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「……う、ぐ……菊……耀……助け……」
アルフレッドの声が、一瞬だけ人間に戻った。
赤く濁った瞳に、確かに涙の光が浮かんでいた。
「聞こえたアルか!?まだ戻れる!」
王耀が叫ぶ。
その刹那、菊の結界が淡く震え、青白い炎がアルフレッドの身体を覆った。
「……人の魂が、まだ核に残っています」
「だったら――救えるはずアル!」
菊はさらに御札を投げ、核を封じようと両手を組む。
王耀も退魔刀を掲げ、妖を切り離す準備をした。
しかし。
「……はは、はははは……」
アルフレッドの口元が、醜悪に歪んだ。
次の瞬間、炎を喰らうようにして、妖気が爆ぜた。
「クソッ!?結界が破られたアル!」
「……完全に……堕ちたのですね」
目の前にいるのは、もうアルフレッドではなかった。
人の声を模した嘲笑を響かせ、牙を剥くただの妖怪。
友の魂は、闇に喰われ尽くしたのだ。
⸻
【祓い】
「菊!」
「……心得ています」
短い言葉の後、二人は動いた。
王耀が正面から斬りかかり、巨腕を弾き飛ばす。
その一撃で僅かな隙が生まれる。
「今!」
菊の御札が飛び、妖の核を縛る鎖と化す。
青白い光が地面から立ち上り、逃げ場を塞いだ。
「……すまないアルネ、アルフレッド」
王耀は刃を構え直し、低く呟く。
「お前を救えなくて……」
退魔刀が閃いた。
妖の核を貫き、闇を引き裂く。
咆哮は夜空に消え、残されたのは崩れ落ちた人の躯。
そこに生気はなく、ただ静かに眠るかのようだった。
…..
菊は御札を握りしめたまま、長く目を閉じていた。
「……救えそうだったのに」
「アル……最後に確かに俺たちを呼んでたアルよ……」
王耀の声も震えていた。
だが涙は見せない。ただ、刃を鞘に納め、背を向ける。
「……行くアル。まだ、これで終わりじゃない」
「……ええ」
二人は並んで歩き出す。
仲間を祓った痛みを背負いながら。
その夜、陰陽庁の記録に「特級案件:祓済」とだけ無機質に記された。
だが――心の中の傷は、決して祓うことはできなかった。