。それに比べてジェルくんは色んなところを知っていた。一体いつからここにいたのだろう。
青「···ジェルくんはどうやって稼いでるの?」
橙「ん?なんでそんなこと聞くん」
青「だって、ジェルくん毎回奢ってくれるじゃん。たまにボクも出してるけどさ」
ボクの方を振り返ったジェルくんは少し不思議そうな顔をしていて、悩んだ素振りはなくすぐに答えた。
橙「俺特別の収入があんねん」
にこっと笑うと再び前を向いた。
青「それって···」
橙「いくらころちゃんでも教えんで〜」
なあに、それ。
ボクのことは根掘り葉掘り尋ねてきたくせに、自分のことは話しやしない。はぁーあ。やっぱり嫌いかも。
ジェルくんと話すようになってから一ヶ月ちょっと。彼は姿を現さない日もあればうざいぐらい話しかけて来る日もある。決まってボクは追い返そうとするけど、結局ついてこられて、何かしら餌付けされていた。
今日もいつも通り殺しを重ね、その対価として銅貨をもらう。今日は調子が悪い。もう1人ぐらい殺さなきゃ。
悲鳴が絶えないおかげで、獲物はたくさんいる。狩っても狩っても鳴り止むことなどない。鳴り止んだこの街を知らない。
獰猛な獣のように悲鳴の根源に飛びかかり、その喉元を掻っ切ろうとする。しかし、何かに防がれた。それも、刺した感覚はしっかりとある。
青「っあ·····················」
ボクはしっかり刺していた。
ジェルくんを。
橙「よっ、ころちゃん。今日はどこ行こか」
青「いやいやいや!違うでしょ、大丈夫?!」
ボクの目は悲鳴の根源を庇ったであろうその腕に釘付けになっていた。ドクドクと血が流れ生を感じさせる。ジェルくんは生きていたんだ、なんて一瞬でも思ってしまったボクはきっと狂っている。
橙「あー、これくらいなら大丈夫。ツバつけりゃ治るわ」
またなんでもないように笑ったジェルくんにものすごく腹が立った。絶対大丈夫なわけないのに。痛くないわけないのに。
橙「っさ、行こか。俺のオススメの店な」
悲鳴を上げ続けた老人を、ジェルくんは何処からか出したナイフで突き刺し、そう笑った。多少ふらつきながら歩くジェルくんの背中にただついていくことだけしか、ボクにはできなかった。
橙「マスター、あのお客さんと同じので」
受付でそうマスターらしい人に伝えると、ジェルくんは店の外にあるテラス席のようなところにボクを誘導した。店側にボクが座り、その向かいの椅子にジェルくんが座る。
少しして出されたのは、店の雰囲気に似つかわしいワインと上品なステーキだった。
青「っこ、こんなのいいの?高そうだけど」
橙「ええねん気にせんといて」
いつもいいように連れて行かれて、ジェルくんがお金を払ってくれていた。ボクが出すこともあったけど、寝て起きたときにはその分のお金をボクのネクタイにくるんで器用なことをしてくる。
フォークでお肉を押さえて、ナイフで丁寧に切ってお肉を口に運ぶ。それなりの礼儀は身につけているつもりだが、ジェルくんを見るとボクより上品に食べていた。
まるで慣れてるとでも言わんとする姿はあまりにも凛としていて、綺麗で、美しくて、それでいて···
不気味ささえ兼ね備えたその姿に、思わず目を惹かれた。はっとして、すぐにステーキを食べた。食べることを忘れていた。
「君はあのオレンジ頭と仲が良いのか?」
ぎょっとして振り返ると、そこにはマスターがいた。今はちょうど夕方。夕の空がマスターの赤い髪によく似合っていた。
青「まぁ···そうだけど」
「こっち来な」と手招きをされ、ジェルくんに断って席を外した。
「そういうことなら、やめとくんだな。あいつと関わるのは」
青「関わるのをやめる···?」
「なんだ。知らないのか?知らないであいつと関わってるなんざ、とんだ礼儀知らずだな」
遠回しにボクを貶されてる気がしてムカつく。いいや、それよりもジェルくんがそう言われてることに気が立っていたのかもしれない。
「ここらじゃ有名な話さ。”アウトサイダーに目をつけられた奴は行方知れずになる”ってな」
青「アウトサイダー···」
余所者、か。別にボクだってそうだしボクらだけが余所者ってわけでもない。もっとたくさんいるはず···なのに。ジェルくんはアウトサイダーって呼ばれてる?―なんで?
「···まあ、命が惜しくば早々に関わることをやめたほうがいいってことさ。そもそもあんな得体のしれない奴、何があるか分かったもんじゃない」
青「······はあ」
聞き捨てならない。きっとマスターはジェルくんとあまり話したことがないから好き勝手言えるのであろう。
ジェルくんは確かに無鉄砲で、自分のペースに巻き込んで、ボクの話は聞きやしないけど。それでもどこか真っすぐな心を持っている人だ。
少し怖いところはあるけれど、いつの間にかジェルくんがいるだけで心が軽くなった。
青「何がどうとか知らないけど、あんま悪いこと言わないでね、マスター」
そう言い残してボクは席へ戻った。止める声も聞こえたけど関係ない。座って再びステーキを食べようとすると、違和感に気付く。
青「···ジェルくん?」
橙「······―っ!な、なに?」
ジェルくんはひどく青ざめていた。呼吸は浅かったし、どこを見ていたかもよく分からなくて。呼びかけると汗をぽたりと落としてこちらを向いた。
青「大丈夫?ジェルくん」
橙「あ、あぁ···いや。なんでもない。···あ!そういえば用事あったん忘れてたわ!またな!!」
青「またね···?」
どう見ても大丈夫じゃない顔をして、ジェルくんはそのままどこかへ消えてしまった。ジェルくんが食べていたステーキは残ったまま。ワインだけがなくなっていた。
申し訳ないのでジェルくんの分のステーキも食べた。満腹感はあれど、なぜか心は満たされない。
青「···はい。マスター、ご勘定。ジェルくんが払い忘れてたから」
「ああいいよ!いつも街を守ってもらってるんだ、そのささやかなお礼さ」
青「また狩ってこいってね。カラスはやっぱ身勝手なのが多いや。嫌われるよ」
「実際君に嫌われてるさ。今更どうってことない」
キッと睨んでから、ボクは店をあとにした。呼び止められたが、またジェルくんの悪評の話でもされるのであろう。ボクは気にせず狩り場へ帰った。
―翌々日
ボクが連れ回されてばかりなのは癪に障るから、たまにはボクのオススメのお店に行こうよと誘ったらきらきらとした顔で顔を縦に振った。
すぐ着く安いところだけど、店主は良い人だし悪い人も本当にいない。ボクがそこの周りで根を張って廃人を殺しているおかげで、特別料金で食べさせてくれることも多い。
橙「ころちゃんのおすすめなんて嬉しいわ!ころちゃんも随分友達が板についてきたな」
青「は?そんなんじゃないから!!」
そんなんじゃなくないってことは知っている。ボクはジェルくんと会って変わってしまった。
人と会って話す楽しさも、
誰かと話せない寂しさも、
一日が終わる悲しさも。
ジェルくんに会ったせいで知ってしまった。
こんな感情、思い出したくはなかった。
青「···はい。ここね」
そうこうしていると店に着いた。またジェルくんの顔色が悪くなった。
橙「そっ、か。ここか」
青「······やっぱ大丈夫じゃないよねジェルくん。話してよ」
橙「や!ほんまに大丈夫やねん!!」
必死に探られないようにしているジェルくんを見て、ボクはこれ以上詮索するのをやめた。きっとどっちも幸せになれないから。
青「こんにちは、いつものお願いします」
店からひょっこり店主が出てきて、承りました、と言わんばかりにオーケーサインをした。
橙「···あー、そっか、そっか。そうよな」
青「?どうしたの」
橙「っ、いや、店主変わったんやなって···」
ボクを見てそう言ったジェルくんは、また店主に視線を戻した。怪訝そうな面持ちで見つめると、また口を開く。
橙「店主のあの体って···」
青「あぁ、ちょっとだけ機械だから。たまに暴走起こして口悪くなることもあるけど、いい人だから大丈夫」
そう噂していると店主は料理を持ってきてくれた。ただのチェーン店の朝食の定食みたいな並びだけど味はボクが保証している。
「二人して俺の噂?口悪いことなんてあったかなあ」
青「こうやって記憶ないから厄介なんだよ」
橙「そうなんか、いつもころちゃんをありがとう!これめっちゃうまいで」
「そう?ありがとう。また来てね」
にっこり笑うと店主は受付の方へ戻り、元いたお客の会計を済ませた。ジェルくんを見ると、先ほどとは打って変わり柔らかい笑顔で白米と焼き鮭を食べていた。
あまりにも美味しそうに食べるからボクはそれに釘付けになった。ボクの方を見てふにゃりと笑ったその姿にボクは、きっと。
食べ終えたボクたちは街を回った。会ったことのない人たちと会って、話をした。その度アウトサイダーの話を聞いた。
ジェルくんは危険だ。関わるな、と。
あの羊に見初められたら終わりなんだと。
その話をされるたびにボクは無視してジェルくんと並び歩いた。ジェルくんのほうが少し歩くのが速くて、顔が見れなかった。
毎日ジェルくんと会った。
新しい話をした。
好きなものの話と、ここに来る前の話と、苦手なタイプの話までいろんな話をした。本当は最初ちょっとだけジェルくんのことが苦手だったんだよと言うと、ジェルくんは不器用に笑った。
ある日、ジェルくんが来なかった。
喪失感と違和感だけが心に残り、ボクは初めて誰かといたいなんて思ってしまった。いや違う。
ボクはジェルくんと一緒がいいんだろうな。
橙「なーころちゃんっ!一緒にな、ここ出ぇへん?」
青「······は?」
ボクの両手を握りながら嬉々としてジェルくんはそう言った。いや、待ってよ。
青「無理だよ。ここからは出れないってジェルくんならわかるでしょ」
橙「俺なら方法がわかるって言ったら?」
青「ふざけるのも大概にして」
ボクは初めてジェルくんを睨んだ。ボクだってここにずっと居たいわけじゃない。だから何度も出ようとしたけどその度何かに防がれた。
だから仕方なしにここで働いて、なけなしの金でその場をしのいだ。
出られるわけない、のに。
なんでそんな目で見るの?
なんでそんな真剣な顔をしているの。
そんな目で見られたら信じたくなってしまう。ジェルくんだから、信じてしまう。
青「···もう、嘘だったら許さないからね」
そう言いながら何処か許してしまう自分がいることに、僕はもう気づいていた。
廃墟の国の端。誰も住み着かないそこは恐ろしいほど物音もせず、中心部で聞こえた悲鳴さえも今は聞こえることがなかった。
青「···で、どうやって出るの」
そう聞くと、先を歩いていたジェルくんは振り返りざまにボクを抱きしめた。すぐに理解することができず、意味のない「ぁ、」や「ぇ?」だけが言葉として発せられる。
青「ジェルくん、なにして···」
橙「······―ぃよっし!ころちゃん、もう大丈夫やで。出よか」
頭が疑問符で埋め尽くされたまま、外に出るように促される。待ってよ、方法何も聞いてないのにどうやって出ればいいんだよ。そう聞く間もなく出口へと押し出される。
青「待って!!」
一旦押し出す手を掴んで、ボクはジェルくんと向き合った。
青「ボク、ジェルくんと一緒じゃなきゃ出ないから。ジェルくんとなら出ていいって思ったんだからね」
橙「······うん。出よな」
金属の冷たさでそこらは冷えていて、ここから出るなと威嚇するようだった。ジェルくんは平然と触り、一瞬にして扉を開けた。
魔法のようだった。そこには確かにあったはずの鉄格子が忽然と消えたのだ。
橙「ほら、はよ出て」
青「わかってるよ。急かさないで」
無理やり押される形でボクは外へ出ることができた。あんなに拳銃やナイフを使ってみたり、なんとか身を乗り出してみても出ることができなかったのにいとも簡単に出られてしまって、なんか拍子抜けした。
後方から出てくるであろうジェルくんを見つめる。少し、長い間。
青「······ジェルくん?出てきてよ」
そう呼びかけてみてもジェルくんは出なかった。
優しく微笑むだけで、何も言わなかった。
そのままジェルくんは立ち去ろうとした。
青「っは?!待ってよ!!!なに行こうとしてんの?!?!」
ぴくっと肩が揺れて、ジェルくんはこちらに振り向いた。見たこともない顔だ。いつもは花が咲いたみたいな笑顔で、うざいぐらい話しかけてくるのに。
まるで、虚ろを見たような目でボクをじっと見つめた。
橙「俺は、ここから出られないから」
なんで、って聞きたくて。でもその言葉がどうしても言葉にできなくて。そんなことお見通しだと言わんばかりに今までのことを話してくれた。
橙「廃墟の国は、染まりきった人は出られない」
橙「ころちゃんも知っとるやろ?ここにおる人たちはみんな体の何処かが染まってる」
そうだ。ボクも、染まっていた。
人を殺すほどに返り血を浴びたみたいに両手が染まり、それは次第に肩の方へ伸び始める。気持ち悪くて、服でいつも隠していた。
橙「ここに居すぎるとな、それが進行して染まりきってなくても出られなくなる」
ジェルくんは確かに染まっていた。ボクが一目見たとき廃人だと勘違いするぐらい、全身、あちこちに。
しかしそれはボクも同じだ。長い間ここにいたのだから、それに以前出ようとしたとき出られなかったのだから今出られるはずはない。
橙「ホンマは俺ももう廃人でさ、でも俺は何故か廃人になれなくて、耐性があって、死ねなかった」
橙「一生出られんし、死ねないねん、俺は」
俯いたかと思えば、いつもの笑顔で言った。
橙「なら、せめて俺にしかできないことをやろうって思った。だから俺はみんなをここから出す手伝いをしてる。まあ俺一人やけどな」
青「············意味、わかんないんだけど」
橙「そう?結構わかりやすかったと思うんやけどな」
けらけらと笑ったジェルくんは彼らしくなくて、これが彼の本性なのかと変に納得した。たまに見せる虚ろな表情も、きっとこれが理由だ。
ジェルくんは廃墟の国について何から何まで知っていた。どれだけ長い年月いるか、思い知らされた。
要するに、”染まり”というものは人に移すことができて、一般に廃墟に入る、住む・廃人と接触・廃人を殺すなどして移されていくと。
ジェルくんは人々と接触し耐性のある自分に移すことで外に出していた、らしい。
橙「いろいろ言われることも多かった。余所者扱いされるのも何となく分かってたけどな。俺の体おかしいもん」
パズルのピースがハマったみたいに腑に落ちた。ジェルくんはずっと廃墟の国にいたのに、いろんな人とずっといたのに廃人にならなかったから壊れなかったから余所者だって、アウトサイダーだって呼ばれてたんだな。
それなのにジェルくんは動じることもせず、心の底では辛いはずなのに助けて、助けて、冷たい反応をしたボクまでも助けた。
そんなの、ありえないよ。
そんな苦労を知って出られるわけない。ジェルくんを独りになんて出来ない。ジェルくんのいない未来なんて想像したくもない。
青「···それでもボクはジェルくんとここを出たい」
こんな世界、クソ喰らえって思った。
家族が大嫌いで、どう頑張っても好きになれなくて。
だから廃墟の国に来た。
別にいつ死んでもどうだってよかった。
青「死ぬこともなにも怖くなかったのにさ、ジェルくんと会ったせいで変わっちゃったんだ」
廃人を殺すとき、ちょっと躊躇するようになった。
ご飯の味が少し美味しく感じた。
ジェルくんが来るのを楽しみにしてしまった。
青「ジェルくんがいるなら生きていいって、ここを出て一緒に生きたいって思えたんだよ」
ジェルくんともっと色んな景色を見たいって思ったんだ。
もっと綺麗な景色があって、美味しい食べ物があるって伝えたかったんだ。
好きな人と一緒に食べるご飯が結局、一番美味しいんだよって言いたいだけなんだ。
だから、お願いだよ、ねえ。
そこを動いてさ、こっちに来てよ。
青「ボクと出よう。絶対楽しいことばっかりだから。ボクだって嫌なこと多かったけどジェルくんとなら全部楽しいから」
ジェルくんの方へ手を伸ばした。ピリピリして、手を入れた箇所がずっと雷に打たれたみたいな痛さが伝わる。それでもボクは手を差し出した。
変わらなかった。
橙「···ころちゃん。俺は今やってることに誇りを持ってるから。みんなを助けていく上で嫌なことは確かにあったよ」
橙「暴力を振るう人もおったけど、それでも。だから無理なんだ」
悔しそうにジェルくんは笑った。嫌だ、嫌だ。ボクは人一倍我儘なんだよ。ジェルくんがやりたいことでも止めたくなってしまう。
一緒にいるのが好きな人と一緒にいたいだけ。
それだけだよ。
バチッと音が鳴り思わず手を引っ込めた。それでも尚、ボクはただその手がボクの手のひらに乗せられるのを待った。
青「きっとジェルくんはボクにとって特別で、代わりなんかどこにも居なくてさ。死んじゃえばいいやなんて思ってたボクを変えちゃった神様なんだ」
もっと奥に手を伸ばした。重力に押しつけられるような痛さが右腕を殴りつけた。汗はポタポタ流れてくるけど、気にするなんてそんなことしてる場合じゃない。
青「ボクは多分ジェルくんのことが好きなんだと思う。もう、この先ジェルくんが居ない未来なんて考えられないんだよ」
伝えられるのはおそらくこれだけだ。
ボクのすべてを伝えたつもりだ。
ジェルくんのせいで、本当にボクは変わってしまったらしい。
今までこんな感情、どこにもなかったのに。
恐る恐るジェルくんの顔を見る。
ジェルくんの目は、全くと言っていいほど揺らがなかった。
橙side
行かないつもりだった。
俺はここにいることが運命だと、そう思っていた。
それはこれからも変わらない。
それに、何もできない自分が誰かの力になれてることが嬉しかったんだ。
例え暴力を振るわれても、暴言を吐かれても、俺は人の役に立ってることが嬉しかった。
だから俺は行かない。
行かないよ。
今まで何回も言われたんやで?
優しい人もいたから、一緒に行こうって言われてずっと断ってきた。粘り強くなかったから。
ころちゃんに言われた程度じゃ俺は揺るがない。揺るぎたくない。
途端、思い出してしまった。
初めて会ったあの時の冷たい目と、マスターに言い返してくれたあの日と、知ることのなかった温かい人たちを。
ころちゃんが教えてくれたお店の人はみんな優しかった。
紫の髪をした機械仕掛けの人は、ずっと貼り付けた笑顔をしていて恐ろしかったけど、ころちゃんが信用する理由がわかった。
黄色と赤の髪色をした双子は、歌を教えてくれた。知らない歌だったけど思わず泣きそうになってしまった。救われた気になってしまった。
ころちゃんは会った時からずっと冷たい死んだ目をしていたけど、表情筋もピクリともしなかったけど今では表情も柔らかくなって生き生きとした。
真剣に、俺の目だけを見ている。
もう少し身を乗り出せば俺の顔にさえ届きそうなくらい手を伸ばして。痛くて、苦しいはずなのに必死に俺の汚い手を取ろうとしていた。
橙「·········っ、あー、だから嫌や、これ···っ」
毎回見送る度、どんな相手でも寂しくなる。
その都度新しい廃墟の国から出たい人を探しては見送り、探しては見送り。
されど、寂しい気持ちがなくなるわけではなかった。
繰り返したからといって慣れたわけでは決してない。
ころちゃんと別れるのだって、本当は、こわくて。さみしくて。つらい。行ってほしくない。ここで一緒に暮らしてほしい。
でもそれはころちゃんが望んだことじゃない。ころちゃんが出ようとしてるのに気づいたから近づいて、その願いを叶えようとしただけ。
ころちゃんが初めてだ。こんなに動かない人は。
俺がちょっと粘ったらみんな諦めて出ていってくれた。だから俺は気持ちを切り替えられた。
なのにころちゃんがそんな目で俺を見たら、ずっとそこで俺を待ってくれていたら、帰りたくなくなる。一緒に、外に出たくなってしまう。
出たいなんて叶わない夢、見たくなってしまう。
そんな俺にとどめを刺すみたいに、言った。
青「一緒にここを出よう。こんなジェルくんを飼い殺す鉄格子なんてボクが壊してやる」
ころちゃんは思い切り身を乗り出して、俺の手を掴んだ。
ああ。
ころちゃんは俺のこと好きって言ってくれたみたいだけど。
俺もその目、好きやなあ。
青side
全身に痛みが走る。それでも尚、手を握った。
接触すると染まりが移るというのは本当らしく、ボクの方へ流れ出ていくのが見えた。
橙「······ろちゃん、ころちゃん、ええのかな」
妙に震えた声だったので瞬時に顔を見た。その目からは大粒の涙がこぼれ落ちていた。
橙「ほんまにっ、ええのかな···ッ?おれ、ここ出てもええの···?」
青「いいんだよ。ボクが保証するから」
橙「信用ならんなあ···笑」
青「はぁ??」
ポロポロ涙を流しながらジェルくんは微笑んだ。出たいって、言ってよ。それが君の本心なことくらい、頭が悪いボクでもわかるんだよ。
橙「ここを離れたら、もう誰もここから出れないかも」
青「ジェルくんの力の代わりぐらい、いるかもしれないじゃん。ジェルくんって人はここにしかいないよ」
橙「外に出ても、全部うまくいかないかも」
青「ボクとなら大丈夫」
ジェルくんは何も言わなかった。ボクの答えに肯定も否定もせず、黙ったまま。
こちらに、歩み寄ってきた。
先ほどジェルくんがしたみたいに、痺れる体で抱きしめた。体の中に気持ち悪い物体が入ってるみたいで、でもそれは次第に水が流れるような感覚に変わっていった。
鼻をすするジェルくんの背中を優しく叩いて少しの間抱きしめたままでいると、コトン、という音が聞こえた。気になって見てみると、そこには小さな石が転がっていた。
力が抜けて、ジェルくんは腰が抜けた。倒れないように手を引っ張って、ゆっくり座らせる。石を手に取ると、それは青と橙がきれいに混ざった宝石だった。
魔法みたいに、目の前の鉄格子が消えた。
青「ほらジェルくん。一緒に行こう」
橙「···うん」
後悔はない。ジェルくんはまだ後ろめたそうな顔をしていた。
ジェルくんと一緒に外へ出た。少しだけ歩いた。
まだ、何か気がかりな顔をしていたから。
青「ジェルくん、もうここに来ちゃいけないからね」
そう釘をつけた。ジェルくんは今までで一番柔らかい笑顔をして、こんな顔で笑えるんだって思ったらまた好きになってしまいそうだった。
ジェルくんはボクを変えてばっかりだ。
でも、今のボクのほうが好きだ。
ジェルくん色に染まったボクが好きだ。
ボクの色に染まったジェルくんが好きだ。
いつかボクと同じことを想って、いろんなところに行って、いろんなものを食べて、笑い合おうね。
桃side
その地には、廃墟の国というものがあった。
昼夜絶え間なく悲鳴が響き、それが鳴り止むことなどない。そのせいでその地の周りには人が寄り付かなかった。
そんな場所で俺は仕事を任されてしまった。
桃「あ゛〜くっそ、興味なかったわけじゃねえけどなんで上も曰く付きの場所になんか行かせるかねえ」
警察として、そこそこ高い階級を持つ俺は重大な任務を任されることも多かった。だが仕事はこの廃墟の国の前で張り込みをするだけ。
かれこれ三日間ほど様子を見ているが動く気配は未だ見えず。しかし悲鳴が鳴りやまないおかげで寝れることはない。地獄みたいな仕事だ。や、地獄だけどさ。
桃「これであと四日もやれって···?冗談キツイな」
今日の夜には仲間が合流するらしいが、俺の嫌いな同僚だし。とことんついていないらしい。
すると、奥の方で動きが見える。かすかに、何かが動いた。
桃「あれ···は、中学···いや、高校生か?肝試しのつもりか。さっさと補導して―」
―ここを出て一緒に行きたいって思えたんだよ。
桃「―っ?!廃墟の国の住人か···?」
男子二人の話を聞くに、片方はここにいるのに嫌気が差したから出た。もう片方は悩んでいたが出ることを決意した。そういうことらしい。
―まじかよ、ここに本当に住んでたのか。
桃「―おい、お前ら」
「っ?!」
青髪の少年は橙色をした髪の少年をかばうように腕を広げた。キッと睨んできて、まるで猫のようだ。
桃「悪ぃ悪ぃ。俺はお前らをどうこうするつもりじゃねえんだ。警察だ。任意だができるだけ署に来てほしい。廃虚の国の話を聞かせてくれ」
両手を広げて、悪意はないポーズをする。警戒を解くどころか殺意がピリピリと伝わってくる。いったいどんな場所だったのやら。
「ころちゃん、多分悪い人やないで。警察手帳も本物やし」
青「信用できないよ、すぐ人を信じないでジェルくん」
困ったもんだな。片方は理解が早くて助かるが、守っている方は番犬みたいな雰囲気を醸し出した。ガードが硬そうで連れてくのは厳しいのかもしれない。
子供相手だ。少し危険だが敵意がないことを知ってもらわなければならない。俺は、拳銃を足元に置いた。
桃「なぁ、これで信じてもらえれるか。お前らは重要な参考人なんだ、来てもらわないと困る」
拳銃を置いた俺を見て青髪は目をまん丸にし、仕方ない、と言わんばかりに腕を下げた。
今日来る同僚に連絡を入れ、署へ向かう。郊外だからパトカーを使ってもかなり時間がかかった。
事情聴取は長い間続いた。
あそこは一体なんなのか、何があるのか。
なぜあそこから出る人間がいないのか。
なぜ悲鳴が鳴り止まないのか。
聞けば聞くほど異世界のようで、信じられるものではなかった。しかし、二人の腕に絵の具で塗りたくられたような模様があったことがなにより証拠付けるものであった。
タトゥーを落とす液や水で濡らしてもそれは消えず、何かの影響で肌に強くついたものだと思うが、仕組みも何もわかることはない。
橙色の髪の―ジェルが言う世界も、青髪のころんが言う世界も、大きな手がかりとなったが廃墟の国について究明できることは結局なかった。
事情聴取も終わればしばらくころんとジェルは用無しになる。二人は大体16歳頃といった調子なので、託児所に預けられることになる。
桃「おい、ころん、ジェル」
青「···さっきから思ってたけど重要参考人に向かってその態度ないんじゃないの」
桃「警察に向かってその態度もねえな」
ぐうの音も出ない、という顔をしている。これは面白い奴だ。
桃「まあ、なんだ。俺は幸いにも経済的に余裕もあるしな、最初に見つけちまった責任がある」
橙「······何言うて―」
桃「決めた。お前らうち来いよ。最近寂しくなってきたところなんだ」
青「―はぁ?!」
長らく人に興味を持たない人生を送ってきたが、こんなに好奇心をそそられたのは初めてだ。まあそれは建前で、本音は”可哀想”という嫌な言葉が浮かんでいただけだが。
桃「お前ら家も何もねえだろ。託児所よりいい生活は送らせてやるから来い」
やはり物わかりのいいジェルはすぐについてきた。···いや、これは警戒心がゼロなだけだな?
青「あぁもうまたジェルくんはすぐ着いてって!!お前、ジェルくんに何かしたら許さないからね」
桃「お前じゃねえよ。さとみって立派な名前があんだよ、さとみ警視長と呼べ」
ツンとした態度でいけ好かないが、内側では期待を募らせているというのが丸見えだ。こういうのは一番ゲームとかに食いつきがいい。
ジェルは警戒心はないが物わかりは人一倍いいほうだろう。勉強によく向いている。
どれぐらい廃墟の国にいたかは知らないが、これからはどうか第二の人生だと思って生きていてほしい。俺はそれを手助けする。拾った責任だ。
桃「なあころん、ジェル。その腕どうしたんだ?」
ころんの右腕、そしてジェルの左腕に青と橙のマーブル模様が浮かぶ。ジェルはこの季節に似合わない半袖だからそれがよく見えた。
橙「これかぁ···聞いちゃう?さとちゃん」
桃「さとちゃんって何。まあいいけど」
いたずらっ子みたいな笑顔で、ジェルは言った。
橙「ないしょ!」
にへっと笑って、ジェルはころんの手を握った。
お久しぶりです 1分です
投稿したりしてみました
ここでしか私の小説を読んでいないなら、
pixivの方が活動が盛んですので
そちらで読むことをお勧めします
こちらは青の歌ってみた「廃墟の国のアリス」
橙の歌ってみた「アウトサイダー」を元にした
曲パロでした
読み終わった方
ぜひ本家と一緒に聴いてください
次回 いつになるかわかりませんが それでは