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第十九章
敗北
―強くなるために―
「……代償は何だ」
右腕の低い問いが、静まり返った戦場に重く響く。
その言葉に、詞葉は俯いたまま静かに息を吐いた。
「……そういうことか」
右腕の視線が向けられた先には、傷だらけの玄武の巫女――。
全身に深い傷を負っているにもかかわらず、その表情に苦痛はない。
痛みを感じていない。
それだけで十分だった。
右腕は、玄武の治癒に伴う”代償”を悟る。
「……帰るぞ」
それ以上何も言わず、右腕は踵を返す。
足元に開いた闇へ、一歩踏み出すと、その姿は静かに飲み込まれていった。
「はーい。右腕さま♡」
赫夜は妖艶な笑みを浮かべ、巫女たちへ軽く手を振る。
「また遊びましょうね、巫女ちゃんたち」
そう言い残すと、赫夜も闇へ消えた。
「女ァ!! 次こそ貴様を八つ裂きにしてやる!!」
刀骨は怒りに顔を歪めると、足元の岩を握り潰し、琥珀へ投げつける。
「あたしは白峰琥珀だ!!」
飛来する岩を、双剣が閃く。
砕け散った破片が周囲へ降り注ぐ。
「……っ、みんな! 大丈夫!?」
琥珀は大きく息を吐き、仲間たちを見回した。
「ええ、大丈夫よ。あなたたちも無事みたいで安心したわ」
蒼紫が静かに答える。
「黒守さん。緋月さんは?」
「はい……大丈夫です。治癒も間に合いました」
ゆっくり立ち上がった詞葉は、柔らかな笑みを浮かべると羅刹へ歩み寄った。
「羅刹さま。大丈夫ですか?」
「玄武の巫女さま!! そのお身体は……っ」
羅刹は駆け寄り、傷だらけの詞葉の姿に息を飲む。
懐から先ほどの小瓶を取り出し、そっと詞葉の手へ握らせた。
「玄武の巫女さま。これを傷口に。先ほどお飲みになった聖水の残りです」
小声でそう告げると、真っ直ぐ詞葉を見つめる。
「皆さまには内密にしたいのでしょう。しかし……いつまでも隠し通せるものではありませんよ」
「……わかっています」
詞葉は小瓶をぎゅっと握り締め、小さく息を吐いた。
「あの……黒守さん」
申し訳なさそうに煉華が声を掛ける。
「ごめんなさい……私のせいで、あなたに力を使わせちゃって……」
詞葉は静かに首を振った。
「ううん。私が……煉華ちゃんを助けたかったから」
「……っ、ありがとう。詞葉」
煉華は優しく微笑み、そっと詞葉の手を握る。
その瞬間、傷だらけの手に気付いた。
「!! 詞葉! あなたも怪我してるじゃない!」
「大丈夫。擦り傷だから、すぐ治るよ」
詞葉は安心させるように微笑み、それから周囲を見渡した。
「あっ、蒼紫ちゃんは大丈夫?」
そう言うと、小走りで蒼紫のもとへ向かう。
「いやぁ……完敗だったわ。ね、れーんげ」
「……あなたに名前で呼ばれる理由はないと思うけど、白峰さん」
「そんな冷たいこと言わないでよ~」
琥珀は苦笑したあと、表情を曇らせる。
双剣の柄を強く握り締め、小さく俯いた。
「……ねぇ。あたし、悔しい」
震える声が漏れる。
「また助けられた……。自分で守りたいって思って剣道も始めたのに……結局、また誰かに守られた」
その言葉に、煉華は小さく目を細める
そして、静かに首を振った。
「…(また、って…?)…それは、みんな同じ」
煉華は詞葉へ視線を向ける。
「私も完敗だった。でも――だからこそ、まだ伸び代がある」
静かな瞳に、強い決意が宿る。
「私たちは……もっと強くなれる」
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第39話、読み終えました……。 詞葉の「代償」を悟る右腕の静かな問いかけ、すごく重くて胸に響きました。 傷だらけでも笑顔を保つ詞葉の強さと、その裏にある痛みに、じんわりと切なくなりました。 でも、煉華の「まだ伸び代がある」って言葉が、すごく頼もしくて。 敗北を認めたからこそ、次に進む決意が伝わってきて、グッときました。 続き、気になります……!