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第十八章
覚悟
―玄武の決意―
右腕は静かに歩を進めた。
ただ歩いているだけ。
それなのに、大気は震え、大地は軋み、空気そのものが押し潰されるような威圧感が辺りを支配する。
やがて羅刹が張る結界の前で足を止めると、右腕は静かに口を開いた。
「玄武の巫女……朱雀の巫女を治癒しろ」
穏やかな声音。
しかし、その一言だけで詞葉の身体は震え、喉が張り付いたように声が出ない。
その時だった。
「なりません!」
誰も動けずにいた中、羅刹が詞葉の前へ踏み出し、右腕との間に立ちはだかった。
「玄武の巫女さまは先ほど白虎の巫女さまを治癒したばかりです! 体力も大きく消耗されています! その状態で再び治癒を行えば、お命に関わります!」
真っ直ぐ右腕を見据える。
決して退かない。
右腕は表情一つ変えず、静かに告げた。
「……退け」
「いいえ。退きません!」
羅刹は一歩も引かなかった。
「僕には巫女さま方を護る使命があります!」
一瞬の沈黙。
右腕は何も言わず、ゆっくりと手を伸ばし、結界へ触れた。
――バチバチッ!!
眩い火花が弾け、結界全体が激しく軋み始める。
「ま、待ってください! その手を離してください!」
詞葉は錫杖を強く握り締め、震える足で立ち上がった。
そして羅刹の横へ並ぶ。
「治癒……します」
小さな声。
だが、その瞳には確かな意志が宿っていた。
「でも、それはあなたに言われたからじゃない」
右腕を真っ直ぐ見つめる。
「煉華ちゃんは……私の友達だから
私の大切な友達だから……私が助けたい」
その言葉と共に、一歩前へ踏み出す。
結界は詞葉を拒まなかった。
静かに光を揺らしながら、彼女を外へ送り出す。
「お待ちください! 玄武の巫女さま!」
羅刹が叫ぶ。
詞葉は優しく微笑み、振り返った。
「羅刹さま……ありがとうございます
羅刹さまが私たちを護ってくださるように……私も護りたいんです」
その瞳に宿るのは怒りではない。
ただ、大切な人を救いたいという、揺るぎない願いだけだった。
詞葉は静かに煉華の傍らへ膝をつく。
傷だらけの姿を見つめ、涙が頬を伝った。
「煉華ちゃん……ごめんね。遅くなって……
今、治してあげるからね」
両手を胸の前で重ね、錫杖を掲げる。
澄み切った祈りの声が、静かに世界へ溶けていった。
やがて、柔らかな光が煉華の身体を包み込む。
「……黒守さん?」
煉華がゆっくりと瞳を開く。
「良かった……もう大丈夫だよ」
詞葉は安堵したように微笑んだ。
右腕は、その光景を静かに見つめていた。
「……これが玄武の治癒か」
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
そして詞葉の前まで歩み寄り、静かに見下ろした。
「玄武の巫女……」
穏やかな声。
それでいて、底知れぬ冷たさを帯びている。
「代償は何だ?」
コメント
1件
うわああああ第38話!やばいやばいやばい!!!😭💕💕 詞葉ちゃん「あなたに言われたからじゃない」って…自分の意志で前に出るの、マジで尊すぎる!!!羅刹が必死に止めるのも、それを「私も護りたいんです」って微笑むのも、もう涙腺崩壊した😭✨ しかもラスト「代償は何だ?」って…えっ待って続きが気になりすぎるんだけど!?!?このピリッとした空気、お願い次回すぐ読みたい!!!🌸🌸🌸