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砂原 紗藍
#再会
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「そんなの、急に言ったら彼の迷惑になるじゃない。一矢くんの肩書を知ってるでしょ」
「もう自分の孫のようなものだ。会って何が悪い」
実はまだ孫ではないと言ってやりたい。
「ほれ、昔、小僧だった時に髪を切ったんだろ? 傷害で被害届を出すとお前の母の玲華が息巻く中、じいちゃんが説得したんだぞ」
「だからって。彼だって忙しいのに――」
すぐに携帯で無理に来ないよう連絡を取ろうとした。
カバンから携帯を取り出そうと横を向くと、タクシーが店の前で止まるのが見え、そこから慌ただしく出てくる一矢くんの姿が見えた。
本当にまじめな人だ。少し前に、お昼のお弁当を一矢くんの分も作ろうかって提案したら『ゆっくり食べる時間がないし勿体ない。あと会食が入る場合もあるし』と残念そうに断っていた。
ゆっくりできないお昼に、わざわざこんな場所まで来てもらうなんて申し訳がない。
「忙しいのに、華怜のためなら駆け付けると。ほうほう中々じゃないか」
「おじいちゃん」
おじいちゃんが頼んだリゾットと彼が席に到着するのがほぼ同時だった。
「すみません。遅くなりました」
「一矢くん、本当にごめんなさ――っ」
「ほーい。お土産じゃよ。シンガポールのマカデミアナッツ」
私が喋るのを遮るかのように、大衆向けのお土産を彼に差し出していた。
「わあ、行かれたんですね。いただきます」
「それ私ももらったから。二つも食べきれないから」
「それそれ、じいさんの傲りだ。なにか食べなさい」
「いただきます」
爽やかに笑う一矢くんからは、忙しさとか慌ただしさもない。
仕事が多忙なことも、きっと抜け出したことも心配させないように徹底して隠している。
それが社会人として普通なのだとしても、申し訳なかった。
「すみません。このメニューの中で比較的早くできるのはどれですか」
ウエイトレスさんを掴めて、メニューを広げ尋ねる。
するとランチセットを薦められ、彼は私に微笑みお礼を言うとそれを注文した。
私も視線で謝る。おじいちゃんはこんな気まぐれで振り回すってことを伝えておけばよかった。
「ほうほう。お互いのことを気遣う姿は、流石だねえ。すっかり夫婦じゃな」
「なっ」
「いやあ、隠しても分かっちゃいますかあ。ははは」
一矢くんの発言は、まあおじいちゃんに合わせてくれてるとしても、夫婦としては私たちは何も機能していない。
「これ聞いたら、今の時代、セクハラになるらしいけどお、孫まだ?」
「おじいちゃん!」
セクハラではないかもしれないけど、でも今、この状況でそんな話、やーめーてー。
「はは。それは華怜としっかり話し合いますよ」
「えー? まだ話し合ってないのお」
「急いで結婚したから、今は二人の離れていた時間を埋めたいなって」
一矢くんも、どうしたの。なんで惚気ているような様子で話すの。
祖父には何も心配かけたくないって考えなら、私も大賛成なのに。
「どうしたの? さっさと食べないと冷えるよ」
「えええ」
気づけば私のパスタも運ばれている。
一矢くんは腕時計を確認することも携帯を見ることもせず、優雅に話をしてくれていた。
おじいちゃんの相手も全く苦になっていない様子。
「新婚旅行は、豪華客船クルーズもいいですね。そんなに休めるならば、だけど」
「まずは旅行よりマンションですね。将来的に子どもができるならもっとアットホームな家に引っ越したいです。あそこは子どもがいる家庭が購入するようなマンションでもないですし」
「結婚式はぜひ! 華怜は綺麗ですからドレスは何でも似合いますよね」
もうやめて。やめてくれ。私は恥ずか死ぬ。
おじいちゃんのチクチクした攻撃に爽やかに、悪気もなく真っすぐに返事をする。
それがさらにおじいちゃんに火をつけて意地悪は質問ばかりな気がする。
「中学時代の件は、じゃあ全くもう二人は水に流してるんだね」
「はい。当時はご迷惑おかけしました」
「大変だったよお。玲華ってば弁護士付けて徹底的にこの件に関わった人間を処罰するとか言い出してさあ。実際、弁護士が三人、動いていたしね。確かに華怜の髪は綺麗だったけど、ねえ」
「本当にあの時はすみませんでした」