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☀️アラーム「ピピピピピ…!」
北斗「……っ」
一瞬で目が開く。
北斗「……うるせえ」
手探りでスマホを取る。
アラーム止める。
静かになる。
北斗「……8時」
小さく呟く。
北斗「……」
数秒ぼーっとする。
そのあと—
思い出す。
北斗「……」
ゆっくり横を見る。
〇〇「……すぅ……」
まだ寝てる。
しかも—
さっきと同じ、
ちゃんと距離ある状態。
北斗「……」
一瞬だけ安心する。
北斗「……戻ってんじゃねえか」
小さく。
クッションは床のまま。
北斗「……意味なかったな」
少しだけ息吐く。
〇〇「……ん……」
小さく動く。
北斗「……」
起きるかと思って見る。
でも—
〇〇「……すぅ……」
また寝る。
北斗「……起きねえのかよ」
小さく。
北斗「……」
少しだけ体起こす。
髪、軽くかき上げる。
北斗「……」
昨日のこと、
夜のこと、
全部少し頭よぎる。
北斗「……」
一瞬だけ〇〇を見る。
何も知らない顔。
北斗「……」
視線外す。
北斗「……まあいいか」
小さく。
ベッドから降りようとする—
その瞬間、
〇〇「……ん……」
北斗の服、軽く掴む。
北斗「……は?」
止まる。
〇〇「……どこいくの……」
寝ぼけた声。
目、半分閉じたまま。
北斗「……起きてんのか」
〇〇「……起きてない……」
北斗「どっちだよ」
〇〇「……まだ……」
ぎゅっと少しだけ引く。
北斗「……」
ため息。
北斗「……離せ」
〇〇「……やだ……」
北斗「子どもか」
〇〇「……もうちょっと……」
そのまままた目閉じる。
北斗「……」
完全に寝ぼけてる。
北斗「……」
少しだけ迷う。
でも—
無理に外さない。
北斗「……5分だけだぞ」
小さく。
そのまま、
もう一回だけベッドに戻る。
〇〇「……ん……」
安心したみたいに少し緩む。
北斗「……」
天井見る。
北斗「……朝から何してんだか」
小さく呟く。
でも—
そのまま、
静かな朝がもう少しだけ続く。
着信音「♪♪♪」
〇〇「……ん……」
寝ぼけたままスマホを探る。
〇〇「……あ」
画面を見る。
〇〇「……嶺亜くん」
北斗「……」
横でその名前を聞く。
〇〇「……もしもーし」
嶺亜「〇〇ちゃん?起きてる?」
〇〇「……起きてる……」
全然起きてない声。
北斗「……」
黙ってる。
でもちゃんと聞こえてる。
嶺亜「今日さ、仕事一緒だよね」
〇〇「……あ、うん」
〇〇、少しだけ目を開ける。
〇〇「……何時だっけ」
嶺亜「午後入り」
〇〇「……よかった……」
安心した声。
北斗「……」
〇〇、まだ北斗の服軽く掴んだまま。
〇〇「……どうしたの?」
嶺亜「いや、その前に少しだけ話せるかなって思って」
〇〇「……」
少しだけ静かになる。
北斗「……」
空気、少し変わる。
〇〇「……あー」
少し考える。
〇〇「……嶺亜くん」
嶺亜「うん」
〇〇「……今日さ」
〇〇「その前にちょっと時間もらっていい?」
嶺亜「……うん」
〇〇「……この前のやつ」
少しだけ間。
〇〇「……ちゃんと返事していい?」
嶺亜「……」
一瞬の沈黙。
北斗「……」
何も言わない。
でも聞いてる。
嶺亜「……うん」
少しだけ優しい声。
嶺亜「〇〇ちゃんが決めたなら」
〇〇「……うん」
〇〇「ちゃんと話す」
嶺亜「分かった」
〇〇「ありがと」
少しだけ間。
嶺亜「無理すんなよ」
〇〇「……大丈夫」
嶺亜「じゃあ後で現場で」
〇〇「うん」
通話、切れる。
静か。
〇〇「……」
スマホを下ろす。
そのまま—
また横になる。
北斗「……」
少しだけ視線を向ける。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「聞こえてた?」
北斗「聞こえてた」
〇〇「……そっか」
少しだけ間。
〇〇「……今日ちゃんとする」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「……ああ」
短く。
〇〇「……」
また目閉じる。
でも—
さっきより少しだけ、
空気が重くなる。
北斗「……起きるぞ」
〇〇「……あと5分」
北斗「それ何回目だよ」
〇〇「……いいじゃん」
北斗「……」
ため息。
でも—
強くは言わない。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「終わったあと、ちょっとだけ話聞いて」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……気が向いたらな」
〇〇「ひど」
北斗「冗談だ」
〇〇「……ほんと?」
北斗「……ああ」
〇〇「……ありがと」
小さく。
そのまま—
朝の空気の中で、
少しずつ現実が近づいてくる。
朝8:20
インターホンが鳴る。
〇〇「はーい」
玄関に向かう。
北斗はリビングからちらっと見る。
ガチャ。
マネ「おはよー」
〇〇「おはよ」
マネ「準備できてる?」
〇〇「だいたい」
マネ「だいたいってなに」
〇〇「できてるって」
マネ「はいはい」
靴履く。
マネ「今日押してるからちょい早めね」
〇〇「了解」
マネ、ちらっと中を見る。
マネ「…あ、いた」
北斗と目合う。
北斗「どうも」
マネ「おはよございます」
軽く会釈。
〇〇「今日さ、嶺亜くんと一緒なんだよね」
マネ「うん、聞いてる」
〇〇「ちょっと話したいことあるんだけど」
マネ「例のやつ?」
〇〇「うん」
マネ「いいんじゃない?ちゃんと終わらせといた方がいいし」
〇〇「だよね」
マネ「変に引っ張ると面倒だし」
〇〇「分かってる」
マネ「タイミングだけ見てな」
〇〇「うん」
マネ「あと顔な」
〇〇「え?」
マネ「ちょっと寝不足っぽい」
〇〇「うそ」
マネ「うそじゃない」
〇〇「大丈夫でしょ」
マネ「まぁカメラ入ればなんとかなるけど」
〇〇「でしょ」
マネ「プロだねー」
〇〇「当たり前」
軽く笑う。
マネ「じゃ行くよ」
〇〇「うん」
一歩出る前に—
〇〇、少し振り返る。
北斗と目が合う。
〇〇「行ってくる」
北斗「……おう」
短く。
マネ「はいはいイチャつかない」
〇〇「してない」
マネ「してる空気」
〇〇「してないって」
北斗「してねえよ」
マネ「はいはい」
ドア閉まる。
外、足音が遠ざかる。
静かになる。
北斗「……」
少しだけそのまま立つ。
北斗「……嶺亜、か」
小さく。
そのまま視線落とす。
北斗「……」
何も言わない。
でも—
さっきより少しだけ、空気が重くなる。
ーーーーーーーーー
北斗 side
控室。
静か。
スタッフの声も、周りの動きもあるのに——
どこか遠い。
北斗「……」
ソファに座って台本開いてる。
ページはめくれてるのに、
全然、頭に入ってこない。
北斗「……」
ペンでトントン叩く。
さっきの会話が残ってる。
「嶺亜くんと一緒なんだよね」
「ちょっと話したいことある」
北斗「……」
分かってる。
返事の話だってことくらい。
北斗「……はぁ」
小さく息吐く。
スタッフ「松村さん、次スタンバイお願いしまーす」
北斗「あ、はい」
立ち上がる。
歩きながらも—
頭の中は別のこと。
北斗「……」
(今日、言うのかよ)
喉の奥が少し詰まる。
スタジオ入る。
ライト当たる。
共演者「おはようございます」
北斗「おはようございます」
普通に返す。
カメラ前に立つ。
監督「じゃあリハいきまーす」
北斗「はい」
立ち位置つく。
セリフ—
口からは出る。
でも、
どこか“上の空”。
共演者が少しだけ見る。
共演者「…大丈夫?」
北斗「大丈夫です」
即答。
でも—
全然大丈夫じゃない。
リハ終わる。
監督「うん、一回OK。ちょい感情もう少しだけ欲しいかな」
北斗「…すみません」
監督「いや全然、全然いけると思う」
北斗「はい」
戻る。
椅子に座る。
北斗「……」
スマホに手が伸びる。
止まる。
北斗「……」
(何送るんだよ)
開かない。
そのままテーブルに置く。
北斗「……」
目閉じる。
浮かぶのは—
朝の「行ってくる」
あの一瞬。
北斗「……」
(あいつ、普通に行ったな)
当たり前だけど。
北斗「……」
(返事、するんだろ)
胸の奥がざわつく。
北斗「……くそ」
小さく。
でも抑える。
スタッフ「松村さん、本番いきます!」
北斗「はい」
立ち上がる。
顔、戻す。
スイッチ入れる。
北斗「……」
(仕事だろ)
一歩出る。
カメラ前。
でも—
完全には切り替えきれてない。
北斗「……」
(今、何してんだよ)
視線が少しだけ泳ぐ。
そのまま—
本番、スタートする。
ーーーーーーーーー
〇〇 side
楽屋。
朝からなんか落ち着かない。
〇〇「……」
台本開いてるのに、全然入ってこない。
同じページずっと見てる。
〇〇「……はぁ」
小さく息吐く。
(今日だよね)
午後。
嶺亜くんに返事する。
決めてるのに—
なんかずっとそわそわする。
ガチャ。
風磨「おはよー」
勝利「おはよう」
聡「おはよ!」
将生「おはよ」
しゅうと「おはよー」
寺西「おはよ」
原「おはよー」
篠塚「おはようございます」
一気ににぎやか。
〇〇「おはよ」
風磨「なにその顔」
〇〇「普通だけど」
原「いや普通じゃないって」
しゅうと「めっちゃ考え事してる顔」
将生「さっきから全然動いてなかったし」
〇〇「してない」
寺西「してた」
篠塚「してましたよ、ずっと同じページ見てました」
〇〇「なんでそんな見てんの」
風磨「分かりやすいから」
〇〇「うそでしょ」
聡「なんかあった?」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「今日さ」
勝利「うん」
〇〇「嶺亜くんと一緒」
空気が少し変わる。
原「あー」
しゅうと「そっか」
将生「今日なんだ」
〇〇「うん」
寺西「返事するの?」
〇〇「する」
即答。
風磨「早」
〇〇「決めてるし」
篠塚「ちゃんとしてますね」
〇〇「そこ?」
ちょっと笑う。
聡「緊張してる?」
〇〇「してる」
勝利「珍しい」
原「〇〇が?」
〇〇「なにその反応」
原「いやあんまそういうの見せないじゃん」
〇〇「今日はちょっと」
しゅうと「そりゃそうだよね」
将生「ちゃんと話したいもんね」
〇〇「うん」
寺西「内容はもう決まってる?」
〇〇「決まってる」
風磨「ブレない?」
〇〇「ブレない」
風磨「強いな」
〇〇「引っ張るの嫌だし」
勝利「まぁそれはそう」
篠塚「嶺亜さん優しいですもんね」
〇〇「優しい」
聡「だからこそちゃんとだね」
〇〇「そう」
少し静か。
原「てかさ」
〇〇「なに」
原「〇〇ってほんと仕事優先だよな」
〇〇「当たり前」
しゅうと「即答だ」
将生「でもかっこいいけどね」
〇〇「でしょ」
風磨「自分で言うな」
〇〇「事実」
笑い起きる。
でも—
勝利「でもさ」
〇〇「なに」
勝利「恋愛ゼロってわけでもないでしょ」
〇〇「……」
一瞬止まる。
聡「ん?」
〇〇「ゼロではない」
原「お?」
風磨「出た」
しゅうと「え、誰かいるの?」
〇〇「いや」
一瞬だけ頭に浮かぶ。
すぐ消す。
〇〇「分かんない」
寺西「なにそれ」
〇〇「ほんとに分かんないの」
将生「それ一番気になるやつ」
篠塚「曖昧ですね…」
風磨「お前そういうとこだけ雑」
〇〇「いいの」
勝利「まぁ今日で一区切りだね」
〇〇「うん」
聡「終わったら少し楽になるよ」
〇〇「だといいけど」
原「絶対なるって」
しゅうと「ちゃんと伝えたら大丈夫」
将生「応援してる」
〇〇「なんか壮行会みたい」
寺西「まあそんなもんだろ」
風磨「ちゃんと行ってこい」
〇〇「だから行ってきますみたいに言うな」
原「いやもうそういうテンション」
笑う。
少しだけ空気軽くなる。
〇〇「……でもさ」
聡「なに?」
〇〇「早く終わってほしい」
風磨「珍しく弱音」
〇〇「うるさい」
勝利「午後まで長いね」
〇〇「長い」
時計見る。
まだ午前。
全然進んでない。
〇〇「……やだな」
ぽつり。
将生「そんな顔すんなよ」
しゅうと「終わったらスッキリするって」
原「たぶん」
〇〇「たぶんいらない」
篠塚「すみません、ちょっと笑いました」
〇〇「ひど」
また少し笑う。
でも—
心の奥だけはずっと落ち着かない。
(午後か…)
〇〇「よし」
深呼吸。
〇〇「仕事する」
風磨「切り替え早」
〇〇「プロなんで」
寺西「さすが」
原「かっけー」
〇〇「でしょ」
立ち上がる。
でも—
頭の片隅にはずっと、
午後のことが残ったまま。
〇〇 side
午後。
スタジオ移動。
今日は特別企画。
それぞれの事務所に訪問する流れで—
ジュニアの現場と、デビュー後の現場、両方回る。
〇〇「……」
廊下歩きながら、少しだけ深呼吸。
(ここか)
ジュニアの現場。
扉の前で一瞬止まる。
スタッフ「お願いしますー」
ガチャ。
中は少しざわついてて、でもどこか新鮮な空気。
まだ“これから”の熱量。
〇〇「お邪魔します」
一斉に視線が向く。
嶺亜「〇〇ちゃん」
すぐ気づく。
〇〇「嶺亜くん」
自然に近づく。
嶺亜「今日よろしくね」
〇〇「よろしく」
いつも通り。
周りも少し緊張しつつ、でも楽しそうな空気。
撮影スタート。
トーク、軽い企画、笑い。
〇〇もちゃんと回す。
嶺亜も自然に乗る。
距離感も空気も—
何も変わらない。
でも—
〇〇「……」
ふとした瞬間、
思う。
(ここにいる人たち)
(これから全部始まる人たち)
真っ直ぐで、勢いあって、
まだ何でもできる。
〇〇「……」
嶺亜を見る。
嶺亜もその中の一人。
(これからなんだよね)
(まだ、いくらでもある)
頭の中に浮かぶ。
“もしここで何か出たら”
“もし変な形で名前が出たら”
〇〇「……」
一瞬だけ、現実に引き戻される。
(台無しになる)
本人だけじゃない。
周りも、タイミングも、全部。
〇〇「……」
少しだけ視線落とす。
(やっぱり)
(ちゃんと終わらせないと)
撮影終了。
スタッフ「お疲れ様でしたー!」
ざわっと解ける空気。
嶺亜「お疲れ」
〇〇「お疲れ」
少しだけ間。
〇〇「……嶺亜くん」
嶺亜「ん?」
〇〇「ちょっといい?」
嶺亜「うん」
少し離れた場所へ。
廊下の端。
人の気配はあるけど、会話は聞こえない距離。
少し静か。
〇〇「……この前のやつ」
嶺亜「……うん」
ちゃんと分かってる顔。
〇〇「返事、いい?」
嶺亜「うん」
〇〇「……」
一瞬だけ間。
でも—
迷わない。
〇〇「ごめん」
嶺亜「……」
〇〇「すごく嬉しかった」
〇〇「ちゃんと考えた」
〇〇「でも」
少しだけ息を吸う。
〇〇「今は無理」
まっすぐ。
嶺亜「……そっか」
〇〇「うん」
〇〇「嶺亜くん、これからだし」
〇〇「まだいっぱいチャンスあるし」
〇〇「今すごい大事な時期じゃん」
嶺亜「……」
〇〇「ここで変な形で名前出たらさ」
〇〇「もったいない」
〇〇「全部」
嶺亜、少しだけ笑う。
嶺亜「〇〇ちゃんっぽい」
〇〇「そう?」
嶺亜「うん」
少しだけ間。
嶺亜「でもさ」
〇〇「うん」
嶺亜「それだけじゃないでしょ」
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
でも—
〇〇「それもあるけど」
〇〇「ちゃんと考えてこれ」
嘘じゃない。
嶺亜「……そっか」
小さく頷く。
嶺亜「ありがとう、ちゃんと言ってくれて」
〇〇「うん」
嶺亜「正直ちょっと期待してたけど」
〇〇「……」
嶺亜「でも納得した」
〇〇「ごめんね」
嶺亜「謝んなくていいよ」
少しだけ笑う。
嶺亜「むしろちゃんとしてるなって思った」
〇〇「ほんと?」
嶺亜「うん」
少し沈黙。
でも重くない。
嶺亜「これからも普通にいれる?」
〇〇「いるでしょ」
即答。
嶺亜「よかった」
〇〇「こちらこそ」
嶺亜「じゃあさ」
〇〇「なに」
嶺亜「次は仕事でちゃんと勝負しよ」
〇〇「いいね」
〇〇「負けないけど」
嶺亜「言うじゃん」
〇〇「当たり前」
少しだけ笑う。
空気が少し軽くなる。
嶺亜「じゃ戻ろ」
〇〇「うん」
歩き出す。
さっきまであったものが、
少しだけ整理された感じ。
〇〇「……」
(終わった)
胸の奥、
少し軽い。
でも—
ほんの少しだけ、
何か残ってるまま。
〇〇 side
20:00
マネの車、マンション前に到着。
マネ「お疲れ」
〇〇「お疲れ」
マネ「どうだった?」
〇〇「言った」
マネ「早」
〇〇「すぐ言った」
マネ「で?」
〇〇「普通に終わった」
マネ「そっか」
〇〇「うん」
マネ「引きずってない?」
〇〇「ない」
マネ「ならOK」
〇〇「うん」
マネ「明日も早いからちゃんと寝ろよ」
〇〇「はーい」
マネ「じゃあまた明日」
〇〇「ありがとう」
ドア閉まる。
車が去る。
静か。
〇〇「……」
少しだけ空見て、
そのまま中へ。
鍵開ける。
ガチャ。
中から—
いい匂い。
〇〇「……」
靴脱ぎながら気づく。
キッチンの方、
明かりついてる。
〇〇「ただいま」
北斗「……おう」
キッチンから声。
〇〇、少しだけ覗く。
北斗、フライパン持ってる。
コンロの前。
〇〇「何してんの」
北斗「見りゃ分かるだろ」
〇〇「ご飯?」
北斗「そう」
〇〇「珍しくない?」
北斗「うるせえ」
フライパンの中、
ジュージュー音。
野菜と肉炒めてる。
〇〇「いい匂い」
北斗「腹減ってんだろ」
〇〇「減ってる」
北斗「だろうな」
〇〇、キッチンの近くまで来る。
〇〇「何これ」
北斗「適当」
〇〇「絶対嘘」
北斗「適当だって」
〇〇「ちゃんとしてるじゃん」
北斗「してねえ」
でも手つきは慣れてる。
〇〇「……」
少しだけそのまま見る。
〇〇「今日さ」
北斗「……」
一瞬だけ手止まる。
北斗「……どうだった」
聞き方、少しだけ低い。
〇〇「言ったよ」
北斗「……」
フライパンの音だけになる。
北斗「……で」
〇〇「断った」
北斗「……」
一瞬だけ、完全に止まる。
でもすぐ—
北斗「……そっか」
また動き出す。
〇〇「うん」
〇〇「ちゃんと話した」
北斗「……そうかよ」
短く。
でも—
さっきより少しだけ、
肩の力が抜けてる。
〇〇「なんかさ」
北斗「何」
〇〇「思ったより普通に終わった」
北斗「そんなもんだろ」
〇〇「もっと重いかと思ってた」
北斗「お前が勝手に重くしてただけだろ」
〇〇「かも」
少し笑う。
北斗「……」
皿に盛る。
北斗「ほら」
〇〇「ありがと」
〇〇、受け取る。
〇〇「いただきます」
北斗「どうぞ」
一口。
〇〇「……おいしい」
北斗「普通」
〇〇「普通じゃない」
北斗「大げさ」
〇〇「ほんとに」
また一口。
〇〇「なんか今日さ」
北斗「何」
〇〇「ちゃんと終わった感じする」
北斗「……」
少しだけ視線向ける。
北斗「……ならいいだろ」
〇〇「うん」
そのまま食べる。
静か。
でも—
朝とも昼とも違う、
少しだけ落ち着いた空気。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日もここいる」
北斗「……いるだろ」
〇〇「だよね」
当たり前みたいに言う。
北斗「……」
その一言に—
ほんの少しだけ、
視線が揺れる。
でも何も言わない。
ただ—
同じ空間で、
同じ時間がまた流れていく。
リビング。
お風呂も終わって、髪も半乾き。
〇〇、ソファにだらっと座る。
テレビはついてるけど、ほぼ見てない。
〇〇「……」
スマホ手に取る。
少しだけ迷って—
タップ。
発信。
プルルル……
すぐ繋がる。
環奈「もしもーし」
〇〇「もしもーし」
環奈「なに急に」
〇〇「なんとなく」
環奈「雑すぎ」
〇〇「いいじゃん」
環奈「で、どうしたの」
〇〇「今日さ」
環奈「うん」
〇〇「嶺亜くんに返事してきた」
環奈「え、もう!?」
〇〇「もう」
環奈「はや」
〇〇「引っ張るの嫌だから」
環奈「で?」
〇〇「断った」
環奈「……そっか」
〇〇「うん」
環奈「ちゃんと?」
〇〇「ちゃんと」
環奈「えら」
〇〇「普通」
環奈「いや普通じゃないって」
〇〇「そう?」
環奈「ちゃんと向き合うのってしんどいじゃん」
〇〇「まあね」
環奈「逃げなかったのえらい」
〇〇「逃げないよ」
環奈「かっこよ」
〇〇「でしょ」
少し笑う。
環奈「でもさ」
〇〇「なに」
環奈「それだけ?」
〇〇「え?」
環奈「理由」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「タイミングもあるし」
〇〇「今大事な時期だし」
環奈「うん」
〇〇「変な噂とか出たら嫌じゃん」
環奈「……うん」
環奈、ちょっとだけ黙る。
環奈「それ“だけ”?」
〇〇「……」
〇〇「それもあるけど」
環奈「ほらきた」
〇〇「なに」
環奈「他にもある顔してる」
〇〇「してない」
環奈「してる」
〇〇「してないって」
環奈「で?」
〇〇「……分かんない」
環奈「またそれ」
〇〇「ほんとに分かんないの」
環奈「じゃあ質問」
〇〇「なに」
環奈「好きになれそうだった?」
〇〇「……」
少しだけ考える。
〇〇「いい人だよ」
環奈「うん」
〇〇「でもなんか違う」
環奈「それ答えじゃん」
〇〇「そう?」
環奈「うん」
少し静か。
環奈「じゃあもう一個」
〇〇「なに」
環奈「今、頭に誰か浮かんでる?」
〇〇「……」
一瞬だけ—
浮かぶ。
でも—
〇〇「浮かんでない」
環奈「嘘」
〇〇「なんで」
環奈「間あった」
〇〇「気のせい」
環奈「絶対なんかいるじゃん」
〇〇「いないって」
環奈「へー」
ちょっとニヤけてる声。
〇〇「なにその反応」
環奈「いや別に」
〇〇「絶対あるじゃん」
環奈「あるよ」
〇〇「なに」
環奈「楽しみ」
〇〇「最悪」
環奈「でさ」
〇〇「なに」
環奈「今どこ」
〇〇「家」
環奈「一人?」
〇〇「……」
一瞬だけ止まる。
〇〇「北斗の家」
環奈「は?」
〇〇「避難中」
環奈「え、まだ?」
〇〇「まだ」
環奈「え、ちょっと待って」
環奈「それで今電話してんの?」
〇〇「そう」
環奈「北斗いる?」
〇〇「いる」
環奈「えぐ」
〇〇「なにが」
環奈「状況が」
〇〇「普通」
環奈「どこが」
〇〇「普通」
環奈「絶対普通じゃない」
〇〇「普通だって」
環奈「で、何してるの」
〇〇「ご飯食べて、お風呂入って、今だらだら」
環奈「同棲じゃん」
〇〇「違う」
環奈「いやほぼそれ」
〇〇「違うって」
環奈「で、さっきの話に戻るけど」
〇〇「戻すな」
環奈「北斗は?」
〇〇「なにが」
環奈「どう思ってんの」
〇〇「普通」
環奈「絶対普通じゃない」
〇〇「普通だって」
環奈「じゃあさ」
〇〇「なに」
環奈「北斗のことどう思ってんの」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「友達」
即答。
環奈「へー」
〇〇「なに」
環奈「いや別に」
〇〇「その“へー”やめて」
環奈「いやー面白いなと思って」
〇〇「どこが」
環奈「色々」
〇〇「雑」
環奈「まあいいや」
〇〇「投げた」
環奈「とりあえずさ」
〇〇「なに」
環奈「今日はちゃんと寝な」
〇〇「急に母親」
環奈「色々あった日でしょ」
〇〇「まあね」
環奈「お疲れ」
〇〇「ありがと」
環奈「また聞かせて」
〇〇「うん」
環奈「じゃあね」
〇〇「ばいばい」
通話切れる。
〇〇「……」
スマホ置く。
ソファに沈む。
〇〇「……分かんないって」
小さく。
でも—
その“分かんない”の中に、
ほんの少しだけ、
はっきりしそうな何かが混ざってる。
ーー
ソファの上。
電話を切ったあとも、〇〇はそのままぼーっとしてる。
スマホ、膝の上。
視線はどこにも合ってない。
北斗「……」
少しだけ見て、
何も言わずに隣に座る。
クッションが少し沈む。
距離、近くなる。
〇〇「……」
気づいてるけど、何も言わない。
北斗「……終わったのか」
〇〇「……うん」
小さく。
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「環奈?」
〇〇「うん」
北斗「……長かったな」
〇〇「ちょっとね」
また静かになる。
テレビもついてない。
外の音も遠い。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「ちゃんと断ってきた」
北斗「……」
一瞬だけ、止まる。
北斗「……そうか」
〇〇「うん」
〇〇「嶺亜くんに」
北斗「……」
聞いてる。
でも顔には出さない。
〇〇「……いい人だった」
北斗「……だろうな」
〇〇「だからちょっとだけ迷った」
北斗「……」
〇〇「でもやめた」
北斗「……なんで」
〇〇「……今じゃないなって思って」
北斗「……」
〇〇「仕事もあるし」
〇〇「タイミングじゃないっていうか」
北斗「……」
静かに聞いてる。
〇〇「……あとさ」
北斗「何」
〇〇「なんか」
少しだけ言葉詰まる。
〇〇「……ちゃんと好きって思える状態じゃなかった」
北斗「……」
その言葉、ゆっくり落ちる。
北斗「……そっか」
〇〇「うん」
少しだけ力抜く。
〇〇「変に付き合うの違うなって思って」
北斗「……まあな」
〇〇「……うん」
また少し静か。
でも—
さっきより少しだけ空気が軽い。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「私さ」
北斗「……」
〇〇「ちゃんと好きになれる人、いつできるんだろ」
北斗「……」
一瞬だけ、視線動く。
北斗「……知らねえよ」
〇〇「冷たい」
北斗「普通だ」
〇〇「ふふ」
少しだけ笑う。
でもそのあと、
またちょっとだけ静かになる。
〇〇「……でもさ」
北斗「何」
〇〇「今日ちょっとだけ怖かった」
北斗「……何が」
〇〇「ちゃんと断ったのに」
〇〇「なんか残る感じ」
北斗「……」
〇〇「これでよかったのかなって」
北斗「……」
少しだけ息吐く。
北斗「……いいだろ」
〇〇「……ほんと?」
北斗「中途半端にするよりは」
〇〇「……うん」
北斗「ちゃんと考えて出した答えなら、それでいい」
〇〇「……」
少しだけ驚いた顔。
〇〇「……優しいじゃん」
北斗「普通」
〇〇「さっきからそればっか」
北斗「事実」
〇〇「……ありがと」
小さく。
北斗「……」
返さない。
でも否定もしない。
少しだけ沈黙。
〇〇、ゆっくり後ろにもたれる。
そのまま—
コトッ
北斗の肩に、軽く頭乗る。
北斗「……おい」
〇〇「……ちょっとだけ」
北斗「重い」
〇〇「うそ」
北斗「……」
どかさない。
〇〇「……なんか疲れた」
北斗「だろうな」
〇〇「朝からずっと変な感じだったし」
北斗「……」
〇〇「でも終わった」
北斗「……ああ」
〇〇「……すっきりした」
北斗「……ならいい」
そのまま動かない。
〇〇の髪、少しだけ肩に触れてる。
距離、近いまま。
北斗「……」
少しだけ視線落とす。
でも—
何もしない。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「今日さ」
北斗「……」
〇〇「いてくれてありがと」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
北斗「……別に」
〇〇「それでも」
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……どういたしまして」
〇〇「……めずらし」
北斗「うるせえ」
〇〇「ふふ」
少しだけ笑う。
〇〇はそのまま北斗の肩に頭を預けてる。
静か。
でも—
〇〇「……」
ぽろ、
一滴、落ちる。
北斗「……」
気づく。
でもすぐには何も言わない。
〇〇「……」
もう一滴。
止めようとしてるのに、
勝手に出てくる。
北斗「……泣いてんのか」
〇〇「……泣いてない」
少しだけ鼻にかかった声。
北斗「……無理あんな」
〇〇「……」
小さく息吸う。
〇〇「……なんかさ」
北斗「……」
〇〇「変な感じ」
北斗「何が」
〇〇「ちゃんと好きじゃなかったのに」
北斗「……」
〇〇「でもさ」
少しだけ言葉が揺れる。
〇〇「一緒にいた時間とか思い出すと」
〇〇「……ちょっとだけ、寂しい」
北斗「……」
〇〇「変だよね」
北斗「……別に」
〇〇「……」
涙、また落ちる。
〇〇「ちゃんと好きじゃなかったのに」
〇〇「でも、ちょっとは好きだったんだなって」
北斗「……」
〇〇「ときめいてたし」
〇〇「楽しかったし」
〇〇「優しかったし」
声が少しだけ震える。
〇〇「……なのに断っちゃった」
北斗「……」
〇〇「これでよかったのかなって」
北斗「……」
少しだけ息吐く。
北斗「……それでも断ったんだろ」
〇〇「……うん」
北斗「じゃあそれでいい」
〇〇「……」
〇〇「でもさ」
北斗「何」
〇〇「ちょっとくらい引きずってもいい?」
北斗「……」
一瞬だけ間。
北斗「……勝手にしろ」
〇〇「冷たい」
北斗「普通だ」
〇〇「……」
少しだけ笑って、
また涙が落ちる。
北斗「……」
そのまま、
そっと手を伸ばす。
〇〇の頭に軽く触れる。
ぽん、
一回だけ。
〇〇「……」
少しだけ固まる。
でも嫌じゃない。
北斗「……泣くなら泣け」
〇〇「……」
〇〇「……ありがと」
小さく。
北斗「……」
それ以上は言わない。
ただ、手を引っ込めない。
〇〇はそのまま、
少しだけ北斗の肩に寄る。
〇〇「……変だよね」
北斗「何が」
〇〇「ちゃんと好きじゃないのに」
〇〇「こんななるの」
北斗「……」
少しだけ考える。
北斗「……別に変じゃねえだろ」
〇〇「……そう?」
北斗「一緒にいた時間があるなら、それなりになる」
〇〇「……」
〇〇「そっか」
小さく頷く。
〇〇「……ちょっとだけだったけど」
〇〇「ちゃんと、好きだったのかも」
北斗「……」
その言葉、
静かに受け止める。
北斗「……なら、それでいいだろ」
〇〇「……うん」
また涙が落ちる。
でもさっきより少しだけ穏やか。
北斗「……」
視線を前に向けたまま、
ぽん、
もう一回だけ、軽く頭に触れる。
〇〇「……」
何も言わない。
でも—
少しだけ、力が抜ける。
静かな部屋。
泣いてる音も、
呼吸も、
全部そのまま流れていく。
北斗は何も言わない。
ただ隣にいて、
離れないだけ。
それだけなのに—
〇〇の涙、
少しずつ落ち着いていく。
まだ少しだけ涙の余韻が残ってる〇〇。
ぽつり。
〇〇「……私の王子様、いつ現れるのかな」
静かに落ちる一言。
北斗「……」
一瞬だけ、止まる。
でもすぐに顔は変えない。
北斗「……知らねえよ」
いつも通り。
〇〇「冷た」
北斗「普通だ」
〇〇「……」
少しだけ笑う。
でもその笑い、少し弱い。
〇〇「でもさ」
北斗「……」
〇〇「ちゃんと好きって思えて」
〇〇「ちゃんと一緒にいたいって思える人」
〇〇「そういう人がいいな」
北斗「……」
静かに聞いてる。
〇〇「一緒にいて落ち着く人」
〇〇「今日みたいな日を、普通に過ごせる人」
北斗「……」
その言葉に、ほんの一瞬だけ視線が揺れる。
〇〇「……どこにいるんだろ」
北斗「……」
少しだけ息吐く。
北斗「……そのうちだろ」
〇〇「雑」
北斗「事実」
〇〇「……」
少しだけ間。
北斗「……焦んな」
〇〇「……焦ってない」
北斗「嘘つけ」
〇〇「ちょっとだけ」
北斗「だろうな」
〇〇「……」
また少しだけ静か。
北斗「……」
視線を前に向けたまま、ぽつり。
北斗「……ちゃんと来るだろ」
〇〇「……ほんと?」
北斗「来なかったら困るだろ」
〇〇「それはそう」
北斗「……だから来る」
〇〇「なにその理論」
北斗「知らねえよ」
〇〇「ふふ」
少しだけ、ちゃんとした笑い。
北斗「……」
一瞬だけ横を見る。
北斗「……多分」
〇〇「なに」
北斗「気づいてねえだけだろ」
〇〇「え?」
北斗「そういうの」
〇〇「……どういうこと」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……なんでもねえ」
〇〇「気になるんだけど」
北斗「気にすんな」
〇〇「する」
北斗「するな」
〇〇「する」
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……そのうち分かる」
〇〇「またそれ」
北斗「うるせえ」
〇〇「ふふ」
でもそのあと、
〇〇は少しだけ北斗の肩に寄る。
〇〇「……じゃあさ」
北斗「何」
〇〇「現れるまで、ここいていい?」
北斗「……は?」
〇〇「だって安全だし」
北斗「理由そっちかよ」
〇〇「大事でしょ」
北斗「……まあな」
〇〇「ね?」
北斗「……好きにしろ」
〇〇「やった」
少しだけ安心した声。
北斗「……」
何も言わない。
でも—
追い出さない。
〇〇「……ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「ありがとう」
北斗「……何が」
〇〇「今日」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……別に」
〇〇「……あーあ」
ゆっくり立ち上がる。
〇〇「チャンス逃しちゃった」
北斗「……」
〇〇「やっぱ私、恋愛向いてないよね」
小さく笑う。
でも少しだけ寂しそう。
北斗「……」
その背中を見る。
一瞬だけ迷って、
でも—
すっと立ち上がる。
後ろから、
ぎゅっと腕を回す。
〇〇「……え」
完全に不意。
〇〇「……なに」
北斗「……」
顔は見えない位置。
でも腕、離さない。
北斗「……向いてねえとか、勝手に決めんな」
〇〇「……」
〇〇「でもさ」
北斗「……」
〇〇「今回もダメだったし」
北斗「ダメじゃねえだろ」
〇〇「え?」
北斗「ちゃんと考えて出した答えだろ」
〇〇「……うん」
北斗「じゃあそれでいい」
〇〇「……」
少しだけ力抜ける。
でも—
〇〇「……でもさ」
北斗「何」
〇〇「やっぱちょっと寂しい」
北斗「……」
腕に、少しだけ力入る。
北斗「……なら寂しいって言っとけ」
〇〇「言ってる」
北斗「……」
〇〇「今」
北斗「……ああ」
短く。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「離していいよ」
北斗「……」
一瞬だけ止まる。
でもすぐには離さない。
北斗「……もうちょい」
〇〇「……」
〇〇「なにそれ」
北斗「……別に」
〇〇「変なの」
小さく笑う。
でも—
嫌がらない。
そのまま少しだけ時間が流れる。
〇〇「……あったかい」
北斗「……」
北斗「風呂上がりだからな」
〇〇「そういうことにしとく」
北斗「それでいい」
〇〇「……」
少しだけ静か。
〇〇「……ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「ほんとにさ」
北斗「……」
〇〇「いつかちゃんと好きになれるかな」
北斗「……」
少しだけ息を吐く。
北斗「……なるだろ」
〇〇「……ほんと?」
北斗「……なる」
〇〇「なんでそんな言い切れるの」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……お前だから」
〇〇「……」
一瞬だけ、静かになる。
でも—
〇〇は深く考えない。
〇〇「……そっか」
小さく頷く。
〇〇「じゃあちょっと安心」
北斗「……」
その言葉に、
ほんの少しだけ力が緩む。
でも腕はまだ離さない。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「もういいよ」
北斗「……」
少しだけ間。
それから、ゆっくり腕を離す。
〇〇「……ありがと」
北斗「……別に」
〇〇はそのまま振り返る。
距離、さっきより近い。
〇〇「なんか元気出た」
北斗「……ならいい」
〇〇「うん」
少しだけ笑う。
さっきまでより、ちゃんとした笑顔。
でも—
北斗は少しだけ視線を逸らす。
さっきの距離、
まだ少し残ってるみたいに。
ーーー
北斗side
〇〇「歯磨きしてくる」
北斗「……おう」
ぱたぱたと離れていく足音。
ドアが閉まる音。
静かになる。
北斗「……」
そのままソファに座ったまま。
さっきの感触、
腕に少し残ってる。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……何やってんだよ」
自分に小さく。
後ろから抱きしめたこと、
思い返す。
北斗「……」
頭を軽くかく。
北斗「……やりすぎだろ」
でも—
嫌がってなかった。
北斗「……」
さっきの〇〇の声。
“あったかい”
“安心した”
頭に残る。
北斗「……」
ソファにもたれ直す。
視線、天井。
北斗「……王子様、ね」
小さく呟く。
北斗「……」
少しだけ苦笑する。
北斗「……気づくわけねえよな」
ぼそっと。
手を軽く握る。
さっき触れてた場所。
北斗「……」
“恋愛向いてないよね”
その言葉、引っかかる。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……向いてねえのは俺だろ」
ぽつり。
そのまま目を閉じる。
でも眠くはない。
ただ—
考えが止まらない。
北斗「……」
洗面所の方から、
水の音。
〇〇がいるって分かる音。
北斗「……」
少しだけ安心する。
北斗「……ほんと」
小さく。
北斗「……どこも行かねえよ」
誰にも聞こえない声。
そのまま、動かない。
ただ静かに、
戻ってくるのを待ってる。
ーー
〇〇「ただいまー」
北斗「……おう」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「アイス食べたい」
北斗「……は?」
〇〇「歯磨きしたけど」
北斗「した意味」
〇〇「今から食べればいいじゃん」
北斗「よくねえ」
〇〇「いいの」
北斗「よくねえって」
〇〇「ねえある?」
北斗「知らねえよ」
〇〇「見てくる」
そのままキッチンへ。
冷蔵庫、開ける。
〇〇「……」
〇〇「……ない」
北斗「……だろうな」
〇〇「なんで」
北斗「お前が食ったからだろ」
〇〇「え」
北斗「昨日も一昨日も食ってた」
〇〇「……あ」
北斗「全部お前」
〇〇「……」
少しだけ固まる。
〇〇「……やらかした」
北斗「だろうな」
〇〇「食べたいのに」
北斗「知らねえよ」
〇〇「買いに行く?」
北斗「今何時だと思ってんだ」
〇〇「……夜」
北斗「雑すぎる」
〇〇「じゃあどうするの」
北斗「我慢」
〇〇「やだ」
北斗「子どもか」
〇〇「食べたい」
北斗「無理」
〇〇「……」
ちょっと考える。
〇〇「じゃあさ」
北斗「何」
〇〇「北斗なんとかして」
北斗「なんとかって何だよ」
〇〇「アイス的な何か」
北斗「そんなもんねえ」
〇〇「えー」
北斗「諦めろ」
〇〇「……」
しょんぼり。
そのまま戻ってくる。
〇〇「……食べたかった」
北斗「知るか」
〇〇「絶対おいしい気分だったのに」
北斗「気分で食うな」
〇〇「食べるでしょ普通」
北斗「普通じゃねえ」
〇〇「……」
ソファに座る。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「甘いの欲しい」
北斗「さっきラーメン食っただろ」
〇〇「それはそれ」
北斗「意味わかんねえ」
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「コンビニ」
北斗「行かねえ」
〇〇「なんで」
北斗「危ねえから」
〇〇「……」
少しだけ現実に戻る。
〇〇「……そっか」
北斗「……」
〇〇「じゃあ我慢する」
北斗「最初からそうしろ」
〇〇「でもさ」
北斗「何」
〇〇「余計食べたくなるやつ」
北斗「知らねえよ」
〇〇「……」
少しだけ黙る。
〇〇「……ねえ」
北斗「何」
〇〇「ほんとにない?」
北斗「ない」
〇〇「……」
じっと見る。
北斗「見んな」
〇〇「絶対隠してる」
北斗「隠してねえ」
〇〇「ほんと?」
北斗「ほんと」
〇〇「……」
少しだけ間。
〇〇「……じゃあいい」
北斗「分かればいい」
〇〇「……」
でも—
〇〇「……食べたい」
北斗「まだ言うか」
〇〇「だって」
北斗「寝ろ」
〇〇「えー」
北斗「もう23時過ぎてる」
〇〇「……」
しぶしぶ立ち上がる。
〇〇「……アイスの夢見る」
北斗「知らねえよ」
〇〇「絶対チョコ」
北斗「どうでもいい」
〇〇「……おやすみ」
北斗「おう」
〇〇「北斗もちゃんと寝てね」
北斗「分かってる」
〇〇「夜中起きないでよ」
北斗「お前じゃねえんだから」
〇〇「ひど」
少しだけ笑う。
〇〇「じゃあ寝る」
北斗「おう」
そのまま部屋へ向かう。
北斗「……」
一人残る。
北斗「……アイスか」
小さく呟く。
北斗「……今度買っとくか」
ぼそっと。
誰にも聞こえない声。
北斗「……」
スマホを開く。
通知、いくつか溜まってる。
マネージャーからの連絡。
明日のスケジュール。
確認事項。
北斗「……」
スクロールしながら目を通す。
北斗「……了解」
短く返信。
他も一つずつ処理していく。
でも—
完全に集中はできてない。
さっきのことが、少し残ってる。
北斗「……」
一瞬だけ手が止まる。
“恋愛向いてないよね”
“王子様いつ現れるのかな”
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……ほんと」
ぽつり。
北斗「……気づけよ」
自分でも何言ってるか分かってる。
でもそれ以上は何も言わない。
スマホを閉じる。
北斗「……寝るか」
立ち上がる。
部屋の電気を少し落として、
静かな廊下を歩く。
ドアを開ける。
〇〇はもう寝てる。
規則正しい寝息。
北斗「……」
少しだけ安心する。
起こさないように、静かに入る。
ベッドの反対側へ回る。
そっと潜り込む。
マットレスが少し沈む。
〇〇「……ん」
少しだけ動く。
北斗「……悪い」
小さく。
〇〇はそのまままた静かになる。
北斗「……」
天井を見る。
暗い中、隣にいる気配だけ分かる。
近い。
北斗「……」
目を閉じる。
でもすぐには寝れない。
さっきの涙も、
笑った顔も、
全部浮かぶ。
北斗「……」
小さく息吐く。
北斗「……おやすみ」
聞こえないくらいの声。
そのまま静かに、
目を閉じたまま動かない。
隣にいる安心感と、
言えない感情を抱えたまま。
北斗「……」
眠りに落ちる。
——
気づいたら、外。
明るい。
昼間みたいな光。
〇〇が前を歩いてる。
北斗「……おい」
声をかける。
〇〇、振り返る。
〇〇「北斗」
普通に笑う。
北斗「……どこ行くんだよ」
〇〇「え?」
〇〇「デート」
北斗「……は?」
〇〇「今日、約束してたじゃん」
北斗「……誰と」
〇〇「嶺亜くん」
その名前で、空気が少し変わる。
北斗「……」
横を見ると、
少し先に嶺亜が立ってる。
〇〇に手を振る。
〇〇「ごめんね、北斗」
北斗「……何が」
〇〇「今日、一緒にいれない」
北斗「……」
〇〇「行ってくるね」
そのまま、嶺亜の方へ行く。
北斗「……おい」
声、届かない。
手を伸ばす。
でも—
届かない。
〇〇、嶺亜の隣に立つ。
自然に並ぶ。
嶺亜が〇〇の手を取る。
〇〇、少し照れながら笑う。
北斗「……」
動けない。
足が重い。
二人が歩き出す。
どんどん離れていく。
北斗「……待てよ」
声、出てるのに、
全然届かない。
北斗「……〇〇」
そのまま背中が小さくなる。
北斗「……」
胸の奥、ぎゅっと締まる。
何もできないまま、
ただ見てるだけ。
北斗「……くそ」
その瞬間、
——
北斗「……っ」
目が覚める。
暗い部屋。
静か。
北斗「……は」
息が少し荒い。
現実に戻る。
隣。
〇〇、ちゃんといる。
静かに寝てる。
北斗「……」
数秒、動けない。
さっきの光景が残ってる。
北斗「……夢かよ」
小さく呟く。
北斗「……最悪」
息吐く。
手で顔覆う。
北斗「……」
横を見る。
〇〇の寝顔。
変わらない。
ここにいる。
北斗「……」
少しだけ力が抜ける。
でも—
胸のざわつきは、消えない。
北斗「……」
視線を外して、天井を見る。
北斗「……ほんと」
ぽつり。
北斗「……取られたくねえな」
誰にも聞こえない声。
そのまま、もう一度目を閉じる。
今度は、さっきより深く眠るために。
ーー
〇〇「……」
静かに眠る中で、
——
気づいたら、夜。
見慣れた街。
少し冷たい風。
〇〇「……あれ」
振り返る。
そこにいる。
廉「〇〇」
いつもの声。
〇〇「……廉」
少しだけ止まる。
廉「久しぶり」
〇〇「……うん」
近づいてくる。
距離が、昔と同じくらい近い。
〇〇「なんでここにいるの」
廉「なんでやろな」
少し笑う。
廉「でも会いたかった」
〇〇「……」
その言葉、まっすぐ来る。
〇〇「……私も」
気づいたら言ってる。
廉「……そっか」
少しだけ安心した顔。
〇〇「……元気だった?」
廉「ぼちぼち」
〇〇「そっか」
少しだけ沈黙。
でも気まずくない。
昔みたいな空気。
廉「なあ」
〇〇「なに」
廉「まだ、無理?」
〇〇「……」
その一言で、少しだけ時間が止まる。
〇〇「……何が」
廉「分かってるやろ」
〇〇「……」
視線、少し落ちる。
廉「俺はさ」
〇〇「……」
廉「まだ好きやで」
〇〇「……」
心臓が少しだけ強く鳴る。
廉「今でも」
〇〇「……」
言葉が出ない。
廉「お前は?」
〇〇「……」
少しだけ苦しくなる。
〇〇「……分かんない」
正直に出る。
廉「そっか」
でも責めない。
廉「でもさ」
〇〇「……」
廉「分かるまで待つんも、もうしんどい」
〇〇「……」
胸が少しだけ締まる。
廉「だから聞く」
〇〇「……」
廉「戻る?」
まっすぐ。
逃げ場のない言葉。
〇〇「……」
頭の中に、色々浮かぶ。
一緒にいた時間。
笑ったこと。
別れた日。
〇〇「……」
その中に、
今日の北斗も少し混ざる。
〇〇「……」
〇〇「……ごめん」
小さく。
廉「……」
少しだけ間。
廉「そっか」
それだけ。
でも—
目、少しだけ寂しそう。
〇〇「……」
〇〇「嫌いになったわけじゃないよ」
廉「分かってる」
〇〇「……」
廉「でも、それやと戻られへんやろ」
〇〇「……うん」
廉「……そっか」
少し笑う。
でもその笑い、少し無理してる。
廉「最後にさ」
〇〇「……」
廉「一回だけ、ええ?」
〇〇「……なに」
廉、少しだけ近づく。
距離が一気に縮まる。
〇〇「……」
動けない。
廉「これで終わりにするから」
〇〇「……」
言葉が出ないまま、
廉の手が、そっと頬に触れる。
そのまま——
顔、近づく。
〇〇「……」
目、閉じかける。
でもその瞬間、
——
〇〇「……っ」
目が覚める。
暗い部屋。
静か。
〇〇「……」
少しだけ息が乱れる。
胸がまだドキドキしてる。
〇〇「……夢」
ぽつり。
隣に、気配。
北斗がいる。
〇〇「……」
安心する。
でも—
さっきの感触、
言葉、
全部残ってる。
〇〇「……」
小さく息吐く。
〇〇「……なんで今」
呟く。
答えはないまま。
でも—
少しだけ、
気持ちが揺れたまま。
ーーーーー
☀️〇〇「ねえ北斗」
北斗「……何」
〇〇「夢見た」
北斗「……」
〇〇「廉出てきた」
北斗「……そうか」
短く。
〇〇「普通に会っててさ」
〇〇「久しぶりって」
〇〇「なんか前みたいに喋ってた」
北斗「……」
何も言わず聞く。
〇〇「でね」
少しだけ間。
〇〇「キスしそうになったとこで目覚めた」
北斗「……」
空気が一瞬止まる。
北斗「……タイミング悪いな」
〇〇「ほんとに」
少しだけ笑うけど、
すぐ静かになる。
〇〇「でもさ」
〇〇「その瞬間、普通に受け入れてた」
北斗「……」
〇〇「嫌じゃなかった」
〇〇「むしろ、自然で」
北斗「……」
〇〇「……まだ好きなんだと思う」
はっきり言う。
北斗「……」
一瞬だけ視線が揺れる。
〇〇「多分、向こうも」
北斗「……」
〇〇「なんとなくだけど」
〇〇「分かるじゃん」
北斗「……ああ」
小さく。
〇〇「だからさ」
〇〇「戻れる気もする」
北斗「……」
〇〇「でも」
そこで止まる。
北斗「……でも?」
〇〇「怖い」
北斗「……」
〇〇「また同じことになったらどうしようって」
〇〇「仕事もあるし」
〇〇「タイミングも、環境も」
〇〇「前と全然違うし」
北斗「……」
〇〇「好きだけじゃ無理って、一回分かっちゃったから」
静かに言う。
北斗「……」
少しだけ目を閉じる。
〇〇「戻りたい気持ちはあるのに」
〇〇「踏み出すのが怖い」
北斗「……」
〇〇「変だよね」
北斗「……普通だろ」
〇〇「そう?」
北斗「一回終わってるならなおさらだ」
〇〇「……」
〇〇「北斗ならどうする?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……戻りたいなら戻ればいいだろ」
〇〇「そんな簡単?」
北斗「簡単じゃねえけど」
〇〇「……」
北斗「怖いのは分かるけど」
北斗「それで動かねえなら」
北斗「多分ずっとそのままだぞ」
〇〇「……」
その言葉が少し刺さる。
〇〇「でもさ」
〇〇「壊れたら嫌なんだよ」
北斗「……」
〇〇「今ならまだ」
〇〇「いい思い出でいられるじゃん」
北斗「……」
北斗、少しだけ視線落とす。
北斗「……逃げだな」
〇〇「え」
北斗「壊れるのが怖いから動かねえだけだろ」
〇〇「……」
図星。
〇〇「……そうかも」
北斗「……」
〇〇「でもさ」
〇〇「それでも怖いものは怖い」
北斗「……」
〇〇「だって」
〇〇「またちゃんと好きになるのも怖いし」
〇〇「また失うのも怖い」
北斗「……」
静かに聞く。
〇〇「ねえ」
北斗「何」
〇〇「どうしたらいいと思う?」
北斗「……」
少しだけ間。
北斗「……自分で決めろ」
〇〇「丸投げ」
北斗「人に決められるもんじゃねえだろ」
〇〇「……」
少しだけ笑う。
〇〇「でもさ」
〇〇「聞いてほしかっただけかも」
北斗「……」
〇〇「こういうの」
〇〇「誰かに言わないと整理できない」
北斗「……」
北斗、少しだけ息を吐く。
北斗「……なら」
〇〇「ん?」
北斗「怖いままでいいだろ」
〇〇「……え?」
北斗「無理に決めなくていい」
〇〇「……」
北斗「好きなのも」
北斗「戻りたいのも」
北斗「怖いのも」
北斗「全部そのままで」
〇〇「……」
北斗「そのうちどっちかに傾くだろ」
〇〇「……」
少しだけ目が揺れる。
〇〇「……そっか」
北斗「……」
〇〇「なんかさ」
〇〇「ちょっと楽になった」
北斗「……そうかよ」
〇〇「うん」
小さく笑う。
〇〇「ねえ北斗」
北斗「何」
〇〇「ありがと」
北斗「何が」
〇〇「ちゃんと聞いてくれて」
北斗「……別に」
短く。
でも—
〇〇「……もうちょっと考える」
北斗「好きにしろ」
〇〇「うん」
静かな朝。
でも—
〇〇の中ではまだ揺れてる。
戻りたい気持ちと、
怖さと、
まだ消えてない“好き”が、
そのまま混ざったまま。
ーーーーーーーーー
タイムレスの会議が朝からあった。
〇〇side
昼過ぎ。
会議が終わって、少しだけ時間ができた。
何をするでもなく廊下を歩いていたら、足が自然に止まる。
前から来た人。
廉。
〇〇「……廉」
廉「〇〇」
目が合う。
一瞬だけ、空気が止まる。
廉「久しぶりやな」
〇〇「うん……仕事で来てる」
廉「そっか」
軽く頷くけど、それ以上は踏み込んでこない。
その距離感が、逆に苦しい。
〇〇「あのさ」
廉「ん」
〇〇「この前の返事……ちゃんと話したくて」
廉「……うん」
廉の声は落ち着いてる。
でも、ちゃんと待ってるのが分かる。
〇〇「私ね」
一度、言葉を切る。
〇〇「廉のこと、今でも好きだと思う」
廉「……」
ほんの少しだけ目が揺れる。
〇〇「でも」
そこから先が、どうしても重い。
〇〇「戻るのが怖い」
廉「……」
〇〇「また同じことになるかもしれないって思っちゃう」
〇〇「今の仕事も、環境も、全部あって」
〇〇「好きだけじゃどうにもならなかったのも分かってるから」
廉は何も言わない。
ただ、聞いてる。
〇〇「戻りたい気持ちはある」
〇〇「でも進むのが怖い」
廉「……そっか」
短い返事。
でも責める感じは一切ない。
廉「ちゃんと正直やな」
〇〇「ごめん」
廉「謝らんでええよ」
少しだけ笑う。
その笑いが、優しいのに少しだけ切ない。
廉「好きって言われたのは、普通に嬉しい」
廉「でも怖いってのも、分かる」
〇〇「……うん」
廉「どっちも本音やろ?」
〇〇「うん……」
廉は少しだけ視線を落とす。
廉「ほな、今すぐ答え出さんでもええ」
〇〇「え?」
廉「無理に決めても、後でしんどくなるだけや」
〇〇「……」
廉「好きなままでもええし、怖いままでもええ」
廉「そのままでええよ」
その言葉に、胸の奥が少しだけほどける。
〇〇「でも……」
廉「でも、は今はいらん」
少しだけ笑って、軽く言う。
廉「いつかちゃんと、自分で決めたらそれでええ」
〇〇「……うん」
廉「俺はそれ待つだけやから」
その言葉は、優しいのに重い。
でも押しつけじゃない。
廉「ほな、またな」
〇〇「うん……また」
廉が歩き出す。
背中が少しずつ遠くなる。
〇〇はその場に残ったまま、
何も言えずに立ち尽くす。
好き。
まだちゃんと残ってる。
でも怖い。
そのどっちも消えないまま、
心の中で静かに揺れ続けている。
廉の背中が少し遠ざかる。
このまま終わるんだろうなって、どこかで思いかけた瞬間——
廉が、立ち止まる。
そして振り返った。
廉「……〇〇」
〇〇「……何?」
廉は一瞬だけ言葉を選ぶみたいに黙る。
廉「噂、聞いた?」
〇〇「噂?」
嫌な予感が少しだけ胸をよぎる。
廉「ジュニアの子……嶺亜くん」
〇〇「……あ」
廉「〇〇ちゃん、振ったって」
空気が少しだけ重くなる。
〇〇「……うん」
廉は驚いた顔はしない。
ただ、少しだけ目が細くなる。
廉「そうなんや」
〇〇「うん……仕事とか色々考えて」
廉「そっか」
短く頷く。
でも、そのあとすぐに視線を外す。
廉「そりゃ噂になるわな」
〇〇「……そうだね」
廉「真剣やったんやろ?」
〇〇「……ちゃんと向き合ってくれてたと思う」
廉「ほな、ちゃんと悩んだんやな」
その言葉が、少しだけ刺さる。
〇〇「……うん」
廉は少しだけ息を吐く。
廉「〇〇、そういうとこ変わらんな」
〇〇「え?」
廉「ちゃんと考えすぎるとこ」
〇〇「……それ、褒めてる?」
廉「褒めてる」
少しだけ笑う。
でもその笑いの奥は、どこか複雑だった。
廉「まぁ……正解やと思うよ」
〇〇「正解?」
廉「その選択が」
廉は軽く頷く。
廉「今の〇〇にはそれが一番やったんやろ」
〇〇「……」
その言葉が、少しだけ重く残る。
廉「でもな」
そこで一瞬止まる。
廉「その分、余計に怖くなってるんちゃう?」
〇〇「……」
図星だった。
返事ができない。
廉はそれ以上追い込まない。
ただ少しだけ視線を柔らかくする。
廉「まぁええわ」
廉「今それ聞いても仕方ないしな」
〇〇「廉……」
廉「ん?」
〇〇「ごめん」
廉「なんで謝るん」
〇〇「……」
うまく言葉が出ない。
廉は少しだけ肩をすくめる。
廉「別に怒ってへんよ」
廉「むしろちゃんと話してくれてよかった」
少しだけ間。
廉「ほな、ほんまに行くわ」
〇〇「うん」
廉は今度こそ背を向ける。
でも——
もう一度だけ、振り返らずに声だけ落とす。
廉「ちゃんと自分で決めろよ」
それだけ言って、歩いていく。
〇〇はその場に残る。
その場に残された静けさが、やけに長く感じる。
廉の足音はもう聞こえないのに、
気配だけがまだ残ってるみたいで——
〇〇「……ちゃんと自分で決めろ、か」
小さく呟く。
わかってる。
わかってるけど、
〇〇「……簡単に言わないで」
少しだけ笑ってしまう。
でもその笑いはすぐ消える。
胸の奥に残ってるのは、
さっきよりもはっきりした感情。
好き。
でも——怖い。
その二つが、
前よりも強く絡まってる。
足を一歩踏み出す。
帰らなきゃいけないのに、
なぜかすぐには動けない。
さっきの会話を、
何度も巻き戻す。
「好きなままでもええし、怖いままでもええ」
「そのままでええよ」
あの言い方。
押しつけじゃなくて、
逃げ道もくれてるのに、
〇〇「……ずるい」
ぽつり。
あんな言い方されたら、
余計に離れられなくなる。
自販機の前で立ち止まる。
何か飲もうと思ったのに、
ボタンを押す気になれない。
そのまま、壁にもたれる。
〇〇「……私、どうしたいんだろ」
誰にも聞こえない声。
考えれば考えるほど、
答えが遠くなる。
でも——
さっきの廉の顔が浮かぶ。
真っ直ぐで、
逃げない目。
〇〇「……待つって言ったよね」
あの時も。
さっきも。
変わらず同じことを言う。
それが嬉しいのか、
怖いのか、
もうわからない。
ポケットのスマホが震える。
画面を見ると、
廉からのメッセージ。
一瞬、指が止まる。
でも開く。
「無理に答え出さんでええからな」
短い一文。
さっきと同じ温度。
そのあとに続く。
「でも逃げるなとは言わんけど」
「逃げたって、俺は待ってる」
〇〇「……ほんとにずるい」
思わず息が漏れる。
責めてないのに、
逃げ場もあるのに、
結局、
どこにも逃げられない。
既読をつけるか迷って、
少しだけ時間が経つ。
そのまま、
ゆっくり打ち込む。
「……ありがと」
送信。
すぐ既読がつく。
でも返事はこない。
それが逆に、
廉らしくて——
〇〇は小さく息を吐く。
〇〇「……ちゃんと決めろ、ね」
視線を上げる。
さっきまでぼやけてた廊下が、
少しだけはっきり見える。
答えはまだ出ない。
でも、
逃げるかどうかも、
進むかどうかも、
全部、自分で選ぶしかない。
〇〇「……もうちょいだけ、考えさせて」
誰に向けたのかもわからないまま、
今度こそ、
ゆっくり歩き出した。
それから仕事に集中した。
ーー
夜21:00。
マネの車の中。
窓の外、ネオンが流れていく。
信号で止まるたびに、
現実に引き戻される感じ。
マネ「今日長かったなー」
〇〇「ほんとね」
軽く返すけど、
頭の中は全然別のことでいっぱい。
スマホ、ずっと手の中。
画面つけて、
消して、
またつけて。
廉とのトーク。
最後は「ありがと」で止まったまま。
(……来ない)
わかってたけど、
ちょっとだけ期待してた。
マネ「珍しく静かじゃん」
〇〇「そう?」
マネ「いつもならもうちょい喋る」
〇〇「疲れてんのかも」
マネ「ほんとか〜?」
ちらっとこっち見る視線。
〇〇「ほんとだって」
少し笑ってごまかす。
でもすぐまた沈黙。
ウインカーの音だけが規則的に響く。
(……何してんだろ、今)
考えた瞬間、
自分で呆れる。
〇〇「……はぁ」
マネ「ため息出てるけど」
〇〇「出てた?」
マネ「出てた」
ちょっと間。
マネ「なんかあった?」
〇〇「……別に」
即答。
でも、
マネ「“別に”の時はだいたいあるやつ」
〇〇「うるさい」
マネ「図星か」
〇〇「違うし」
少しだけ笑う。
けど長くは続かない。
マネもそれ以上は突っ込まない。
マネ「ま、いいけど。明日早いし今日は早く寝な」
〇〇「りょーかい」
車がゆっくり止まる。
マネ「着いた」
〇〇「ありがと」
シートベルト外して、
ドア開ける。
夜の空気、ちょっと冷たい。
〇〇「じゃあね」
マネ「おつかれー」
ドア閉めると、
一気に静かになる。
車が離れていく音を、
ぼんやり聞きながら立ち尽くす。
〇〇「……帰るか」
鍵開けて、
部屋に入る。
電気つける。
いつも通りの景色。
なのに落ち着かない。
バッグ置いて、
そのままソファに座る。
またスマホ。
同じ画面。
同じ既読。
〇〇「……」
指が勝手に動く。
「今なにしてる?」
——打って、止まる。
〇〇「……違う」
消す。
「ちょっと話したい」
——これも違う。
消す。
〇〇「……なに送りたいの、私」
わからない。
ほんとに。
“好き”も、
“会いたい”も、
どっちも中途半端で、
どっちも言えない。
〇〇「……はぁ」
スマホをソファに置いて、
そのまま倒れる。
天井を見つめる。
「好きなままでもええし、怖いままでもええ」
また思い出す。
〇〇「……ずるいって」
ぽつり。
優しいのに、
逃げ場があるのに、
結局、
一番向き合わされてる。
(……待つ、って言ったよね)
その言葉に、
甘えたくなる自分がいる。
でも——
〇〇「……それでいいのかな」
小さく呟く。
誰もいない部屋に、
声だけ落ちる。
好き。
でも怖い。
そのまま、
何も決めないままでもいいって言われたのに、
逆に、
決めなきゃいけない気がしてくる。
〇〇「……どうしたいんだろ」
目を閉じる。
浮かぶのは、
廉の顔ばっかりで——
〇〇はそのまま、
動けなくなった。
そのとき——
ガチャ、
玄関の音。
〇〇「……え」
体を起こす。
足音が近づいてくる。
北斗「ただいま」
〇〇「……おかえり」
リビングに入ってきた北斗は、
少し疲れた顔してるけど、
いつも通りの空気。
北斗「帰ってたんだ」
〇〇「うん、さっき」
北斗「そっか」
それだけ言って、
荷物を置く。
少しの沈黙。
北斗「飯は?」
〇〇「まだ」
北斗「なんで」
〇〇「なんかいいやって」
北斗「よくないだろ」
即答。
〇〇「お腹空いてないし」
北斗「嘘」
〇〇「なんでわかるの」
北斗「顔に出てる」
〇〇「……」
図星。
北斗は軽くため息ついて、
キッチンの方へ行く。
〇〇「なにしてんの」
北斗「なんか作る」
〇〇「いいよ別に」
北斗「よくない」
振り返らずに言う。
少しだけ強め。
〇〇「……」
水の音、冷蔵庫の音。
静かな部屋に響く。
〇〇「……ねぇ」
北斗「んー?」
手は止めない。
〇〇「今日さ、廉と話した」
一瞬だけ動きが止まる。
でもすぐ戻る。
北斗「だろうな」
〇〇「見てた?」
北斗「途中から」
〇〇「……そっか」
少し間。
〇〇「私、どうしたらいいと思う?」
北斗「……それ俺に聞く?」
〇〇「聞きたい」
北斗「……」
少しだけ考えて、
北斗「決めなくていいんじゃね」
〇〇「え」
北斗「今すぐは」
〇〇「……」
北斗「無理に決める必要ないだろ」
〇〇「でも」
北斗「でもはいらない」
少しだけ強く言う。
北斗「中途半端な答え出す方が後悔する」
〇〇「……」
北斗「そのままでいいよ」
〇〇「……それでいいのかな」
北斗「いい」
迷いなく返ってくる。
北斗「少なくとも今は」
〇〇「……」
さっき廉に言われた言葉と似てるのに、
少しだけ違う。
北斗はまた手を動かす。
北斗「あと」
〇〇「なに」
北斗「ちゃんと飯食え」
〇〇「……はい」
少しだけ力が抜ける。
北斗「すぐできる」
〇〇「ありがと」
ソファに座り直す。
キッチンの音を聞きながら、
ゆっくり息を吐く。
廉の言葉も、
北斗の言葉も、
どっちも頭に残ってる。
でも今はまだ、
どっちかを選ぶとかじゃなくて、
ただ——
考える時間が、
少しだけ増えただけだった。
ーー
〇〇side
ソファに横になったまま、気づいたら少しだけ眠ってた。
ぼんやり目を開ける。
部屋の電気はそのまま、
テレビもついてない静かな空間。
〇〇「……寝てた」
体を起こして、軽く伸びる。
キッチンは片付いてて、
北斗の姿は見えない。
——シャー……
水の音。
〇〇「……あ、お風呂か」
少しだけ頭がぼーっとしたまま立ち上がる。
〇〇「私も入ろ」
部屋に戻って、
適当に服と下着を用意する。
まだ眠気が残ってて、
動きがちょっとゆっくり。
〇〇「お湯溜めなきゃ……」
そのまま風呂場へ。
何も考えずに、
ガチャッ——
ドアを思いっきり開ける。
湯気。
そして、
北斗「……は?」
〇〇「……え」
一瞬、時間が止まる。
浴槽に浸かってる北斗と目が合う。
〇〇「——ごめん!!!」
反射でバンッとドア閉める。
心臓が一気に跳ねる。
〇〇「ちょ、え、待って、いると思わなかったんだけど!」
ドア越しに焦って声が出る。
北斗「いや普通にいるだろ」
中から冷静な声。
〇〇「いやそうだけど!!」
〇〇「なんで鍵とかかけてないの!」
北斗「家でかけるか普通」
〇〇「かけてよ!!」
思わずツッコむ。
でも——
ふと冷静になる。
(……あれ?)
さっきの一瞬。
湯気と、
お湯の色。
〇〇「……入浴剤?」
北斗「そうだけど」
〇〇「……」
〇〇「……セーフだわ」
北斗「何が」
〇〇「いや別に」
ちょっとだけ息を吐く。
見えてない。
多分大丈夫。
でも心臓はまだうるさい。
北斗「てかノックくらいしろよ」
〇〇「する余裕なかったの!」
〇〇「普通いないと思うじゃん!」
北斗「思わねぇよ」
即答。
〇〇「……」
ちょっとムッとする。
〇〇「もういい」
〇〇「先入ってていいよ」
北斗「もう入ってる」
〇〇「それは知ってる」
軽く言い返す。
少し間。
〇〇「……出る時言って」
北斗「はいはい」
そのやりとりでやっと落ち着いてくる。
〇〇はそのままドアにもたれて、
〇〇「……びっくりした」
小さく呟く。
さっきまでの眠気、
完全に吹き飛んでた。
ーーーーーーーーー
北斗side
湯船に浸かりながら、やっと一息ついてた。
一日の疲れが、じわっと抜けていく感じ。
北斗「……はぁ」
天井見上げて、目を閉じる。
さっきのこと、少しだけ頭をよぎる。
廉と〇〇。
廊下での空気。
〇〇の表情。
北斗「……」
小さく息を吐く。
考えても仕方ないのに、
勝手に浮かぶ。
そのとき——
ガチャッ
勢いよくドアが開く音。
北斗「……は?」
目を開けた瞬間、
〇〇「……え」
目が合う。
一瞬で状況理解。
北斗「ちょ、」
〇〇「——ごめん!!!」
バンッ!!
ドアが閉まる。
一瞬の出来事。
静寂。
北斗「……」
数秒遅れて、
北斗「……は?」
もう一回、同じ言葉が出る。
状況を整理する。
今の、
完全に見られたか——
北斗「……いや」
ふと気づく。
湯船の色。
入浴剤。
北斗「……セーフか」
小さく呟く。
その瞬間、
〇〇「ちょ、え、待って、いると思わなかったんだけど!」
外から慌てた声。
北斗「いや普通にいるだろ」
できるだけ冷静に返す。
〇〇「いやそうだけど!!」
〇〇「なんで鍵とかかけてないの!」
北斗「家でかけるか普通」
正論。
〇〇「かけてよ!!」
北斗「……」
ちょっとだけ口元が緩む。
(慌てすぎだろ)
でもそれは言わない。
〇〇「……入浴剤?」
北斗「そうだけど」
〇〇「……セーフだわ」
北斗「何が」
〇〇「いや別に」
そのやりとりで、なんとなく察する。
北斗「……」
少しだけ安心した顔してるの、想像できる。
北斗「てかノックくらいしろよ」
〇〇「する余裕なかったの!」
〇〇「普通いないと思うじゃん!」
北斗「思わねぇよ」
即答。
そのあと少し静かになる。
〇〇「もういい」
〇〇「先入ってていいよ」
北斗「もう入ってる」
〇〇「それは知ってる」
北斗「……」
思わず少しだけ笑う。
〇〇「……出る時言って」
北斗「はいはい」
やりとりが終わる。
また静かになる浴室。
北斗は少しだけ天井を見る。
北斗「……」
さっきの一瞬がよぎる。
目が合った瞬間の〇〇。
慌てた声。
北斗「……ほんと、何やってんだか」
小さく呟く。
でも、
さっきまでより少しだけ、
頭の中の空気が変わってた。
ーーーーーーーーー
〇〇side
ドアにもたれたまま、しばらく動けなかった。
心臓がまだ落ち着かない。
〇〇「……ほんとにびっくりした」
小さく呟いて、額に手を当てる。
でも——
さっきの一瞬が、頭から離れない。
湯気の中で、
北斗がこっち見てたあの瞬間。
〇〇「……」
目、合ったよね。
ほんの一瞬なのに、
やけに鮮明に残ってる。
〇〇「……いやいや」
軽く首振る。
見えてない。
入浴剤あったし。
大丈夫、大丈夫。
そう思いながらも——
北斗が髪かきあげてたの、
思い出す。
濡れた髪を手で上げてて、
いつもと雰囲気が違ってて。
〇〇「……」
〇〇「……なんであのタイミングなの」
思わず小声でツッコむ。
普段はもっとラフなのに、
なんかああいう瞬間だけ、
ちょっと違って見えるのずるい。
〇〇「……いや、別に」
誰に言い訳してるのかもわからないまま呟く。
別に何も思ってない。
ほんとに。
ただちょっとびっくりしただけ。
〇〇「……うん」
一人で頷く。
でも、
頭のどこかに残ってる違和感。
(……なんかいつもと違った気がする)
それが何なのかは、
うまく言葉にできない。
ただ、
さっきよりちょっとだけ
落ち着かない。
〇〇「……早く出てきて」
小さく呟く。
このままドアの前にいるのも変だし、
一回離れようと思っても、
なぜかその場から動く気になれなかった。
しばらくして、水の音が止まる。
ドア越しに、
北斗「出た」
〇〇「……はーい」
できるだけ普通に返す。
少ししてドアが開いて、
北斗が出てくる。
濡れた髪のまま、
タオルで軽く拭きながら。
さっきのことを思い出しそうになって、
一瞬だけ視線が逸れる。
北斗「なに」
〇〇「いや、別に」
北斗「ならいいけど」
それ以上何も言わない。
いつも通りの距離。
〇〇「じゃあ入るね」
北斗「どうぞ」
そのまま入れ替わる。
お風呂に入って、
やっと落ち着く。
さっきのことも、
少しずつどうでもよくなってくる。
湯船に浸かりながら、
〇〇「……疲れた」
小さく息を吐く。
今日一日、
いろいろありすぎた。
廉のこと。
仕事のこと。
北斗とのやりとり。
全部混ざって、
頭が重い。
でも——
少しだけスッキリしてる自分もいる。
お風呂から上がって、
髪を乾かしてリビングに戻る。
北斗はソファでスマホ見てる。
〇〇「上がった」
北斗「ん」
短い返事。
〇〇「次入る?」
北斗「もう入っただろ」
〇〇「あ、そっか」
少しだけ笑う。
完全にいつも通り。
〇〇「なんか飲む?」
北斗「いらない」
〇〇「りょーかい」
冷蔵庫から水出して、
一口飲む。
そのままソファに座る。
テレビもつけないまま、
なんとなく静かな時間。
〇〇「……もう寝る?」
北斗「好きにすれば」
〇〇「そっちこそ」
北斗「俺もそろそろ寝る」
〇〇「じゃあ寝よ」
立ち上がる。
さっきまでのバタバタが嘘みたいに、
普通の夜。
部屋に入る。
クイーンサイズのベッド。
いつも通りの景色。
〇〇は先に入って、布団を少しだけ引き寄せる。
北斗も遅れて入ってくる。
特に何も言わず、
反対側に潜り込む。
距離はあるけど、
同じベッド。
いつも通り。
〇〇「……電気消すね」
北斗「ん」
スイッチを押す。
部屋が暗くなる。
静か。
隣に人がいる気配だけが、
なんとなく落ち着く。
〇〇「……今日さ」
ぽつり。
北斗「ん?」
〇〇「いろいろあった」
北斗「だろうな」
短い返事。
〇〇「疲れた」
北斗「おつかれ」
それだけ。
でもその一言で、
少しだけ肩の力が抜ける。
〇〇「……ありがと」
北斗「何が」
〇〇「ご飯とか」
北斗「別に」
いつものトーン。
〇〇「でもありがと」
北斗「……はいはい」
少しだけ間。
静かな時間。
〇〇は天井を見る。
暗くて何も見えないけど、
なぜか落ち着く。
〇〇「……ねぇ」
北斗「ん」
〇〇「さっきのこと、忘れて」
北斗「どれ」
〇〇「お風呂のやつ」
北斗「……」
一瞬の沈黙。
北斗「無理だろ」
〇〇「なんで!」
北斗「そっちが勢いよく開けたんだろ」
〇〇「……」
言い返せない。
〇〇「じゃあ思い出さないで」
北斗「それも無理」
〇〇「最悪」
北斗「自業自得」
少しだけ笑ってる気配。
〇〇「……ほんとやだ」
布団を少しだけ引き上げる。
でもそのやりとりで、
逆に空気が軽くなる。
北斗「寝ろよ」
〇〇「うん」
少しだけ目を閉じる。
今日のことがまた浮かびかけるけど——
隣に人がいる安心感の方が、
少しだけ勝つ。
〇〇「……おやすみ」
北斗「おやすみ」
静かな部屋。
呼吸の音だけが重なる。
そのまま、
ゆっくり眠りに落ちていく。
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みぅです🤍🥀 91話、読み終わりました…。 〇〇ちゃんが嶺亜くんにちゃんとお別れを伝えたところ、すごく胸にきました。好きじゃないのにって言いながら、ちょっと寂しくなる気持ち、わかる気がする…。 でも、一番響いたのは、そのあとの北斗くんとの距離感。 「ちゃんと来るだろ」って言いながら、後ろからぎゅっとするところ、、もう…。 言葉にできない気持ちがにじんでて、切なかったです。 続き、気になります。お疲れさまでした🌙