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ドアノブに手をかけた瞬間、背中に声が落ちてきた。
「ヒョヌ。」
足が止まった。
振り向かなくてもわかる。
ソファに座ったままのジホ――いや、Leon は、
まだ火のついた煙草を指先で転がしている。
「어디 가?」
行き先なんて答えられないのに、
背中を向けたまま喉だけがかすれた。
「집에… 돌아가려고。」
静かに笑う気配がした。
「帰る家なんか、まだあった?」
視界の隅に、薄紫色の煙が広がる。
「ヒョヌ。」
声が甘く沈んだ。
「こっち向いて。」
ゆっくり振り返ると、
Leonじゃなくて――
あの、ただのキム・ジホがいた。
紫の髪をかき上げて、
ソファに沈み込むその目が、
夜の奥に沈んでるみたいに静かだった。
「김지호って、呼んでみて。」
声が震えた。
「……ジホ。」
名前を呼んだ瞬間、
ジホが立ち上がって、
目の前に近づいてきた。
指先が、喉元に触れた。
「そうだ。
お前だけが、俺のことそう呼んでいいんだ。」
甘い煙草の匂いと、
苦い粉の残り香が混ざる。
逃げたいのに、逃げられない。
ジホの指がポケットに滑り込んで、
ヒョヌのスマホを取り出す。
「ほら、また電源切ろうとした。」
くすりと笑って、
画面を指で撫でる。
「全部繋がってんだよ、ヒョヌ。」
頭の奥が、また熱く痺れた。