コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「わあああーー!? こんなの無茶ですよぉぉ!」
「ルティの拳なら問題無いはずだ。頑張れ」
「はひぃぃぃ」
ヘルフラムという女魔導士を逃がしたおれは、ミルシェたちを襲っていた魔法を難なく消した。魔導士の攻撃魔法は解消され、おれたちは鉄扉を開けて墓場《グレイヴヤード》をようやく脱する。
そこまでは良かったが、ミルシェは魔力をかなり消耗し、シーニャは降り注ぐ氷の刃を砕き続けたことによりルティ以外の二人は明らかに疲れが生じていた。
しかしどこかに座って休むほどここが安全な場所とは言い難い。その意味でもとりあえずそのまま歩き続けることにした。
鉄扉を抜けた先の通路は、横並びで歩けるくらい広くて歩きやすい空間。敵の気配も無く穏やかな時間が流れたかに思えたが、どうやら甘くは無かったらしい。
おれたちは境界内のエリアが変わったとされる地点に入る。その途端、どこに隠れていたのかというくらいの人型機械《ディルア》がいきなり大量に現れたのだ。
「――なるほど。これが厄介な境域になるわけか」
「はぇ?」
「エリアの境目のことだ」
この場所のことはサーチを使った時にひそかに見えていた。
ディルアのグレイヴヤードという場所が分かった時だったが、エリア全体の”名称”のようなものだと思って特に気にも留めていなかったわけだが――。
「ウニャ……戦うのだ?」
「ふぅっ、この遺跡は戦いばかりですのね」
「…………二人は休んでていいぞ。こいつらはおれとルティだけでいい」
ミルシェの表情を見ると、何度も同じ魔法を防いで来たことによる疲労が溜まっているようだ。シーニャは同じ動きをしてきたことでだるそうにしている。
二人とは対照的なのがルティだ。ミルシェの所にいたものの、氷を砕いていたのはほとんどシーニャだけだったらしい。そのせいでシーニャは疲れを見せ、ルティだけは体力が有り余っている。
「アック様、アック様! 魔導士をどうして逃がしちゃったんですか?」
「ザームの連中のことを聞いたからだな」
「ええ? 氷の魔法攻撃は止まらなかったのに?」
ルティは特に何もしていないのに随分と食い下がってくるな。ここで彷徨った挙句、おれの偽者と戦い続けたことで拗ねているのか?
嘘でも調子に乗らせた方が良さそうだな。
「……氷を止めたらルティが襲って来ると思っていたかららしいぞ」
「それってつまり、わたしを恐れたということですか?」
「ま、まぁな」
「ふおぉぉ!! それなら仕方が無いですっ! じゃあ片付けちゃいますよぉぉ!!」
おだてたことで気合も入ったようだ。おれたちの前には人型機械《ディルア》が大量に立ちふさがっている。識別番号を見ると、【XV】と記された奴ばかり。
ナンバー自体にどんな意味があるかは不明だが、今のところ脅威は感じられない。
「ルティ! 全て破壊していいぞ!」
「はいっっ!!」
ディルアの動力源もまだよく分かっていないが、魔石が関係している可能性がある。それに、ミルシェが持っていた魔石に反応したのが今後に繋がることになるかもしれない。
それにしても、単純攻撃で突っ込んで来る相手にはルティの拳が最適すぎる。魔法を使ってくるわけでもないし、彼女にとっては戦いやすいはず。
かくいうおれも、魔剣ルストの試し斬りが出来るという意味ではその機会を得られた感じか。
「――無数に刻め!」
ルティの拳とは別に、四、五体で向かって来るディルアに対し、おれは魔剣で斬撃を繰り返す。切れ味を試すには丁度いいということもあるが、避けることも無い相手なだけに物足りなさがある。
「テンソウ、テンソウ……」
ん? 転送だと?
どこかに攻撃データでも送っているのか?
片手剣である魔剣ルストの攻撃力は今のところ驚くような感じじゃない。切れ味に関していえば、フィーサの方がよく斬れる感覚がある。
この魔剣は武器を吸収して成長する剣のようでもあるし、どの敵と相性がいいのかはまだ不明だ。
「とぉりゃああぁ~!」
ルティの方はというと、以前と変わらない破壊力を発揮している。一時的に弱っていたこともあるが、魔石も覚醒したことで存分に振れている感じか。
ディルアの装甲は硬そうな見た目に反して、ルティの拳であっさり破壊されている。恐らく格闘属性に耐えられる作りじゃない。
斬撃は相手を選ばないが、ルティのような格闘属性は相手次第で無双出来る可能性を秘めていそうだ。そうこうしているうちにあらかた片付いたようで、ルティが戻って来る。
「大丈夫だったか?」
「ふぅっ、いい汗がかけましたですっ! アック様は拳を使わなかったんですか?」
「おれは剣があったからな」
「なるほどです~。アック様は色んな武器を使いこなせますもんね」
武器といえばフィーサとはいつ再会出来ることになるのか?
そういえばルティから詳しいことを聞いていないままだったな。
「あー、ところで――」
「うぎぎっ!? ア、アック様、何だか体が痺れてきました……」
「痺れ? どの辺が?」
「はへぇぇぇ……」
あっさり片付いたと思えばルティに痺れが生じるとか、これも遺跡の罠なのか?