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第27話「彼女の隣に別のエルフがいる場合」
月曜日。
午前九時。
営業企画部。
新しく入った月島セシル。
二百三歳。
見た目は二十代後半。
長い耳を隠していない。
そして。
席は。
相沢直人の隣。
「相沢さん」
「はい」
「こちらの共有フォルダですが」
月島が画面を指す。
「どこから入ればいいでしょうか」
「ここです」
相沢がマウスを操作する。
「このフォルダから」
「なるほど」
月島が少し近づく。
森野リリカの耳。
ぴく。
相沢は気づく。
見ない。
「ありがとうございます」
「いえ」
「それと」
月島が資料を出す。
「この申請書は?」
「それは総務」
「場所は?」
「三階」
「ご一緒いただけます?」
ぴく。
森野の耳。
もう一度。
相沢は見ない。
絶対に見ない。
「相沢さん」
森野が呼ぶ。
「はい」
「ちょっと」
「何?」
「こちらの資料」
森野が自分のパソコンを指す。
「確認してください」
「今?」
「今です」
「月島さんの案内が」
「神崎さん」
「はい」
「月島さんを総務へ案内してください」
神崎レオンが笑う。
「承知しました」
月島も。
「では神崎さん、お願いします」
「こちらです」
二人が出ていく。
相沢は森野の席へ。
「資料は?」
「これです」
画面。
普通のExcel。
「どこ?」
「全部です」
「全部?」
「確認してください」
「さっき確認したよね」
「もう一度」
相沢は森野を見る。
耳。
ぴく。
「嫉妬?」
「違います」
ぴく。
「耳」
「これは新人教育上の配慮です」
「何の?」
「相沢さんが教えると」
「うん」
「距離が近いです」
「画面見るから」
「近すぎます」
「普通だよ」
「私が判断します」
「何の権限で?」
森野は答える。
「恋人です」
相沢が笑う。
「それ便利だね」
「相沢さんが先に使いました」
午前十時。
月島が戻る。
「ありがとうございました」
神崎が席へ。
月島も。
「相沢さん」
「はい」
森野の耳。
ぴく。
「先ほどの続きを」
「はい」
「社内システムについて教えていただけますか」
「もちろん」
森野。
ぴく。
田中美咲が。
遠くから。
完全に面白がって見ている。
午前十一時。
月島。
「相沢さん」
ぴく。
午前十一時十分。
「相沢さん」
ぴく。
午前十一時二十五分。
「相沢さん」
ぴく。
午前十一時四十分。
「相沢さん」
ぴく。
森野の耳は。
働きすぎていた。
昼休み。
社員食堂。
相沢。
森野。
神崎。
田中。
そして。
月島。
五人。
月島が言う。
「森野さん」
「はい」
「今日はありがとうございました」
「私は何もしてませんけど」
「同じエルフがいるだけで安心します」
森野の耳が。
少し上がる。
「そうですか」
「はい」
「私も」
少し間。
「月島さんが来てくれて嬉しいです」
耳は動かない。
本音。
月島が笑う。
「ありがとうございます」
田中が聞く。
「月島さん」
「はい」
「二百三歳なんですよね」
「はい」
「森野さんより六十歳上」
「そうですね」
「神崎さんより五十六歳上」
「はい」
「じゃあ」
田中が月島を見る。
「三人の中で一番偉い?」
森野が言う。
「年齢で上下は決まりません」
神崎も。
「人間と同じです」
月島が。
「でも私は森野さんより少し先輩ですね」
森野。
「少し?」
「六十年」
「エルフ基準では少しですね」
相沢。
「俺の人生二回分くらい」
森野が相沢を見る。
「そういう計算しないでください」
「つい」
月島が相沢を見る。
「相沢さんは三十一歳でしたね」
「はい」
「若いですね」
相沢。
「……」
田中。
「相沢さんが若者扱いされてる」
月島は普通に続ける。
「三十一歳なら」
少し考える。
「まだほとんど何も経験していないでしょう」
相沢が言う。
「そこまで?」
「はい」
森野が笑う。
「赤ちゃんです」
「森野さんまで」
月島も笑う。
「かわいいですね」
森野の耳。
ぴく。
相沢。
「え?」
月島。
「人間は」
「人間?」
「はい」
「短い時間の中で一生懸命生きるので」
月島は笑う。
「かわいいと思います」
森野の耳。
ぴくぴく。
田中は。
完全に楽しんでいる。
神崎は。
水を飲みながら。
笑いをこらえている。
相沢が言う。
「森野さん?」
「何ですか」
「耳」
「動いてません」
ぴく。
「動いてる」
「空調です」
「耳が空調で動く?」
「今日は動きます」
午後一時。
仕事再開。
月島は。
驚くほど仕事ができた。
資料。
速い。
Excel。
速い。
電話対応。
丁寧。
企画案。
的確。
午後二時。
部長が言う。
「月島さん」
「はい」
「これ、前職でやってた?」
「似た仕事を」
「何年?」
「三十五年ほど」
「そりゃ速いわ」
午後三時。
月島が作った資料。
相沢が確認。
「完璧ですね」
「ありがとうございます」
「俺が教えることないかも」
「そんなことありません」
月島は笑う。
「会社ごとに文化が違いますから」
「文化?」
「はい」
「例えば?」
「この会社では」
月島が小声になる。
「部長が三時ごろお菓子を食べます」
相沢が笑う。
「もう気づいた?」
「はい」
「毎日です」
「やっぱり」
部長が遠くから。
「聞こえてるぞ」
月島の耳が。
ぴく。
「すみません」
相沢が初めて。
月島の耳が動くところを見る。
「月島さんも動くんですね」
「もちろん」
「森野さんと同じ」
「エルフですから」
森野が。
自分の席から見る。
相沢。
月島。
二人で笑っている。
ぴく。
ぴく。
ぴく。
田中が小声で。
「森野さん」
「何ですか」
「耳」
「知ってます」
「嫉妬?」
「違います」
「でも」
「違います」
「相沢さん取られそう?」
森野が。
田中を見る。
「田中さん」
「はい」
「仕事」
「してます」
「もっとしてください」
午後五時。
月島が席を立つ。
「相沢さん」
「はい」
「今日のお礼に」
森野の耳。
ぴく。
「今度、食事でも」
森野。
ぴくっ。
相沢が答える前。
「月島さん」
森野が立つ。
「はい?」
「相沢さんは」
一拍。
「私の恋人です」
営業企画部。
静かになる。
月島。
「はい」
「知っています」
森野。
「……」
相沢。
「……」
田中が笑いをこらえる。
月島が続ける。
「会社で有名ですから」
「そうですか」
「はい」
「では」
森野は座ろうとする。
月島が言う。
「三人でどうですか?」
森野が止まる。
「三人?」
「はい」
「私も?」
「もちろん」
森野の耳。
ぴく。
「……それなら」
「いいですか?」
「はい」
相沢が言う。
「俺の意見は?」
二人同時。
「行きますよね?」
「はい」
即答。
午後六時。
退社。
月島は先に帰った。
神崎も。
田中も。
相沢と森野。
二人で駅へ。
「森野さん」
「何ですか」
「今日」
「はい」
「嫉妬してた?」
「してません」
ぴく。
「してた」
「してません」
ぴく。
「耳」
「うるさいです」
「俺は何も言ってない」
「耳がうるさいんです」
相沢は笑う。
「でも」
「何ですか」
「ちょっと嬉しかった」
森野が止まる。
「何が?」
「嫉妬」
ぴく。
「嫌です」
「何で」
「子供みたいです」
「百四十三歳なのに?」
「年齢は関係ありません」
相沢が手を出す。
森野が。
すぐ握る。
「相沢さん」
「何?」
「月島さん」
「うん」
「きれいですよね」
「そうだね」
ぎゅっ。
手が強くなる。
「痛い」
「そうですか」
「痛いです」
「気のせいです」
「嫉妬してる?」
「してません」
ぴく。
相沢が笑う。
「でも」
森野が言う。
「何?」
「月島さんが来て」
「うん」
「嬉しいのも本当です」
耳は。
動かない。
「今まで」
「うん」
「会社で耳を出してるのは私だけでしたから」
「神崎もいるじゃん」
「レオンは昔から知っています」
「なるほど」
「新しい人が」
森野は言う。
「普通に耳を出して入社してきた」
「うん」
「それが」
少し笑う。
「なんだか嬉しいです」
相沢も笑った。
「じゃあ仲良くしないと」
「します」
「俺とも?」
森野が止まる。
「適度に」
「適度」
「必要以上は禁止です」
「厳しい」
翌朝。
午前八時五十分。
営業企画部。
月島は。
もう来ていた。
「おはようございます」
「おはようございます」
相沢が席へ。
机の上。
小さな紙袋。
「これ何ですか?」
月島が答える。
「昨日のお礼です」
「俺に?」
「はい」
「ありがとうございます」
森野が。
横を見る。
耳。
ぴく。
相沢が紙袋を開ける。
焼き菓子。
「おいしそう」
月島が笑う。
「昔から好きなお店なんです」
「昔って?」
「八十年くらい」
「店あるんですか?」
「代替わりしています」
森野が立つ。
「相沢さん」
「何?」
「甘いもの」
「うん」
「朝から食べると太りますよ」
「じゃあ昼に」
「昼も太ります」
「いつ食べれば?」
「私が預かります」
「何で?」
「健康管理です」
月島が。
森野を見る。
そして。
笑った。
「森野さん」
「何ですか」
「かわいいですね」
耳。
ぴくぴくぴく。
「月島さんまで言わないでください!」
営業企画部に。
エルフが増えた。
そして。
どうやら。
森野リリカの耳が休める日は。
ますます。
遠くなったらしい。
コメント
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うわ、第27話めっちゃ面白かった!笑 新エルフ・月島さんの登場で森野さんの嫉妬描写が炸裂してて、耳のぴくぴくが完全に心の声になってるの好きすぎる。「嫉妬?」「違います」→ぴく、の流れが毎回ツボ。あと「私は判断します」「恋人です」って権限使うとこ、ちゃんと相沢さんから学んでて笑った。 月島さんもいいキャラだわ。仕事できるし、余裕あるし、森野さんに「かわいい」って無自覚に煽るの天才。三人で食事行く流れ、森野さんが渋々承諾したとこもほっこりした。 エルフが増えて職場の温度感変わったけど、なんかこれからも平和そうで安心した。続き待ってます🔥