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誰も知らない、高嶺の花の裏側3
第95話 〚振り返りプリントに、書けなかったこと〛
― 澪視点 ―
「修学旅行の振り返りを書いてください」
先生がそう言って、
プリントを配った。
机の上に置かれた紙には、
よくある質問が並んでいる。
・楽しかったこと
・印象に残った場所
・学んだこと
・思い出に残った出来事
私は、
ペンを持ったまま、
少しだけ固まった。
(楽しかったこと……)
金閣寺。
みんなで笑った写真。
帰りのバス。
思い浮かぶものは、
ちゃんとある。
でも――
同時に、
書けないものも浮かんでしまう。
人混みではぐれたこと。
名前を呼ばれて、
逃げ場がなくなった瞬間。
助けてもらったこと。
でも、
安心しきれなかったこと。
私は、
プリントに目を落としたまま、
ペン先を動かした。
「金閣寺がとてもきれいでした」
「班のみんなと回れて楽しかったです」
文字は、
きれいに並んでいく。
でも、
胸の奥にあるものは、
そのまま残る。
(これでいいのかな)
「学んだこと」の欄で、
また手が止まった。
学んだこと。
……何を?
人は、
近づきすぎると、
怖くなること。
守られていると、
安心と同時に、
重さも感じること。
でも、
そんなこと、
ここには書けない。
私は、
少しだけ考えてから、
こう書いた。
「周りをよく見ることの大切さを学びました」
嘘じゃない。
でも、
全部でもない。
プリントを書き終えて、
机に伏せる。
教室を見渡すと、
みんなそれぞれ、
普通に書いている。
海翔は、
少し離れた席で、
静かにペンを動かしていた。
その横顔を見て、
胸が少しだけ、
ぎゅっとなる。
(あの三日間は、
終わったはずなのに)
私の中では、
まだ続いている。
先生が、
「回収します」と言って、
プリントを集め始めた。
紙が手から離れる瞬間、
少しだけ、
不安になる。
書かなかったことは、
なかったことになるのかな。
でも――
ならない。
それだけは、
自分でも分かっていた。
私は、
席に戻って、
深く息をした。
修学旅行は、
思い出になった。
でも、
私の中では、
「これから」を考える
きっかけにもなっていた。
それを、
まだ誰にも、
言葉にしていないだけで。