SHOOTとBUDDiiSと、未来の光へ
東京ドーム公演から、5年が経った。
あの夜、会場を埋め尽くした無数の光と涙に包まれながら、10人が誓った「次の夢」は、いまや世界という名のステージに姿を変えていた。
BUDDiiSは、アジア、ヨーロッパ、北米を巡るワールドツアーを成功させた。
煌びやかな都市のスカイラインを背景に、各国の観客が声を張り上げる。
韓国・ソウルの夜には、照明が雪のように舞い落ちる中でファンが合唱を続け、
パリの歴史あるホールでは、彼らの音に涙をこぼす観客がいた。
ニューヨークのアリーナでは、サビに合わせて虹色に染まったペンライトがうねり、
地響きのようなスタンディングオベーションが、天井を揺らした。
そのどれもが、10人が汗と涙を流しながら積み上げてきた“証”だった。
夢はもはや形を持たない幻ではない。彼らの手の中に、確かに息づいていた。
グループとしての進化も止まらない。
ライブ演出はメンバー主導で企画され、衣装やグッズの一部は自らデザインし、楽曲制作にも全員が名を連ねる。
ひとりひとりの個性は唯一無二の“色”となり、俳優、モデル、音楽プロデューサー、映像クリエイター──さまざまな場面で世界の注目を集めていた。
そのなかでも、SHOOTは静かに、けれど圧倒的な存在感を放ち続けていた。
彼の言葉には重みがあった。彼の歌声には温度があった。
それは決して、完璧であることから生まれたものではない。
むしろ、壊れかけた自分を受け入れたからこそ、彼の表現は誰かの心にそっと届いた。
「強くなったから戻ってきたんじゃない」
「弱さを知ったから、立っている」
──そう語る姿に、人々は自分を重ね、希望を見出していた。
かつて、ステージ裏で涙にくれ、声すら出せなくなったひとりの少年は──
いま、万の声を背に受け、自分の声で人の心を照らす大人へと変わっていた。
それは、奇跡ではなかった。
積み重ねられた時間と、信じ合い、支え合った絆の先に生まれた、必然の光だった。
ドキュメンタリー映画、世界同時公開
東京ドームから世界へ──
BUDDiiSの歩んできた軌跡を余すことなく映し出した長編ドキュメンタリー『The Light We Share』が、ついに完成した。
タイトルに込められた“光”とは、スポットライトのことだけではない。
それは、挫折を知った者が再び前を向くときに灯る、小さくも確かな希望の光。
メンバーたちが交わしたまっすぐなまなざし、ファンが信じ続けた気持ち──
互いに差し出した“信じ合う想い”こそが、この物語を照らしてきたのだ。
映画のプレミア上映会は、ロンドン・レスター・スクエアの歴史ある劇場で行われた。
絢爛なレッドカーペットには、各国のファンや関係者、メディアが詰めかけ、
夜空の下にフラッシュが瞬くなか、10人のメンバーが静かに姿を現した。
その中心で、SHOOTは黒のスーツに身を包み、どこか凛とした面持ちで歩いていた。
スポットライトを浴びながらも、その足取りには不思議な落ち着きがあった。
舞台挨拶の時間──
スクリーンの前に立ったSHOOTは、マイクを持ちながら、少しだけ空を見上げた。
満席の客席が静まり返るなか、彼は変わらぬ穏やかな声で、ゆっくりと語り始める。
「ステージに立つことが、怖かった時期があります。
音も、光も、仲間の声すら、遠くに感じて……
その場にいるだけで、壊れそうだった。」
彼の声は震えてはいなかったが、その静けさには、確かに重みがあった。
観客の多くが息を止めて耳を傾ける。
会場に張りつめた静寂のなか、SHOOTは言葉を続ける。
「だけど……そんな僕を受け入れてくれた人たちがいました。
一度立ち止まった僕を、もう一度“おかえり”と言ってくれた人たちがいた。
だから今、こうして歌えているんです。」
スクリーンに映された彼の姿と、いま目の前で語る彼が重なる瞬間。
その変化は、“生きてきた時間”そのものだった。
「僕は……一度、止まりました。でも、だからこそわかったんです。
人は、何度でもやり直せる。
止まることは、逃げじゃない。
だから今、次は僕が誰かの“再スタート”を照らせる人間になりたいと思っています。」
彼が言葉を結んだ瞬間、一拍置いて──
まるで割れるように、劇場中から拍手が湧き上がった。
その音はまっすぐ天井に届き、歴史ある劇場の空気さえ震わせた。
観客席のあちこちから、涙ぐみながら叫ぶ声が飛ぶ。
「SHOOT!」「ありがとう!」
英語も、日本語も、韓国語も、フランス語も──
言葉の壁を越えて、まるで祈りのように、彼のもとへ届いていた。
その瞬間、SHOOTはほんの少しだけ目を伏せて笑った。
照れ隠しのようなその笑みが、彼の歩んできた全てを物語っていた。
そして、舞台の上に立つ彼の背中は、
かつて恐れた“光”を、もう真正面から受け止めていた。
帰郷、そして未来へ
世界ツアーの合間の、ほんの束の間の休日。
SHOOTは静かに、あの海辺の町へと帰ってきていた。
車を降りた瞬間、潮の香りが懐かしく鼻をくすぐる。
誰もいない早朝の海岸線。
空はまだ朝の眠気を引きずったように、柔らかな水色と、わずかに滲む桃色のグラデーションに染まっている。
空と海の境界が曖昧になり、世界がぼんやりと溶け合っていくその風景は、5年前と何ひとつ変わっていなかった。
波は、静かに、しかし確かに寄せては返す。
リズムはゆるやかで、深く深く、胸の奥に沁み込んでくる。
その音に耳を傾けながら、SHOOTはスニーカーを脱いで、裸足のまま砂の上を歩き出す。
朝露に濡れた砂は、ひんやりとした感触を足の裏に伝えてくる。
乾いた風がシャツの裾を優しくなで、彼の黒髪をふわりと揺らした。
頬に触れる空気が、昔より少しだけやわらかく感じられるのは、季節のせいか、それとも心のせいか。
この場所は、かつて彼が“自分”を見失いかけた場所だった。
すべてを投げ出したくなるほど、疲れ果てていたあの頃。
でも同時に、ほんの少しずつ、呼吸を取り戻していった場所でもある。
泣いて、眠って、歩いて、何もしていない時間の中で、
心が、静かに、静かに修復されていった。
彼は立ち止まり、海のほうへ顔を向けた。
まだ陽は低く、水平線の向こうから金色の光が、そっと波の表面を撫でている。
きらきらと揺れる水面を見つめる彼の横顔に、その光が滲むように射していた。
ゆっくりと目を閉じ、深く息を吸い込む。
そして、空を見上げる。
どこまでも澄んだ青のなかに、遠い記憶と、いまの自分が溶けていく気がした。
そして彼は、小さく、誰に聞かせるでもなく、呟いた。
「……夢って、怖いよな。
でも、やっぱり……いいもんだな。」
その声は風に乗り、波の音にかき消された。
けれど、確かにこの空のどこかに届いている気がした。
ふと、彼は笑った。
決して大きな笑みではない。
けれどその口元には、あの頃にはなかった確かな“余白”があった。
過去を背負ったまま、未来を怖がりながらも、それでも進んでいく。
いまのSHOOTは、そのすべてを抱えて、それでも立っている。
彼は背筋を伸ばし、ゆっくりと歩き出す。
朝の光が、前へ進む彼の影を長く引いていた。
──物語は、まだ終わらない。
静かに続いていく日々の先に、きっと新しい光がまた生まれる。
その光は、これからもSHOOTとBUDDiiSと、そして彼らを信じるすべての人たちと共にある。
コメント
3件
意味が凄く素敵な物語でした!最高です✨