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ジェニが「ハイヒールの君」と運命的な出会いをしたことは、メビウス本社でここ一番のゴシップになっていた
そして、噂は尾ひれを付けて「ハイヒールの君」はとてもロマンティックで、王子様のようにジェニに片膝をついて、ガラスの靴を指し出したという噂が流れたかと思ったら、いや、それはガラスの靴ではなくて、彼はルブタンのショップにジェニを連れて行って、ハイヒールを購入して、ジェニに履かせたという噂だったり、彼は実は御曹司だったと言ったりしたものもあった
いずれも噂は、少なくても男女が初めて出会う、運命的なシーンの10のパターンに当てはめられて、あちこちに噂は飛び交った
そして自然と人々の注目は・・・ジェニとハイヒールの君の初デートはいつになるかという所に集まっていた
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双子の受付嬢(キキとララ)の姉キキが黒板を引っ搔いたような甲高い声で言った
「でも「ハイヒールの君」は、仕事に私生活を持ち込む悪癖が少しあるのよ、ジェ二ちゃんは出会って三週間で、二回デートの予定を、彼の仕事の都合でキャンセルさせられてるわ!二回もよ!」
妹のララが言い添える
「だから、まだジェニちゃんは初デートしてないの!」
受付カウンターで藤子がもたれて彼女達を見つめて言った
「最初の頃は、彼があまりにも早くジェニとインスタを交換したから、彼は女好きで、世慣れた人かなと・・・私も警戒していたんだけど・・・」
「ジェニさんも男が仕事に打ち込む大切さは理解しているよ、彼女もそうだからね、だから一度会ってみて自分の気持ちと向き合ってみたらと、僕は言ったんだよ、ずっとSNSでやり取りばっかしてないでさ」
藤子の横で文也が答える、うんうんと双子と藤子が首を振る、姉キキが割って入る
「最初のデートでは、お泊り道具は持って行った方がいいと、私はアドバイスしたわ!」
すかさず受付嬢妹が付ぎ足す
「あら!私は持って行かないほうがいいと言ったわ」
珍しく双子は意見が割れたのでキョトンと見つめ合った
「急に彼とお泊りになった時に、髪を洗わない選択肢なんか無いわ!」
姉が手をヒラヒラとして自分の意見を言った
「ああ~わかるな、僕も出張に言った時、ホテルのシャンプーが合わなかったら最悪だよな、なんかどこのホテルのシャンプーも髪がバシバシになるんだよなぁ、あれ絶対水で薄めているよな」
文也が顎をさすりながら姉に同意した、目を閉じて色々思い出しているみたいだ
「コンビニで買えばいいじゃない、そんな初めてのデートでお泊りセットを入れた大きなバッグは恥ずかしいわ」
藤子が言った
「いつも使ってるヤツの方が、好きな人とのお泊りは良くない?」
「朝起きた時に、髪が鳥の巣になってる所を見られても気にしないのならいいけど、まとまるトリートメントじゃないと・・・」
「お試し用は?」
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数メートル先の喫煙室で竜馬が受付の4人をジト目で見つめていた、ガラス張りの喫煙室からは、受付の4人が見えてもここは死角になっているので、彼らからは竜馬は見えない
―なんだなんだ、あいつら!仕事もしないでピーチクパーチクさえずりやがって―
いっきに胸のムカムカが酷くなる、竜馬はもう一本、胸ポケットからタバコを取り出して火を付けた
「ハイヒールの君」とジェニの噂はメビウス中の社員誰もがそれを話題にしているので、当然竜馬の耳にも入って来ていた
そして誰もがジェニとその女物の靴フェチ野郎の恋を応援しているのが気に入らない、ろくでもないヤツかもしれないのに
竜馬は髪を掻きむしりたい気分だった、だがジェニのせいでハゲができたら彼女への怒りが倍増するだけだ、煙を吐く速度が俄然早くなる、このままでは肺がんになるかもしれない
ボソッ「社長・・・社長・・・」
その時、竜馬のいる喫煙室のすぐ目の前にある守衛室の小窓から手がにゅっと出て来た・・・その手は竜馬にむかって「おいでおいで」と手招きしている
なんだろう?・・・と訝し気に竜馬が守衛室のドアを開けると、佐々木(59歳初孫持ち)が紺色の守衛制服で、ニコニコしながら隣の椅子に座るように促して言った
「ここの方が、よく聞こえますよ」
なるほど、ガラスで覆われた喫煙室より、文也達の声が守衛室まで良く聞こえた、藤子が言う
「ジェニが言うには、ハイヒールの君は、それはそれは連れて歩くにはかなり見栄えがする、イケメンらしいわよ」
双子がうっとりする
「イケメン!」
「見たぁい(はぁと)」
「でも・・・人柄という点を考慮するとどうなんだろうな?彼は二回もデートをキャンセルしてるんだろ?いくら仕事だといっても、僕なら気になってる子なら、埋め合わせするなり、ご機嫌を取るけどな」
と文也が藤子の腰を抱くと、藤子に「人前ではダメよ」とペシンとやられる
「だから、次のデートでジェニもそこらへんを見極めるつもりでいるわ、ジェニも27歳よ、そんなに時間をかけてゆっくり遊びのような恋愛をするつもりはないって言ってたから」
「ハイヒールの君を採択するか、却下するか、決めるのね!」
「そうよ!一度会えばわかるわよ」
双子が顎の前で両手をグーにする、仕草も何もかも息がぴったりだ、文也が腕を組んで言った
「でも、いつ会うんだろうね?」
「そこなのよ!」
4人はう~んと首をひねった
竜馬は4人の話を聞いていて、その「ハイヒールの君」は信用できない相手の様に思えた、彼女と会って二回もデートをキャンセルしたことが気に入らない
男たるもの、約束したことを簡単に覆すなら、初めから約束などしない方がいい、相手との信頼関係が結べないじゃないか
それにジェニにもムカついた、そんなに何回もデートをキャンセルされるなら、自分は大事にされていないと判断し、さっさとソイツと縁を切るべきだ
ムカムカして黙って聞いていたら、すっと横から玄米茶が差し出された、竹のコースターに黄金色に光った金縁のグラスには、水滴がついていた、よく冷えていて旨そうだ
タバコを沢山吸ってイガイガしている喉にはたまらない、竜馬はそのお茶を啜った
ズズッ・・・「うまっ・・・」
香ばしくて良く冷えていた、竜馬はこれから毎朝はコーヒーよりも、これにしようかと思った
「速報ですけどね」
隣に座っている佐々木が、とりとめもなく話し出した
「(アビアンテ)という梅田第三ビル30階のイタリアンバルらしいですよ、「ハイヒールの君」との初デートですからね、おしゃれな所で、お互いの事をゆっくり語り合うのには、最適な場所だそうです。インスタとやらで一番人気の所に、奇跡的に予約が取れたそうですよ、さっきジェニさんご本人がここに立ち寄った時に、私に話してくれたので確かな情報です」
しばらく二人の間で沈黙が漂った・・・
「今夜8時です、いよいよご対面ですよ」
佐々木が竜馬の方を見ないで、独り言のようにつぶやいた、そして観葉植物に鼻歌を歌いながらせっせと水をやっている
竜馬がコトンと玄米茶をテーブルに置いた
「お茶・・・ご馳走様でした、美味しかったです」
「いえいえ」
佐々木はニッコリ竜馬に笑った
「またいらして下さい」
コメント
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第82話、読み終えました!社内の噂話ってああやって尾ひれがつくんだなあと、双子の受付嬢や藤子さんたちの会話がすごくリアルで思わず笑っちゃいました。特に「お泊りセット持ってく派vs持ってかない派」の論争、めっちゃわかります…笑 それにしても佐々木さん、情報通すぎる(笑)。「今夜8時、アビアンテ」ってポロッと教えるところ、絶対わざとですよね?竜馬がどう動くのか、気になって仕方ないです。続きが楽しみ!
#溺愛
桜咲かな
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