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第三章

僕の朝は早い。空が明るくなり始めた頃に自然と目が覚める。まずはベッドから降りて風呂場に向かい、全身を洗う。洗い終わると身体を拭くのだが、着替えが置いてある小部屋の壁に大きな鏡があるために、僕は毎日、いやでも自分の裸体を目にすることになる。

今朝もじっくりと眺めて、皮肉な笑いを浮かべた。呪われた僕の身体は、なんて恐ろしいのだろう。上半身に広がった、蔦のような模様の黒い痣。知らない人が見れば、恐ろしさに一目散に逃げていくに違いない。僕だって恐ろしいと思うもの。でも、これを見てきれいだと言った人が二人いた。リアムとラズールだ。

ラズールは僕が生まれた時から傍にいて兄弟みたいなものだから、そう言ってくれるのも納得できる。

しかしリアムは隣国のバイロン国の王子で、僕とは他人だ。なのにこんな僕をきれいだと好きだと言ってくれる。僕が愛した唯一の人。僕を幸せにしてくれる神様みたいな人。

使者として訪ねてきたリアムが、この国を出てから三日経った。今頃はもうバイロン国に入って王城に向かってる頃かな。

最後に会ってからまだ三日だけど、もう会いたいよ。リアム…大好きだよ。

「フィル様、着替えはすみましたか?」

「あ、もう少し待って」

「かしこまりました」

ぼんやりと考えごとをしていたら、ラズールが来てしまった。小部屋の扉の前で待っている気配がする。

ラズールは、毎朝僕の部屋にきて、濡れた僕の髪を乾かし整えてくれる。姉上の代わりに女王のフリをしている僕の世話は、全てラズールがしてくれるのだ。

イヴァル帝国の新たな女王になったフェリが、実は双子の弟フィルだと知る人物は、王城の中では六人しかいない。大宰相と三人の大臣達、軍隊長のトラビスとラズールだ。

そしてラズールの前でだけ、僕はフィルに戻ると決めた。それ以外では女王フェリになりきろうと努力している。

でもたまに、トラビスと話す時にフィルに戻ってしまう時がある。何度注意しても、トラビスが僕をフィルとして接してくるからだ。

トラビスは、僕がフェリのフリをすることに反対している。もう決まったことなのに、未だにそんなことは間違えてると言い続けている。

僕を僕として認めてくれるのは嬉しい。だけど女王であらねば国が滅んでしまうのだから、決めたことには従ってほしい。

考えごとをしながらモタモタと黒いシャツを着る。

リアムが去った後に、白いシャツでは痣が透けてしまうことに気づいた。だから僕は黒いシャツに黒いズボンを履くことにした。ドレスを着るのは特別な時にだけ。格好くらいは好きにさせてほしいと、僕が独断で決めた。

「ラズールおはよう」

「おはようございます、フィル様」

小部屋の扉を開けながら、目の前にいたラズールに挨拶をする。

ラズールが目を細めて挨拶を返してくると、僕を椅子に座らせた。

「もう少しご自分でもよく拭かないと、肩の所が濡れてしまいますよ」

「いいよ。だっておまえが乾かしてくれるじゃないか」

「まあそうですが。フィル様、本日の朝の予定ですが、仕立て屋が服を持ってきます。試着されますか?」

「しない。黒い服なら何だっていい」

「そういうわけには参りません。美しい容姿と銀髪に映えるように、凝った刺繍やレース、宝石でできたボタンを使用するように頼んでいます。それらを試着してみて、気に入らなければ作り直させます」

「だからいいって。これからは僕の服は全て質素な黒でいい。僕は目立ちたくないんだ。一昨日、母上と姉上の葬儀が済んだばかりなんだし…」

「わかりました。あなたがそう望むなら」

ラズールが僕の髪に丁寧に布を当てて、水分を拭き取っていく。時おり魔法で風を出してきれいに乾かすと、今度はくしで丁寧にとかし始めた。

母上と姉上の葬儀は、予定を早めて一昨日に終えた。終えると同時に新王として僕は民の前に立った。リアムと対面した時と同じ、黒いドレス姿で。

民からは歓迎されたと思う。女王様フェリ様と叫んで涙を流している者を、あちらこちらで見かけたから。王が交代したところで女王がいる限り安泰だと民は信じてるのだ。

僕はバルコニーから城内の広場に集まった人々を眺めて「僕は女ではない!」と叫ぼうかと、一瞬だけ考えた。しかし止めた。そんなことを言えば暴動が起き、僕は殺されるかよくて国外追放だ。国外追放になれば、すぐにリアムの所へ向かう。だけどその後の国は?きっと混乱して荒れる。そこを他国に付け入られ、侵略されて終わりだ。

実の子を殺そうとしてまで母上が守ってきたイヴァル帝国だ。偽物の女王である僕がどこまで守れるかわからないけど、頑張りたい。そしていつか後継者となる人物が現れれば、即座に王位を譲りリアムの傍で生きたい。

「疲れましたか?葬儀と即位が立て続けにありましたから」

「疲れたけど、そうも言ってられない」

「ですからせめて着るものを華やかにされれば、気持ちが上がりますのに」

「いいよ。僕はこの先黒い服しか着ないよ。痣も隠れていいしね」

髪を整え終えたラズールが、前に回ってきて片膝をつき、僕の両手を握った。

「即位されてたったの二日で、あなたが皆になんと呼ばれているか知っていますか」

「なに?脳なし?傀儡かいらい?」

「いえ。皆はあなたのことを優秀だと信じてます。そして冷たい方だと思ってるようです」

「ふーん。優秀だと思ってくれてるならいいんじゃないの」

「黒い服など着れば、普通は地味で暗くなるもの。しかしあなたが着れば、逆に美しさが際立ってしまう。黒い服をまとって颯爽と城内を歩くあなたを見た者達の間で、なんと呼ばれていると思いますか」

「だからなに?」

「黒の女王」

「…ふっ、アハハ!いいじゃないっ。気に入ったよ。でも女王と呼ばれるのはやはり嫌だな。そうだ、黒の王と呼ぶように訂正しておいてよ」

「フィル様はそれでよろしいのですか?」

「うん。いいんだよラズール」

ラズールが困ったように笑った。そして僕の手の甲にキスをすると、箱に入れて運んできた料理を机に並べ始めた。

銀の王子は金の王子の隣で輝く

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