テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第九章:封印の代償
その瞬間、空の色が変わった。
塔の崩壊したことで世界がきしむ。
大地が震え、空が歪み、周囲の草木が焼けるように枯れていく。
塔の残骸から、青白い光の柱が空へと突き抜けた。
「……ねえヒイロ…ボクどうしたら…」
ルナの声は、震えていた。
その顔は、混乱しているのか虚ろな表情だった。
そして。
──カチ……カチ……カチ……
耳鳴りのような異音が、空気に混じった。
「……な、に……これ……」
ルナが胸元に手を当てた瞬間だった。
パリィンッ……!
「……っ、あ゛──っ!!」
裂ける音。砕ける音。
彼女の体の内側から、何かが“崩れて”いた。
「ルナ……!? ルナッ!!」
ヒイロが叫ぶ。
その目の前で、ルナの肌の下が青く光り始めていた。魔力が、まるでガラスのように結晶化していく。
「や、だ……っ……体が……苦しい……! 痛い……痛いよ……!!」
結晶化した魔力がルナの体を内側から引き裂いていく。
「これは……まさか……術式……!? 塔に……!」
ヒイロが駆け出す。
だがその瞬間、複数の黒い影が彼を押さえつけた。
「やめてっ!! ルナが──!! ルナが死んじゃう!!」
「……“塔を壊した魔女”に備えた、旧世界の防衛術式だよ。トール様の予想通りというわけだね」
魔女のひとりが、淡々と告げる。
その後ろからあの声が聞こえる。
「魔女の魔力を強制的に結晶化させ、肉体の内側から破壊する。あの塔にだけは、まだ“保険”が残されていたんだ」
ヒイロは、目を見開いた。
「っ、トール!! なんで、こんなこと──!!」
そして──
その声に応じるように、静かに黒い霧が現れた。
「……見苦しいね、ヒイロ」
トールがそこに立っていた。
冷たい目。微笑みすら浮かべずに。
「だが、君はよくやったよ。三つすべての封印を解く手助けをしてくれた」
「……ッ!!」
「だからお礼だよ、お前だけは殺さないでやろう。
ただ、君にはこれから“我々の新しい世界”をよく見ておいてもらう」
ヒイロの足元から、魔法陣が広がる。
重い拘束術式が展開され、彼は完全に動けなくなった。
「……ルナは……!!」
視線の先。
ルナは、最後の一声をあげるように、ヒイロの名を呼んだ。
「──ヒイ、ロ……」
彼女の瞳から、一筋の涙が流れる。
次の瞬間──
ルナ血を吹きだして動かなくなる。
「…………っっっっ……!!!!!」
声にならない悲鳴。
ヒイロの中で、何かが崩れた。
彼女が、目の前で。自分のすぐそばで。
“魔女としての罪”に押し潰されるように、死んでいったのだ。
その直後。
「進軍開始だ。まずは南方の人間領、王都を崩す」
トールの命令に、魔女たちが一斉に空へ舞い上がった。
──そしてヒイロは、そのすべてを見た。
空から降り注ぐ炎。
人の悲鳴。家々が崩れ、子どもたちが逃げ惑い、兵士が焼き尽くされる。
ルナが命をかけて「なりたかった」魔女。
その本当の意味が、これだったとしたら──
この世界は、もう、戻らない。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!