「お、おい、ルティ! どこが痺れているんだ?」
「はへぇぇぇぇ……お腹の辺りがぁぁ。アック様、さすってくださいぃぃ」
「な、何? お腹? 罠でも何でもなさそうな……」
おれと違い、ルティは大量の|ディルア《人型機械》を拳に力を込めて破壊しまくっていた。その意味でもどこかに力が入り過ぎたのは間違いなく、一時的に痺れを感じた可能性もある。
見たところダメージを負ったでも無いし、拳を使い過ぎた反動によるものだとしか思えない。
「早く~早く~お願いしますです」
「む、むぅ……」
ルティにしては珍しく、自分のお腹を大胆に見せている。滅多に肌を見せてこないせいか、みずみずしい肌が気になって仕方が無い。
目を閉じてじっと待っているようだが、むしろこの行為が罠っぽい気が。
「……アックさま。ここはあたしが」
何となくルティに惑わされていたら、ミルシェがルティの腹に手をあてた。ミルシェは防御系魔法に長けていて治癒魔法が使えるし、いいのかもしれない。
「あれれれ? アック様!? いつの間に回復が出来るように――えっ!?」
「――フフフッ。あなたに小賢しい真似は出来ませんわよ? ルティ」
「ええぇっ? ミルシェさん!? 何でそれををを」
どうやらミルシェが回復を施してくれたようだ。ルティの様子を見る限り、おれに対して甘えの罠を仕掛けていたことが分かった。
「ルティが何ともないようで何よりだな」
「何てことはなく、ただの仮病に過ぎませんわね」
「はうぅぅ……」
どうやら少しは痛みを感じていたようだが、大したことは無いようだ。ルティに呆れていたら、近くでシーニャが何か言いたそうに立っていた。
シーニャの周りにはおれとルティによって破壊されたディルアの残骸が散らばっている。
何か気付いたことでもあるだろうか?
それにしても見事に破壊されている。ルティの拳の破壊力はただ事じゃないな。
「シーニャ? どうかしたか?」
「アック、アック! 先に進むのだ? ここ、何も無いのだ」
「それもそうだな」
少し休んだおかげか、シーニャは張り切って前を歩き始めた。シーニャが先頭を歩き、おれは彼女のふりふりした尻尾に先導されるようについて行く。
ルティはミルシェに説教されているようで、悔しそうな表情を見せている。ディルアの動力源が何なのか何もつかめないままだが、遺跡を進んで行けば何か分かるはずだ。
しばらく歩き、ディルアの境域を抜けたところで小さな小屋が見えた。遺跡の中を歩いているはずなのに、どう見ても村のような光景がおれたちの行く手に続いている。
人の気配は無く、いくつか見えている石造りの小屋がひっそりと佇んでいるだけだ。人が長く住んでいたというより、逃れるために使われた感じか。
小屋の近くには石碑のようなものが建っているが、何が書いているかは不明。しかし何となく魔石に近い感じを受ける。
「ここは遺跡の中のはずですけど、どうして村が?」
「うーん」
経年劣化なのか刻まれた文字が見えないが、何となく手を触れてみた。
すると――
「最後の……砦、イーク村……?」
「よ、読めるのですか?」
「ああ、何となく魔石っぽいから触れてみたんだが……」
「――! 魔石……素材がそうなのだとしたら、この遺跡から魔石が生み出されたということになりますわね」
ミルシェの言うように、何となくそんな気が。人工通路の魔石もそうだったし、ディルアが反応したのも魔石によるものだった。
「何とも言えないが気になるな」
「それでしたら、ガチャをお試しになっては?」
「……ここでか?」
「ええ。何かを得られるかも」
腰袋にしまってある魔石からは特に何の反応も無い。それでも魔石ガチャを試すことは出来るが。
【精霊結晶の原石】【属性結晶の原石】
【精霊の魔石】【エルフの形見】
出した結果、何やら気になる石が出た――というより、石しか出なかったのは何とも言えない。ルーンが示したのはどれも精霊に関するものばかり。
「何だかすごいモノが出ましたわね!」
「精霊結晶か。勇者たちと動いていた時に出した石だな。その時よりもモノが違うけど」
「あら? その薄汚れた石は?」
ほとんどの石は綺麗な宝石にしか見えない。だが、その中に一つだけ汚れた石が混ざっていた。
「……エルフの形見としか見えてないな」
「精霊に関するものの中にエルフの形見ということは、ここはエルフの村だったのでは?」
「どうだろうな」
最後の砦というのも妙だ。しかしその謎を見つけ出せそうな精霊の魔石が出たのはありがたい。
「アック様、アック様!! そういえば!!」
「何だ、どうした?」
「もしかしたらですけど、わたし、ここを覚えているかもです」
「覚えているってのは?」
そういえばルティがどこから彷徨って来たのか、聞かずじまいだった。不安と寂しさで岩壁を貫いて来たのだろうが、この村だけは破壊せずに来たのか。
「ここを通り抜けた覚えが~」
「通り抜けたって……、その時に誰か見かけたか?」
「それがそのぅ、とにかく色んな所にぶつかりながら進んで来ちゃいまして」
「…………だろうな」
何の答えにもならなかった。
「それで、あなたはどこからここへ?」
「そうでした! 実はですね、ここに来る前に――」
「アック! 矢が飛んでくるのだ!!」
またどこからか攻撃を仕掛けて来たのか?