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美香さんにも白鳥さんにも、お見合いしたことも強制的な結婚のこともなにも伝えていないので、お爺ちゃんの発言は大問題だ。
美香さんなんて面白がって色々聞いて来るに決まっている。
「お仕事中だから、あと二時間ちょっと待ってランチしよう。ね?」
「じゃあ映画で時間潰すか。終わったら電話してくれ」
おじいちゃんは、人生を謳歌してはじけてしまっているが、憎めない可愛いところもある。
威厳ある真面目なおじいちゃんも好きだが、おちゃめで私服が酷いところは可愛いと思う。
お店から出てすぐにタクシーを止め乗り込んだ姿を、美香さんと二人で眺めた。
「すごい。やっぱ写真と実物って全然違うよね」
「そう。でもおじいちゃん、可愛かったでしょ?」
「ま、あ。面白そうね」
言葉を濁した美香さんに首を傾げつつも、私も甘やかすつもりはないのだと決意する。
経営が悪い今、派手で華美な行動は社員たちの不安を仰がないのかな。
従兄弟も数人、うちの歯科で働いているはず。
昼過ぎ、休憩をもらい美香さんのおススメのカフェに行った。
ポルトガルの街アゲダで夏に開催される、街中にカラフルな傘を設置し万華鏡の中にいるような錯覚が起きると話題になった景観。
それを再現するかのように天井に青空を描き、色鮮やかな傘が天井に設置されている。
カフェの至る所で写真撮影や天井を写めに収めている女性客であふれかえっていた。
「ここ、クリームパスタが美味しいらしいぞ」
「詳しいね、おじいちゃん。じゃあ、私、海老トマトの生クリームパスタにする」
「おじいちゃんは、リゾット。テーブルまで来て、チーズを削ってくれるんだと」
パスタを薦めたのに自分は食べないあたり、お爺ちゃんらしい。
「で、今日は仕事場までわざわざどうしたの?」
3Dカフェラテアートにウサギをリクエストしたら、縁に手を置きこちらを見上げるウサギが届いた。これは流石に私も写メを撮ってしまった。
「いや、お前たち、結婚式しないって聞いたから。今は地味婚が流行りなのか?」
「あー……っと」
「せめて新婚旅行ぐらい行かないか? じいちゃんお祝いに全額出すよ」
自分が海外旅行にはまったので、孫の私にも体験しようってことらしい。
一応結婚したとは互いの親に言っておきながら、色々あってまだ婚姻届けは家の引き出しの中。
「私も彼も仕事の休みが合わないの。だからもし合えば、いつか行くから」
「そうか。じゃあお前の口座に振り込んでおくから」
「旅行費用もいらないよ。経営が苦しいときに私だけ楽はできない」
おじいちゃんはもうとっくに退職しているので、祖父の栄光に縋って努力を怠った親戚たちが悪いのかもしれない。
でも、だからと言って、たださえ他の親族とは違って専門学校しか出ていない私がさらに祖父のお金を使うのは気が引ける。
「ん? うちの歯科、経営が苦しいのか?」
しかも祖父には告げていないらしい。
それはそうか。言ってしまえば、老後を楽しんでいる祖父の邪魔をしてしまう。
一代でここまで築き上げてきた祖父が哀れだ。
「いや、シンボルであるお爺ちゃんがいないなら、大変じゃないのかなって」
「ははは。順調順調。お前の従兄弟たちは優秀だぞ」
「……そうなら、いいんだけど」
冷や冷やする。私が祖父にばらしたら、どんな火が起こるのか分からない。
「お前が心配することはなあんもない。借金は一昨年返し終わってるし、去年は年商も大幅アップしている。心配なら、見せてもいいぞ」
「えっ」
「じいちゃんがついつい最新の医療機器を購入してしまうがの、そんなんいつも数年で元がとれてる。一矢くんのおじいさんとツーカーだからね。あっちが新しいことすれば、じいちゃんもつい新しいものの手を伸ばしてしまう。嫁や息子の嫁からしたら、ハラハラだろうが結果は出してきてる」
祖父は自分の仕事に自信と誇りがあるからこそ、今の状況を知らされていない。
感づいていても、信じられないのかな。
ちょっと驚いたけど、ここはもう濁すしかない。
「それより、じいちゃん、華怜の純白のウエディングドレス見たいなあ。見たいなあ」
「えー……」
「まあ、華怜は芯がしっかりしていて頑固だから、お前の母親と一緒。絶対にじいちゃんの意見に譲ってくれないんだよねえ」
しゅんっと項垂れたふりをして、下を向く。
が、しっかりと携帯を見ているのには気づいている。
全く。油断ならない。
「ってなわけで、もうすぐ一矢くんがここにくるよ」
「はいは――は?」
「今すぐ来いって、怒ってるふりしたから飛んできてるよー」
砂原 紗藍
#再会
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