ツアーが決まってから、実際に始まるまでの数ヶ月の間、
あたしは、どうにかしてツアーなんてやめられないんだろうかと、
そればっかりを考えている。
ただただ逃げ出したくてたまらなくて。
もし、どか食いしてお腹が痛くなったらやめられるだろうかとか、お酒を飲み過ぎてノドを潰したら、歌わなくってもいいのかもしれないとか、
一日中うだうだとそんなことばかりを考えている。
だけど、チケットが完売したとか聞くと、もう逃げられないんだと感じて、やるより仕方がないんだと思う。
チケットを買った人たちは、当のリオ本人がこんなことを考えてるだなんて知ったら、どう思うんだろうね。
やっぱり、ひどいと思うのかな。
けれど、実際やりたくなんかないんだもの。
どうして、歌いたくない歌ばっかり、人前で歌わなくちゃならないの?
でも、あたしの歌を、聞きにくる人たちは、
本当にあたしが歌いたい歌なんて、別に聞きたいとも思ってないんだろうね。
みんなが聞きたいのはリオの歌であって、あたし自身が歌いたい歌には、きっとなんの興味もないんだろうし。
アイドルの七瀬リオをみんなが求めてることは、なんにも悪くなんかないのにね。
悪いけど、それに付いていけてない、あたしがいるんだよね。
カラオケに行ってた高校生の頃から、ずっと歌うのが大好きで。
あたしには、歌しかないって思うその反面で、こんな歌なんか歌いたくないと思ってる自分がいる。
歌いたいのに、歌いたくないって、すごい矛盾してるよね。
あたしの中で、歌いたい気もちと歌いたくない気もちとが、真っ二つに分裂していく感じ。
歌いたいあたしは、
歌いたくない歌でも、それでも歌わせてよって言ってて。
一方で、歌いたくないあたしは、
歌いたくもない歌なんか、歌ってもしょうがないじゃんって言ってる。
矛盾だらけの自分。
でももし、あたしの歌を歌えたら、この矛盾だらけな気もちからも解放されるのかな?
あたしの歌が、歌いたいよ。
七瀬リオの歌う歌じゃなくて、自分の歌。
ねぇ、もしもあたしが、あたしの歌を歌ったら、
みんな、聞いてくれる?
みんなに、聞いてもらいたいよ。
ねぇ歌わせてよ。
あたしが綴った、あたしの歌を。
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