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数日後…
店を出た瞬間、湿った風が肌を撫でた。
酔いはとっくに消えてるのに、足だけがふらつく。
ポケットに突っ込んだままの小さな袋が、指先に当たった。
――やめろ。
頭の奥で誰かが言う。
でも、誰だってわかってる。
どうせ止まらない。
路地裏に入って、壁にもたれてしゃがみ込む。
近くで酔っ払いが笑ってる声が遠くで響いて、
俺だけ世界から切り離されたみたいだった。
震える指で袋を開けて、口の中に流し込む。
苦い。
すぐに喉の奥が熱くなる。
吐き気はしない。ただ心臓だけがドクドクと暴れて、
頭の中のノイズが全部溶けていく。
ふっと笑いが漏れた。
「뭐야… 씨발…」
誰に言ったのかもわからない。
ただ、夜の奥でネオンがにじんで、
どこか遠くの国の夢を見てる気がした。
苦い味が舌に残ったまま、スマホの震える音が響いた。
ポケットから引きずり出して画面を見たら、
ジホからだった。
『ちゃんと飲んだ?』
画面の文字が滲んで、笑ってるように見えた。
『また会おうな』
『ヒョヌ』
震えた指でスマホを握り直す。
「……もう、無理だって。」
小さく吐き出した声は、誰にも届かない。
でも指は勝手に動いて、
『いつ?』
そう打ち込んで送信していた。
ネオンの光が滲んで、
もう街の音は何も聞こえなかった。
スマホの画面に、ジホからの通知がまた光った。
『今日、来い。前に言ったスタジオ。わかるよな?』
返事を打つ指が、止まらなかった。
『行く』
店を終わらせて、駅前のネオンを避けるように裏道を歩いた。
頭の奥はまだ鈍く痺れていて、
あいつの声が耳の奥でずっと響いてる気がした。
信号待ちの時、ふと足が止まった。
逃げよう。
そう思った。
スマホの電源を切る。
ポケットに突っ込んで、曲がり角を曲がって、
路地の奥で息を潜めた。
誰も来ない。
本当にこのまま消えられたら――
ポケットのスマホが震えた気がした。
電源を切ったはずなのに。
スタジオのドアを開けた時には、
もう自分の意思はどこにもなかった。
紫髪が、ソファに座って煙草をくゆらせている。
「逃げた?」
ふっと笑われた。
俺は何も言えなかった。
紫髪が立ち上がる。
近づいてくる。
ポケットからスマホを抜き取られ、
ついでに財布も奪われた。
「要らないだろ、こんなの。」
甘ったるい煙草の匂いがした。
代わりに差し出されたのは、
薬物だった。
「こっちのほうが欲しいくせに。」
頭の奥が、もう返事をしていた。