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皆さんごきげんよう、レイミ=アーキハクトです。
ガズウット元男爵の尋問と始末も無事に終わり、暁は戦力の再建のため黄昏の開発を推し進めています。
この半年間、戦いが続いて暁の戦力は著しく低下していますからね。再編成を行いより組織を強化するためには時間が必要です。
お姉さまはライデン社から要請されていた工場の建設を許可して、黄昏単独での兵器開発、生産力の向上を計っています。
またお姉さまはライデン会長が個人的に要望した土地、おそらく飛行場建設のための用地確保を急がせています。
兵器開発に熱心な会長のことです。既に機体の設計は完了し、石油の入手を待つばかりのはず。
航空機の登場は、それまでのあらゆる軍事ドクトリンを一変させる衝撃を世界に与えました。
これまで二次元の戦いであったものが三次元の戦いとなり、制空権、防空の概念が生まれたのです。
戦場に登場した航空機は偵察機から始まり、敵を攻撃する爆撃機、爆撃機を迎撃する迎撃戦闘機、爆撃機を守る護衛戦闘機、魚雷を積み込んだ雷撃機など多種多様な進化を遂げて戦場に無くてはならない兵器へと躍り出たのです。
その究極系が戦略爆撃構想。敵部隊ではなく敵国の心臓部、すなわち工場等の兵站拠点を直接攻撃する構想です。
いかに屈強な兵士でも武器弾薬が無ければ戦えません。戦略爆撃とは敵の兵士ではなく、敵の戦う力そのものを奪う戦術。
そして、その結果が都市爆撃です。日本人からすれば大戦中の非戦闘員を狙う無差別爆撃による悲惨な結果は誰もが知るところ。
ライデン会長はそんな危険性を孕んだ新しい概念の兵器を帝国に与えようとしている。数百年は先の概念を。
そしてこの世界の国家は基本的に覇権主義国家であり、戦争に対するハードルが地球より遥かに低い。
人権などの概念も無く、民草を巻き込む凄惨な戦いも躊躇無く行うでしょう。
今の帝国にこんなにも便利な|兵器《オモチャ》を与えればどうなるか。下手をすれば地球以上に凄惨な事になるかもしれません。
ですが、そんなこと私の関知するところではありません。重要なのは、この兵器開発がお姉さま支援の下行われると言うことです。
新しい技術や概念に対して一切抵抗がないお姉さまが航空機の可能性を知ればどうなるか。非常に楽しみではあります。
迷わず都市爆撃を選択したら流石に止めますが、これ迄に無い概念の兵器を手に入れれば、暁はあらゆる面で絶対的なアドバンテージを得られます。
「レイミ、考え事ですか?」
「お姉さまの事を考えていました」
「奇遇ですね、私もレイミの事を考えていました」
夏の日差しが強い昼間、私達姉妹はお揃いのワンピース姿で黄昏の町を散策しています。抗争が集結したからか、町を行き交う人々にも活気があります。
ライデン社の工場を初めとして、黄昏では更なる人口増加に伴い住宅などの家屋建設やインフラ整備の工事が大々的に行われ、工事従事者を相手にした商人達も出入りし商業を活性化させています。
この税収が暁の資金となる。オータムリゾートにはまだ及びませんが、既に資金力だけなら『会合』に属する組織並みの規模を誇ります。
そこにライデン社の革新的な技術力が加われば、向かうところ敵無しの組織となるでしょう。
もちろん帝国内部でもライデン社を模範する企業が次々と現れていますが、追い付くことは不可能でしょう。
少なくともライデン会長の頭には今後数百年の兵器、工業発展の歴史が詰まっています。
ただ、問題があるとするなら。
「レイミ?」
「いえ、暁の今後を考えていました」
「何か意見がありますか?」
「せっかくライデン社を抱え込むのです。資源も自前で用意できればと考えたのですが……」
ゴムの木に似た特性の木は既にあり、量産することは容易い。
ただ、帝国にある金山、銀山、銅山は全て政府が管理している。実質的には貴族ですが、彼らが独占しています。
良質な鉄鉱石の採掘地もです。これでは近代化を計れません。
「ほう、資源ですか。流石に金などを生み出すことは出来ませんよ?」
「お嬢にも出来ないことがあるんだな?」
「たくさんありますよ、ベル」
「では、願ってみては?」
「願う?」
サリアさん曰く、『大樹』はお姉さまの物理的な願いを叶える特性があるのだとか。
「はい、『大樹』にお願いしてみましょう」
「それ、サリアさんにも言われましたよ」
「お願いするだけならタダですよ、お姉さま」
ちょうど『大樹』の下に来ていますからね。ついでです。
個人的には『大樹』の力がどんなものか試したくもあります。
「レイミがそう言うなら、試してみましょうか」
「ありがとうございます、お姉さま」
お姉さまが半信半疑のままお祈りをした。『大樹』が僅かに光ったように見えたけれど、気のせいかしら?
翌日、私は何気無しに黄昏の近くにある川へと足を運んだ。護衛として衛兵が数人ついてきた。
まあ、お姉さまが狙われている以上妹の私も危ないと判断されたみたいね。
河川に辿り着いた私は、川の侵食で剥き出しになった断層に視線を向けて……後悔した。
「しっ、|縞状《しまじょう》|鉄鋼床《てっこうしょう》!?」
縞状鉄鉱床とは縞模様が特徴的な鉄鉱石の鉱床。大量の鉄鉱石を含んでいる地層で、地球でも大半の鉄鉱石がこの地層から採掘されています。言ってしまえば鉄をたくさん含んだ地層です。
「以前はここにこんな模様があった!?」
「いっ、いえ。こんなもの先日の巡回では確認しておりません!」
慌てて衛兵に尋ねると、彼は首をかしげながら否定した。
ロウの調べだとこの辺り一帯は『大樹』の影響範囲に入ってる。
そして、定期的なパトロールでこの地層は確認されなかった。
鉱物資源は永い年月をかけて形成されるものだから、急に現れるなんて事はない。
これが『大樹』の力!無茶苦茶じゃない!お姉さまが願えば何でも叶えると言うの!?
「直ちに調査隊の編成を!私はお姉さまに事態を伝えてきます。
それと、ドルマンさん達にこの場所を伝えてください!」
「はっ!」
この規模なら鉄の自給自足が可能になる。近代化に鉄は必要不可欠。いや、大量に必要になる!
レイミの報告を受けたシャーリィはロウと相談し、直ちに『大樹』の影響下にある周辺を調査するように命じた。
河川では大量の縞状鉄鉱床が発見され、精製するためのライデン社の技術を投入した大規模な炉が建設される運びとなる。
ただ残念ながら周囲に山は存在せず金山などを確認することは出来なかった。
「鉄を自給自足出来るなんて……お姉さま、『大樹』は凄いですね」
「危険でもあります。乱用は控えないと」
誰もがその恩恵を歓迎する中、姉妹だけはその危険性に気付き『大樹』に関しては慎重に対処する事となる。