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今日もいつものように、守はスーパーのバイトに向かった。代り映えのない日常。
無機質なレジ台に立ちながら、ただ目の前の仕事を機械的にこなすだけ。
誰とも話さず、周囲の雑談や笑い声にも反応しない。大学生のバイト仲間たちが、
時折こちらを見ながら何かひそひそと話しているのも、気にすることはなかった。
守にとって、この場所はまるで自分が影のように存在しているだけの空間だった。
仕事中、ふと主任に言われたことを思い出す。「藤井、有給が溜まってるだろ。ちゃんと使えよ」
その言葉を思い返し、守は一度ため息をついてから、有給休暇の申請用紙を手に取った。
重い足取りで店長室へと向かい、ドアの前で一呼吸置くと、コンコンと軽くノックした。
「入れ」と店長の声が響き、中に入ると、店長とパートのおばさんが親しげに話し込んでいた。
部屋に漂う雰囲気が妙にくつろいでいて、守はなんとなく違和感を感じながらも、用件を伝えることに集中する。
「店長、有給休暇の申請を持ってきました」と守は静かに言った。
「おう、そうか」と店長は気の抜けた返事をし、申請用紙を無造作に机の上に投げた。
その対応に少し嫌な感じがしたものの、守は特に何も言わず、ただドアの方に向きを変えた。
無言で部屋を出ようとしたその瞬間、ふと背中に何か不快な気配を感じ、つい後ろを振り返った。
そこには、店長がニヤニヤしながらパートのおばさんのお尻に手を滑らせている光景があった。
守は思わず目をそらし、「気持ちわりぃ……」と心の中で吐き捨てたが、表情には一切出さず、
そのまま何事もなかったかのように店長室を後にした。
冷たい廊下を歩きながら、守は自分の孤独な生活とこのバイト先の歪んだ日常に改めてため息をついた。
「何も変わらない。ここでは自分はただの空気だ」と、心の中で呟きながら、仕事に戻るため、足を重く引きずった。
守がレジに戻ると、パートの金子さんが近寄ってきた。「藤井さん、田中さん見なかった?」と聞かれる。
守は思わず口を開きかけた。「田中さんなら……」と言いかけたが、
すぐに言葉を飲み込んだ。店長に尻を触られているなんて、言うわけにはいかない。
あの二人がどういう関係であれ、自分には関係のない話だ。
「さあ、見てないです」と、守は軽く首を振って答えた。
「困ったわねえ、すぐ商品を出してほしいんだけど、藤井さんお願いできる?」
金子さんはため息をつきながら言った。
「は、はぁ……」と守は答えたものの、内心は複雑だった。パートのおばさんをかばったせいで、
余計な仕事が自分に回ってきたのだ。守は心の中で舌打ちをした。(っち、ついてないな……)
渋々、倉庫へ向かうと、思いがけない光景が目に飛び込んできた。
そこには、紗良がいたのだ。脚立に登って棚から商品を降ろしている。
紗良の姿に驚いた守は、一瞬、言葉を失った。
紗良は守に気がつき、柔らかく微笑んで声をかけてきた。
「藤井さん、田中さん見てませんか?一緒に商品出すように言われているんですけど」
「あ、えっと……」守は戸惑いながら返答を探した。
これまで挨拶程度しか交わしたことのない紗良に話しかけられて、
心臓が少し速くなるのを感じた。(田中さんの尻のおかげで、まさか紗良ちゃんと一緒に仕事ができるなんて!)
「田中さんは……」と、守がようやく口を開きかけたその瞬間、大学生のバイト・佐々木が倉庫にやってきた。
「紗良ちゃん、大丈夫?僕が手伝うよ」と言って、脚立に登っている紗良のそばに立つと、
親しげな態度で彼女に声をかけた。
「紗良ちゃん、危ないから僕が下で押さえておくね」と言いながら、
佐々木は脚立ではなく、紗良の足に手を伸ばした。
守はその光景に唖然とし、心の中で叫んだ。(おい、こいつ、どこ触ってるんだよ!!)
怒りが込み上げてきたものの、守はその場で動けずにいた。
普段から自分の存在感が薄いことを思い知らされながらも、
目の前で繰り広げられる状況をどうすることもできない自分に、無力感が押し寄せてきた。
佐々木は守に気づくと、ニヤニヤしながら声をかけてきた。
「藤井さん、ここは俺が手伝うからもういいっすよ。」
守は戸惑いながら、「い、いやでも……」と口を開くが、佐々木はその言葉を遮るように、
「いいって言ってるだろ」と睨んできた。その態度に、守は一瞬言葉を失った。
その時、紗良が脚立の上で少しバランスを崩した。「大丈夫?」と言いながら、
佐々木はすぐに紗良の両足に抱きつき、「しっかり押さえててあげるからね」と太ももに顔をうずめる。
守はその光景に驚愕した。店長の趣味で、女性の制服は短いスカートだった
紗良は見えないように短パンを履いていが、そうゆう問題ではない
佐々木は紗良の太ももにしっかりと顔を埋め、まるで楽しんでいるかのようだった。
紗良は困惑した表情で、「さ、佐々木さん、商品が取れないから……」と遠慮がちに言ったが、
佐々木は「う、うん」と生返事をしながら、まるで興奮しているような様子だった。
守は内心で叫んだ。(コイツ、紗良ちゃんの足で興奮してる……!)
紗良は再び「佐々木さん、もう大丈夫ですから」と声をかけたが、
佐々木は「んふーんふー」と鼻を鳴らしながら、さらに太ももに顔を擦りつけるようにしていた。
「い、いや……」紗良が明らかに嫌がっているのを目の当たりにし、
守は胸が痛んだ。(よ、よせ、佐々木……紗良ちゃんが嫌がっているだろ……)
しかし、守の体は動かなかった。紗良がこんな目に遭っているのに・・・
昨日のゲームの光景が頭をよぎる。あの不気味な触手に絡み取られ、何もできずに抵抗もできなかった、
あの恐怖が蘇る。守はゴクリと唾を飲み込んだ。「や、やめ……」
その瞬間、勢いよく倉庫のドアが開いた。天城が鋭い目で佐々木を睨みつけ、
彼を力強く引き離した。「何やってるんだよ、佐々木!!」と怒鳴る。
天城の登場に、倉庫の中は一瞬で静寂に包まれた。佐々木は驚き、
「なんだよ、手伝っていただけだろう!!」そう言うと
恥ずかしそうに倉庫から走って出ていった。
紗良も安堵の表情を浮かべ、守はその光景を呆然と見つめることしかできなかった。
天城はすぐに紗良に向かって言った。「紗良、商品なら俺が取るから、もう戻って。」
紗良は少しほっとした表情で、「うん、ありがとう」と小さく頭を下げ、その場を去っていった。
倉庫に残ったのは、天城と守だけ。天城が冷静に守を見つめる。
「守さん、紗良が嫌がっているのに、どうして助けなかったんですか?」
その言葉が守の胸に重くのしかかった。言い返すことはできず、
ただ口を閉ざしたまま視線を落とすしかなかった。
天城はさらに続けた。「ただ見てるだけだったら、あいつらと一緒ですよ。」
その言葉はまるで、鋭い刃のように守の心に突き刺さった。天城の言葉は正しい。
紗良が嫌がっているのを目の前で見ていたのに、自分は何もできなかった。
ただ傍観していただけだ。守の胸の奥に、自分の無力さと情けなさがずっしりと沈み込んだ。
天城は守の沈黙を見て、少し戸惑った表情を浮かべ、
「あ、すみません。生意気なこと言っちゃって……」と、気まずそうに謝ってきた。
守は心の中で叫んだ。(いや、君は何も悪くない。悪いのは僕だ。君の言う通り、僕はただの見ているだけの無能だ。)
しかし、コミュ障の守は言葉にすることができず、
ただ天城に向かってその思いを目で訴えた。天城は一瞬困惑した表情を浮かべたが、
すぐに笑顔を作り、「さあ、商品出しちゃいましょう!」と明るく言って、作業に取りかかる。
守も仕方なく作業に戻ったが、心の中では天城への尊敬が芽生えていた。
(天城っていい奴だな。こんな僕にも気を使ってくれるなんて……)
その気持ちを抱えながら、守は無言で商品の整理に取り組んだ。
作業は黙々と続くが、守の心には少しだけ、いつもと違う感情が灯っていた。