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※蓮司が遥を構いだしてから少しいじめが緩くなっていたが、 蓮司が“触れていい感情”として提示したことで、クラスがいじめを再開。あー……また、間延びしそう……。





──教室の空気が、きしんでいた。


笑い声はある。

冗談も飛び交う。


だがそのすべての裏側に、

ひとつの視線が──いや、いくつもの視線が、

遥の皮膚をかすめて通っていった。


昼休み。

机の上に置いた教科書を開くと、黒ペンで何かが書き込まれている。


「日下部の前で媚びるな」

「ヒトのものに触るな」


誰の筆跡でもない。

けれど──意味だけは、はっきりしていた。



掃除当番の時間。

教室にはもう数人しか残っていなかった。


遥は静かに机を拭いていた。

明らかに「わざと」散らかされた菓子の食べかす。

ポケットティッシュを使い切るほどの汚れに、誰の仕業かなんて考える気も起きなかった。


そのとき──


「まだ残ってたんだ。働き者だね」


背後から声がした。


振り返ると、蓮司がいた。

壁にもたれて、ポケットに手を突っ込んだまま。

口元には、いつものように何かをおもしろがるような薄い笑み。


「ちょっと訊いていい?」


遥は返事をしなかった。

ただ一瞬だけ、目を見て、また俯く。


「怒ってる? まあ、そりゃそうか」

「日下部のこと、好きなんでしょ」


その言葉に、手が止まった。

蓮司の声色に悪意はなかった。

冗談のようでもなく、真面目でもない。

ただ、何の重みもなく──言葉だけが投げられる。


遥は小さく首を振った。


「……ちがう」


「そっか」


蓮司は机の縁に腰をかける。

遥との距離は、30センチもなかった。


「でも、周りはそう見てないみたいだよ」

「ていうか──見せすぎなんじゃない? あの目」


「……」


「ま、忠告ってほどじゃないけど」

「昔も似たようなことあったよね? 懲りてないのかなって、ちょっと思って」


遥の背筋が、冷たくなった。


蓮司はそれを確認するように、ゆっくり立ち上がった。


「俺は止めたんだけどね」

「”さすがに、やりすぎだろ”って。言ったよ、一応」

「でも、止まるかどうかは──まあ、知らないけど」


そう言って、彼は無表情のまま笑った。


「じゃ、がんばって」


それだけ言い残して、出ていった。



──その翌日。


遥の椅子が消えていた。

教室の隅に、逆さにされた状態で転がっていた。


机の中には、小さく丸められた下着の切れ端。

誰のものかは、遥にはわからない。


だがそれより先に目を奪われたのは──

机の天板に彫られた文字だった。


「メスいぬ」


鉛筆ではなかった。

彫刻刀か、何か硬いもので削られていた。



授業が始まっても、教師は何も言わなかった。

教室中に漂う「これは面白い」という空気。

誰もがどこかで、期待していた。

遥がどう反応するのかを。



何も言えなかった。

何も──できなかった。


遥は、席に座らず立ったまま、

前を向いた。


ただ、喉の奥から鉄のような味が上がってきて、

口を開けば、吐きそうだった。


そのまま授業は進んだ。


静かだった。

なにもかも、静かすぎた。


──「始まってしまった」


そう思ったときには、もう遅かった。



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