「リアム様、ここにいる全員を救出するのは難しいと思います。どうしますか?」
「えっ?」
俺の身体がビクンと揺れる。
フィーのことを考えていたら、いきなりゼノに声をかけられて不覚にも驚いてしまった。
俺の隣にゼノが立ち、後ろにジルとユフィ、イルバが並ぶ。
「そうだな…。おまえ達に毒を浴びせたのはどんな奴だ?そしてどこに行った?すぐに戻ってきそうか?」
「それが…」とゼノが気まずそうな顔をする。
「なんだ?」
「相手の顔を見ていないのです。この穴を調査していたところ、いきなり爆発音がして白い煙に包まれた。すぐに気分が悪くなり身体の力が抜けて立てなくなったのですが、その後すぐに現れた男の格好がイヴァル帝国の軍服姿でした」
「なるほどな。だがそれだけではイヴァル帝国の者が犯人だと決められない。イヴァル兵のフリをするために軍服を奪って着ていただけかもしれない」
「そうですね。ですから、その男が今どこにいるのか、また戻ってくるのか、なぜ我らをこの場所で動けなくしたのかが、わからないのですよ」
「そうか…謎の男な…」
俺はゼノに頷くと、まだ地面に座り込んでいる騎士達に声をかけた。
「おまえ達はまだ動けないだろう。ここでしばらく待っていてくれ。俺達が村に戻り助けを呼ぶ。幸いここは薬草を栽培して売っている村だ。毒消しの薬もある。後で届けに来るから、それまでは耐えていてほしい。いいか?」
「はい…」
「承知しました…」
そこかしこで小さく返事の声がして、皆が頷いている。
「では急いで村長の家まで戻るぞ」と振り向いたその時、ジル、ユフィ、イルバの向こう側に、黒い面をつけた男が立っていることに気づいた。
「誰だっ…!」
目と鼻が隠れて口元は見えている。だがどのような表情をしているのかわからない。男は俺を見て、かすかに肩を揺らしたように見えた。
男が少しだけ顔を後ろに向けて、口を動かしている。何か喋っているのか。
その直後に、濃い青色のイヴァル帝国の軍服姿の男の後ろから、小さな人影が現れてこちらを覗いた。
ユフィと同じように、男が手のひらに乗せた白い光の下に現れた小さな人影。男と同じく濃い青色の軍服を着ている。男と違うのは、黒いマントをはおりフードを深くかぶって髪を隠していた。そして顔には、男と同じく銀色の面をつけている。
あの小柄な人物も、イヴァル帝国の者なのだろうか。それともイヴァル兵のフリをした盗賊なのか?想像するだけでは全く何もわからない。
俺は、剣を抜いて構えるゼノとジル、イルバを制して前に出た。
俺が前に出たのを見て、黒い面の男が銀の面の少年のような人物を背中に隠した。
どうやら銀の面の方が、主らしい。というか、男なのか?銀の面の人物は、男というには身体が小柄で細い。まるでフィーみたいだ。…え?まさか…フィーではないだろうな。
俺の不安を感じ取ったのだろう。ゼノが俺に近寄り耳元で囁く。
「彼らの面を取ってもらいますか?特に小さい方の…」
「いや…いい。あの城を出てからまだ七日ほどしか経っていない。彼がここにいるはずがない。それにこの村での不審な動きは、ひと月前からだと聞いている。その頃には、彼は俺と旅をしていたのだから、この件に関しては無関係だろう」
「そうですね」
黒い面の男が、こそこそとやり取りをする俺とゼノを見ている。しかし動きもしないし喋りもしない。
俺は穴の中に響き渡るほどの大きな声を出した。
「おまえ達は誰だ。なぜイヴァル帝国の軍服を着ている。イヴァル兵なのか?おまえ達がこの村の盗難騒ぎの犯人なのか?」
「……」
黒い面の男はピクリとも動かずにこちらに顔を向けている。
しかし後ろの小柄な銀の面の少年が、慌てて前に出てきて口を開きかけた。それを黒の面の男が阻止する。少年の腕を掴んで口を手で塞ぎ、耳元に口を寄せて何かを囁いている。
少年は激しく首を横に振る。掴まれた腕を外そうともがき、首を振り続ける。
「なんだ、仲間割れか?」
「そのようですね…。あの少年は、話し合いのできる理性がある方のように思えますが」
「そうだな。だがデカい男の方は見てるとムカつく奴を思い出すんだが…」
しかしこちらの質問に答えてもらわなければ何一つ状況がわからない。
俺は二人に近づこうと足を前に出した。その瞬間、ようやく黒い面の男が口を開いた。
「近づくな」
「は?おまえ…その声…」
「待って…!僕らはっ」
男の手から顔をずらせて少年が叫ぶ。男にしては少し高く耳に心地よい。
その声を聞いた瞬間、俺の心臓が激しく跳ねた。
今の声は!透明感のある優しい声音は!
黒の面の男が、急いで少年を肩に担いで逃げ出した。その拍子に少年のフードが取れる。
ユフィが逃げる二人を光で照らす。光に反射して、男の背中に垂れた少年の長い銀髪が揺れている。
やはりフィーだ!
「おまえ達はここにいろっ」
俺は後ろを見つつ叫ぶと、ゼノと共に二人を追いかけた。しかし横穴を出て、入ってきた方角とは反対側に二人の姿を見つけて尚も追いかけようと少し進んだところで、天井から岩が崩れ落ちてきた。
「リアム様っ!」
「ゼノっ、よけ……ぐっ!」
頭に衝撃を受けた。岩がぶつかったのだ。早くフィーを追いかけなければと思うのに身体が動かない。俺を呼ぶゼノの声が遠くなり、俺は意識を失った。
リアムの想い(終)
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