今日は待ちに待った(?)ハロウィン。セカイの中をぶらぶらと歩く。会った人から声を掛けていこう。
「絵名」
「っ──!」
音も気配も無く後ろから声を掛けられてビクリと肩が上がる。
「あ、ま、まふゆ。丁度よかった、トリックオア──」
「絵名、トリックオアトリート。お菓子くれなきゃ悪戯するよ?」
「え」
「トリックオアトリート。お菓子くれなきゃ……」
「わかったわかった。嘘、ほんとに……?」
人から集る予定だったから、渡すお菓子なんて考えてなかった。そういえばハロウィンって私も取られる行事だった。お菓子を食べたいな、今日ハロウィンだな、じゃあ貰おう、という流れで来たから完全に忘れていた。そしてまふゆに言われるなんて想定外すぎる。
「も、持ってないです……」
「じゃあ悪戯だね。そこ、座って?」
冷ややかな目線。つい唾を飲む。まふゆの悪戯、一体どんなものなんだろうか。
座って、まふゆの次の合図を仰ぐ。まふゆは私の隣に来て、寝転がり、私の膝に頭を置いた。
「おやすみ」
そして私の左手を握った。
──はいはい、なるほど。そういう悪戯ね。って
「起きなさいよ起きなさい!」
「なに。こういうのはしっかり受けるべきだよ」
「ハロウィンよ、ハロウィンよ!」
「そうだけど……」
まふゆの頬をぺちぺちと叩いて起こす。少し嫌そうな顔をされる。
「悪戯のいの字もないし。もっと、こう、ないの?」
「絵名ってMなの?」
「そんなんじゃないわよ!」
「ならいいじゃん。おやすみ」
「待、ち、な、さ、い、よ、!」
頬を叩く。不機嫌そうだ。
「何……何が嫌なの?」
「ハロウィンなのに寝るの!?」
「人がどうハロウィンを過ごそうが勝手じゃない?」
「は、ハロウィン……ハロウィン……」
「どうせ瑞希が仮装しよーって言い出すから大丈夫だよ。私はそれまで寝てるから」
しかし寝ようとするまふゆ。くそ、こうなったら……
「まふゆ、トリックオアトリート。お菓子くれなきゃイタズラするよ」
「……はい。」
ポケットからさらりと出されたのは一つの飴。オレンジだろうか、いや違う、これは……
「これ人参のやつ! なんならこれが悪戯じゃない! もっといいお菓子ちょうだいよ!」
「うん。おやすみ」
「まだ持ってたの、この飴」
「後輩からまた貰ってきた。人参好きの友達がいるって。嬉しそうに五個くれたけどいる?」
「一個でも十分なのに……いらないわよ、最悪……!」
「色はハロウィンだよ。オレンジだし」
「味もハロウィンにしてよ。カボチャみたいに」
まふゆはもう言えることは言えて、満足したのか眠そうだ。
仕方ない。眠いのならゆっくり寝させてあげよう。
「はぁ……まあ悪戯がこれくらいなら全然いっか」
「悪戯、何を望んでるの?」
「うーん……」
確かに自分が恥ずかしめを受けるようなやつより断然マシだ。私はまふゆに何を望んでいたのか。
「……悪戯、ね。迷ったんだけど」
「え?」
まふゆの顔が近付いてきて、頬に柔らかい感触。リップ音がして、離れていく。
「今、何して、」
「おやすみ」
「…………」
ドクリ、ドクリと心臓が鼓動を刻む。嫌な気はしなくて、寧ろ、それに私は──
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